新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、「東京一極集中を見直して、地方で働こう」という機運が高まっています。「地方創生」を掲げる政府も、そうした動きを本格的にサポートする方針で、来年度から、地方に移住してテレワークで働く人や、地方でIT関連事業を立ち上げる人を経済的に支える仕組みが実現しそうです。どのような支援が受けられるのか、注意点すべき点も含めてまとめました。
「テレワーク地方移住」に100万円、「地方でIT起業」に300万円を補助
9月25日付『日本経済新聞』に「テレワークで地方移住、最大100万円補助 政府21年度から」と見出しを掲げた記事が掲載され、大きな注目を集めました。冒頭部分を抜粋してみます。
「政府は2021年度から、テレワークで東京の仕事を続けつつ地方に移住した人に最大100万円を交付する。地方でIT(情報技術)関連の事業を立ち上げた場合は最大300万円とする。新型コロナウイルスの感染拡大で高まった働き方の変化を踏まえ、地方の活性化につなげる。
21年度予算の概算要求に地方創生推進交付金として1000億円を計上する。これまでも首都圏から移住して地方で起業する場合の支援制度があったが、新たに東京の仕事を地方で続ける人も対象に加える」
あえて注釈を加えておけば、「概算要求に地方創生推進交付金として1000億円を計上」といっても、その規模の交付金制度が新設されるわけではありません。この交付金自体は、2016年度から、当初予算に毎年同額が計上されています(15年度は、地方創生加速化交付金として補正予算に1000億円計上)。あくまでも、「これまでもあった支援制度」が来年度から「拡充」ないし「変更」される予定なのだと捉えてください。
そのうえで、どこが拡充されるのかといえば、
- 東京に事業所などのある企業に勤める人が、地方に住居を移してテレワークでその仕事を継続する場合には、最大で100万円を補助する。
- 地方でIT関連企業を立ち上げたら、最大で300万円を補助する。
ということです。
ただし、まだ概算要求の段階であり、記事に書かれている内容以上の詳細が決まっているわけではありません。
2019年度からスタートした地方創生支援事業
そもそも、新たな取り組みのベースとなる「これまでの支援事業」とは、どんなものなのでしょうか? あらためて概要をみておきましょう。現在、地方創生推進交付金の交付を受けて地方公共団体が主体となって実施されているのが、「地方創生移住支援事業」と「地方創生起業支援事業」です。
●地方創生移住支援事業
東京23区(在住者または通勤者)から東京圏(東京都、埼玉、千葉、神奈川県)外へ移住し、移住支援事業を実施する都道府県が選定した中小企業などに就業した人、または起業支援金(後述)の交付決定を受けた人に、都道府県・市町村が共同で100万円以内(単身は60万円以内)を支給
移住支援金の支給を受けるためには、次の①~③すべてに該当する必要があります。
- ①移住元=東京23区の在住ないし通勤者
- ②移住先=東京圏以外の道府県または東京圏内の条件不利地域(「過疎地域自立促進特別措置法」「山村振興法」などの対象地域を有する市町村)への移住者
- ③移住支援事業を実施する都道府県が、マッチングサイトに移住支援金の対象として掲載する求人に新規就業した人、または起業支援金の交付決定を受けた人
この制度を利用するうえで大きなネックになるのが、③の要件でしょう。つまり、ただ地方に移って就職しても、それだけでは支給対象にはならず、「自治体が選定した中小企業」で働く必要があるのです。
しかし、来年度から予定される支援事業では、その支給対象が「東京の仕事を地方に移って続ける」場合にも拡大されることになりそうです。実現すれば、テレワークが可能な人にとっては、大きなメリットだと言えるでしょう。
●地方創生起業支援事業
都道府県が、地域の課題解決に資する社会的事業を新たに起業する人を対象に、起業のための伴走支援と事業費への助成(最大200万円)を通して、効果的な起業を促進し、地域課題の解決を通して地方創生を実現することを目的とする。事業分野としては、子育て支援や地域産品を活用する飲食店、買い物弱者支援、まちづくり推進など地域の課題に応じた幅広いものを想定。起業に必要な経費の2分の1に相当する額を交付する。
起業支援金の支給を受けるためには、次の①~③すべてに該当する必要があります。
- ①東京圏以外の道府県または東京圏内の条件不利地域において社会的事業の起業を行うこと
- ②公募開始日以降、補助事業期間完了日までに個人開業届または法人の設立を行うこと
- ③起業地の都道府県内に居住していること、または居住する予定であること
地方に移住して社会的事業を起業した場合には、移住支援金+起業支援金で、最大300万円を受け取ることも可能になっています。
詳しくは、「起業支援金・移住支援金のお知らせ」を参照してください。
「テレワーク移住」は、制度が固まってから
実は、国の地方創生事業関連では、来年度から創設される交付金もあります。報道によれば、企業のサテライトオフィス誘致やシェアオフィス整備などの自治体の取り組みを支援する目的で、「地方創生テレワーク交付金」(仮称)を新設する方針で、概算要求に約150億円を計上しました。働き方の「地方分散」が進んでいくのは、確かなようです。
最後に、来年度スタート予定の支援制度について、注意点を1つ。現行の「移住支援制度」では、②の移住先について、「移住先都道府県が移住支援事業の詳細を公表した後の転入であること」という、「期間の要件」があります。「起業支援制度」でも、②でやはり「公募開始日以降」という要件が明示されています。
新たな支援についても、当然、同様の縛りがかかるはずで、「地方に移住してテレワーク、ないし起業すれば、自治体からお金がもらえる」と早合点するのは、禁物。該当する期間以前に移住した場合、支援の対象にはならない公算大なのです。動くのは、支援の詳細が発表されてからにするというのを、肝に銘じましょう。
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まとめ
来年度から、地方に移住してテレワークを行う場合などに補助金が支給される予定です。ただし、確実に補助金を受け取りたいのであれば、移住を検討するのは、支援の中身が確定してからにしましょう。