令和2年10月からスタート! 年末調整の電子化について解説 | MONEYIZM
 

令和2年10月からスタート!
年末調整の電子化について解説

平成16年の「e-Tax」運用開始以降、税務申告をはじめとした行政手続きの電子化が推進されていますが、令和2年10月より「年末調整手続きの電子化」がスタートします。年末調整実務の簡素化を目的とした電子化で令和2年分の年末調整がどのように変更となるのかを解説します。

「年末調整の電子化」により実務を簡便化

「電子政府・電子自治体」と年末調整

政府や地方公共団体が推進するオンラインによる行政手続き、いわゆる「電子政府化」により令和2年分の年末調整から各種証明書の提出が電子化される旨を説明する。

 

国税庁の「e-Tax」や地方税の「eltax」など、税務申告や申請、届出については既に「電子政府化」が推進されています。年末調整の電子化は、従来紙ベースでの提出・確認が行われていた年末調整の実務的な部分を電子化により簡素化しよう、という試みです。

 

具体的には、従業員が会社に提出していた各種証明書を「電子データ化」してソフトに読み込むことで、手作業で行っていた証明書の申告書への記入やデータ入力、確認作業を省略できるようにすることができます。作業の簡素化は勿論のこと、入力漏れや入力間違いといったヒューマンエラーも同時に防げるといったメリットもあります。

電子化の対象となる証明書とは?

電子化の対象となる各種証明書を列挙してみましょう。

 

  • ①保険料控除証明書(生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書)
  • ②住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除証明書
  • ③年末残高等証明書

 

①③の各種証明書は毎年11月頃に契約者宛に紙ベースで郵送され、従業員は証明書の内容を「保険料控除申告書」や「住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除証明書」に転記したうえで提出書類に添付し、会社に提出していました。電子化により今まで郵送されていた証明書を「電子データ」として受領することができます。受領方法としては次の2つがあります。

  • 生命保険会社、損害保険会社、金融機関等のHPから個別に取得する方法
  • 「マイナポータル」を利用して各種控除証明書を一括で受領する方法
     ただし、マイナポータルで一括受領するためには証明書の発行主体がマイナポータルと
     連携していることが必要です。

 

また、電子化に伴い以下の申告書も電子データとして会社に提出することが可能となります。

 

  • ④扶養控除等申告書
  • ⑤配偶者控除等申告書
  • ⑥保険料控除申告書
  • ⑦住宅ローン控除申告書
  • ⑧基礎控除申告書(令和2年分から新設)
  • ⑨所得金額調整控除申告書(令和2年分から新設)

電子化によるメリット・デメリット

証明書や申告書が電子化されることのメリット・デメリットを会社、従業員それぞれの立場から列挙してみましょう。

 

【メリット】
<会社>

  • 申告書を、国税庁が無償提供する「年調システム」で作成した電子データ形式で受け取るので自社の年末調整システムにデータ入力する作業を省略することができる。
  • 従業員が証明書の電子データを「年調システム」に取り込んだ時点で正しい控除額が自動計算されるため、紙ベースでの検算確認作業を省略することができる。
  • ネット環境があれば、遠隔地の従業員からも迅速にデータ提出してもらうことができる。
  • 電子データとして保存するため、書類の保管が必要なくなる。
  • マイナポータルを利用すれば証明書が一括受領できるため、従業員に対する証明書の提出忘れ等の問い合わせ業務を軽減できる。

<従業員>

  • 国税庁が無償提供する「年調システム」を利用することにより、証明書を申告書に転記する作業を省略することができる。
  • 証明書を「年調システム」に取り込むだけで控除額が自動計算されるため、税法に対する知識がなくても安心。
  • 紙ベースだと証明書を紛失した場合、再発行手続きをしなければならなかったが、紛失することがなくなり、必要であればいつでも迅速に証明書を入手することができる。
  • マイナポータルを利用すれば複数ある保険会社の証明書を一括受取できるため、証明書の取得忘れ等の管理をする手間が省ける。

 

【デメリット】
<会社>

  • 電子データの受取にはUSBメモリーなどのメディアやメールソフトを利用する必要があるため、ある程度のパソコン知識が必要となる。
  • 電子データ取込に対応した年末調整ソフトが必須となる。
  • 「従来通り紙ベースでの提出」「年調システムから出力した紙ベースでの提出」「年調システムから取り出した電子データ」と提出方法に応じて処理を区分しなければならない。
  • マイナポータルを利用しない提出については、従業員に対して従来通り証明書の提出忘れ等がないかの問い合わせ業務をしなければならない。

<従業員>

  • 電子データの受け取りや、年調システムを利用するためにネット環境が必要となる。
  • 電子データの取り込みや取り出しが必要であることから、パソコンについてある程度の知識が必要となる。
  • マイナポータルを利用しない場合は、従来通り証明書の受け取り忘れがないか管理しなければならない。

「年末調整の電子化」実務の進め方

証明書等発行から提出までの流れ

それでは「年末調整の電子化」の具体的な手続きの流れを解説します。以下は、証明書や申告書を全て電子化した場合の手続きです。

 

  • ①保険会社が電子データを発行、従業員が保険会社HPより電子データを受領
  • ②従業員が電子データを国税庁「年調システム」に取り込む(インポート)
  • ③扶養控除等申告書等を入力
  • ④従業員が「年調システム」から申告書を電子データで取り出し(エクスポート)
  • ⑤取り出した申告書の電子データを会社に提出
  • ⑥会社が自社の年末調整ソフトに申告書の電子データを取り込み(インポート)
  • ⑦従来の年末調整業務により年税額を計算・過不足額の精算

 

このように、①~⑥まで紙ベースでの処理を全て省略できるところが大きな特徴です。

年末調整が始まる前に準備しておくべきこと

完全な電子化に移行するためには、事前に準備しなければならい項目がいくつかあります。年末調整業務が始まる前に準備しておきたい項目を会社、従業員それぞれに区分して列挙してみましょう。

 

<会社>

  • 「電磁的方法による提供の承認申請書」を所轄の税務署に提出しなければならない。
  • 年末調整の電子化について、従業員に周知する。
  • 実務担当者が電子データの取り込みや取り出しの作業手順を正しく理解する。
  • 使用する年末調整ソフトが電子データの取り込みに対応しているか確認する。
  • 電子化に伴う年末調整業務の作業手順変更を実務担当者間で意思統一しておく。
  • 電子データの保存方法やバックアップについて取り決めしておく。

<従業員>

  • ネット環境を準備する。
  • 保険会社から電子データを受け取るためのIDを作成する。
  • 各保険会社や金融機関が電子化に対応しているかを確認する。
  • 電子データの会社への提出方法について確認しておく。
  • 国税庁「年調システム」のアクセス方法や利用方法について理解しておく。
  • マイナポータルでの一括受取を希望する場合は、マイナンバーカードを取得しID作成や「e-Tax」との連携設定などの事前準備が必要となる。

電子化が難しい場合はどうすればよいか?

上手に利用すれば会社も従業員も事務手続きが軽減される電子化ですが、パソコンの操作に自信がない方もいるでしょう。電子化が難しい場合や、実務上判断に迷うことが予想される項目をいくつか挙げます。

 

  • ①証明書や申告書を従来通り書面提出してもよいですか?
    「年末調整の電子化」は手続きの電子化が可能となっただけであり、従来通り書面で提出することができなくなったわけではありません。書面提出でもOKです。
  • ②会社に年末調整のデータを提出する方法はどのようなパターンがありますか?
    提出方法は全部で5パターンあります。

    • 証明書は紙ベース・申告書を手書き・書面で提出(→従来の年末調整と同じ)
    • 証明書は紙ベース・申告書を「年調システム」で作成・書面を出力し提出
    • 証明書は紙ベース・申告書を「年調システム」で作成・電子データで提出
    • 証明書は電子データ・申告書を「年調システム」で作成・書面を出力し提出
    • 証明書は電子データ・申告書を「年調システム」で作成・電子データで提出

      いずれの方法でも提出は可能です。

  • ③住宅ローン控除証明書、年末残高証明書も全て電子化できますか?
    電子化されるのは「居住年が平成31年以降」の控除のみで、平成30年以前の居住年の手続きについては従来通り紙ベースでの提出です。
  • ④電子データの保存期間は何年か?
    会社が電子データを保存しなければならない期間は「年末調整書類の提出期限の属する年の翌年1月10日から7年間」です。マイナンバー等の個人情報が登録されていますので、書面提出同様、厳重に保管する必要があります。
  • ⑤証明書を電子データで取得したが、会社から書面提出を求められた場合はどうすればよいですか?
    「年調システム」で電子データを書面に変換し出力可能です。

まとめ

ひと昔前と比べて行政サービスを提供する国や地方公共団体のオンライン化、電子化が急速に進んでいます。年末年始の繁忙期に行う年末調整において、電子化が作業の簡素化・効率化に大きく寄与することは間違いありません。積極的な導入を前向きに検討していきましょう。

奥谷佳子
Webライター/ライター フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。 自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。 取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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