IT活用は生産性の向上や業務改善など、企業に多くのメリットをもたらします。経営の安定化や事業拡大、労働者の働き方改革の実現などといった中小企業が抱える様々な問題解決の糸口となる可能性も期待できます。この記事では中小企業がIT活用を推進するために必要なこと、利用可能な補助金・助成金について解説します。
中小企業がIT活用を推進すると?IT活用のメリット
生産性を向上させ、業績に良い影響が及ぶ
IT活用の効果としてまず挙げられるものに、生産性の向上があります。ITを活用して様々な業務をシステム化することでデータの加工が自動的に行われるようにできたり、複数のシステムの連携によりデータを二重に入力しなければならないといった手間を省けたりします。このような省力化により業務効率の改善が図られ、コストの削減から生産性向上が目指せます。
生産性の向上は業績に良い影響を与えます。中小企業が安定した経営を行ったり、事業拡大を図ったりするためには、大企業以上の企業努力が必要です。中小企業は大企業に比べて企業規模が小さいため、経営基盤が脆弱で不安定であることが一般的です。IT活用によって生産性が向上すると業績に良い影響が及び、経営の安定化や事業拡大へとつながります。
業務改善が図れ、働き方改革ができる
業務の改善もIT活用によってもたらされるメリットの1つです。ITを導入すると業務の省力化が図れると同時に、無駄の可視化が可能になります。不要な作業の見直し・整理を行うきっかけとなり、業務改善が図れます。
業務改善は作業のスリム化につながり、労働者の働き方改革を推進します。一億総活躍社会の実現に向けて推進されている働き方改革では、最重要課題の1つとして長時間労働の解消が挙げられています。残業時間上限規制や有給休暇義務化などが法整備により進められていますが、中小企業は大企業にまだまだ遅れを取っているのが実態です。
IT活用による業務改善には作業時間短縮の効果が期待できます。労働者の労働時間も短くでき、働き方改革の推進が目指せます。
中小企業がIT導入に利用可能な補助金・助成金
IT導入補助金とは?内容と利用方法
IT導入補助金は中小企業が生産性向上や制度変更のために利用できる補助金です。ものづくり補助金、持続化補助金と並ぶ中小機構による生産性革命推進事業の1つで、小規模事業者向けの持続化給付金は、新型コロナウイルス感染症により経営の持続が困難になった場合にも利用可能な補助金として知られるようになりました。
ものづくり補助金は中小企業が新しく製品やサービスを開発する際、または生産プロセス改善を行う際の設備投資を支援する補助金です。
IT導入補助金はバックオフィス業務の効率化や、顧客獲得等の付加価値向上に役立つITツールを導入する中小企業を対象に交付される補助金です。ソフトウェア、クラウド利用費、専門家経費を対象に、半額が補助されます。補助額30~150万円未満のA類型、150~450万円までのB類型があります。
製造業、建設業、飲食、宿泊、小売・卸、運輸、医療、介護、保育等のサービス業など、幅広い業種の中小企業が利用できます。申請要件は年率平均1.5%以上の給与支給総額向上、地域別最低賃金より30円以上高い事業場内最低賃金を事業計画期間において満たすこと等です。
2023年のインボイス制度への対応を見据え、補助率5~350万円のデジタル化基盤導入枠や補助率5~100万円のセキュリティ対策推進枠も創設されました。
IT導入補助金の申請はIT導入支援事業者と共同で計画を策定した上で、IT導入補助金事務局に対して行います。IT導入支援事業者はポータルサイトから確認できます。
業務改善助成金とは?内容と利用方法
業務改善助成金は事業場内最低賃金を引き上げる目的で生産性向上を図る中小企業や小規模事業者に交付される助成金です。設備投資により事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、かかった費用の一部が助成されます。引き上げた最低賃金額によって25円コース、30円コース、60円コース、90円コースの4種類があります。助成上限額はコースと、賃金引き上げを行う労働者数によって異なり次のようになります。
<25円コース>
- 労働者数1人の場合は25万円
- 2~3人の場合は40万円
- 4~6人の場合は60万円
- 7人以上の場合は80万円
<30円コース>
- 労働者数1人の場合は30万円
- 2~3人の場合は50万円
- 4~6人の場合は70万円
- 7人以上の場合は100万円
<60円コース>
- 労働者数1人の場合は60万円
- 2~3人の場合は90万円
- 4~6人の場合は150万円
- 7人以上の場合は230万円
<90円コース>
- 労働者数1人の場合は90万円
- 2~3人の場合は150万円
- 4~6人の場合は270万円
- 7人以上の場合は450万円
対象は事業場規模100人以下、事業場内最低賃金と地域別最低賃金との差額が30円以上の事業場です。賃金引上計画を策定して就業規則等に事業場内最低賃金額を規定すること、引き上げ後の賃金額を支払うこと、費用を払って生産性向上のための機器・設備を導入すること、解雇や賃金引き下げ等の不交付事由がないこと等が、支給要件とされています。交付申請書に事業実施計画等を添えて、都道府県労働局に申請します。
IT導入・活用を成功させるために事前にチェックすべきこと
使っているツールとの相性の確認
新たに導入するツールは、既存のITツールとの相性を考慮して選ぶ必要があります。現在使用しているツールと相反する点はないかをチェックし、既存のITツールと合わせて活用可能なツールを選びましょう。このチェックを怠ると新たに導入するITが活用できないばかりか、既存のツール使用にも問題が生じる可能性があります。
また既存のツールと連携可能かどうかも、新規導入するツール選定の際に確認すべきポイントです。連携ができないとデータの打ち直しが必要になり、無駄が生じるだけでなくミス発生のリスクも高くなります。受注システムを導入する場合は在庫管理システム、勤怠管理システムを導入する場合は給与システムといった、関係システムへの連携の可否の確認が必須となります。
さらに操作性の統一もIT導入・活用において重要なポイントになるものの1つです。既存のツールと新規導入するツールでまったく操作が違うものを選ぶと、混乱が生じます。とくに中小企業では、1人が複数のツールを使用するケースがよく見られます。効率良く作業するために、できるだけITツールの操作性は統一を図りましょう。
使いこなせる人材の有無
ITツールは新たに導入するだけでは十分な効果は得られません。きちんと活用して初めて、本来のメリットがもたらされます。そのためには使いこなす人が不可欠で、人材の確保が中小企業のIT活用の最重要ポイントといっても過言ではありません。
平成30年度中小企業白書では「中小企業がITを導入・利用できない理由」の問いに対する「従業員がITを使いこなせない」との回答が、21.5%にも上っています。
人材確保の手段としてはITを使いこなせる労働者の採用以外に、教育があります。採用は手っ取り早い方法ですが、多くの中小企業は常に人手不足の問題を抱えています。ITを使いこなす人材ともなれば、採用はさらに困難を極めます。ITを使いこなせる人材の確保には採用と同時に今いる労働者の教育を進めることが重要です。
研修やセミナーを用いて、労働者のIT教育を積極的に進めましょう。内部での研修実施や外部のセミナー参加を、機会を見つけては積極的に実施していくことが大切です。新入社員教育や中堅社員育成研修などの既存の研修へのカリキュラム組み入れも効果的です。
まとめ
IT活用は生産性を向上させ、業績に良好な影響を及ぼします。中小企業にとって困難な問題である労働者の働き方改革の推進も図れます。この記事で紹介した補助金・助成金を利用すればコストも低く抑えられるので、取り組みを検討しましょう。