会社の経営者の方であれば「税理士に相談したい」「税理士からの情報やアドバイスが欲しい」と考えるケースがあると思います。会計や税務に関するプロフェッショナルである税理士ですが、知識は充分でもその知識を会社のために生かせるかは別問題です。今回は会社にとって良い税理士とは何かを解説していきます。
企業会計における税理士の役割
税理士の仕事とは何か?
簿記会計や税法などの適用解釈には専門的な知識が必要ですが、知識さえあれば誰でも仕事をして報酬をもらってOKというわけではありません。
税務に関する法律に「税理士法」というものがあり、その第2条に「税理士にしかできない業務」が列挙されています。
『税務代理』 …税務申告書の提出や税務調査の立会、意見陳述などを代理すること
『税務書類の作成』…税務申告書を作成すること
『税務相談』 …税務申告を行うにあたり、税額や所得金額に関する相談を受けること
上記の業務を報酬をもらって行えるのは「税理士」の資格を有する人だけです。会社は毎年必ず利益を集計し、税額を計算して自己申告により納税をしなければなりません。
上記で述べたとおり税務手続きは税理士の独占業務ですから、顧問契約を結んで毎月の会計監査を依頼するときは勿論のこと、決算業務や税務申告だけを依頼するようなスポット的な使い方であっても税理士に業務を委任しなければなりません。
企業に税理士が必要である理由
税理士の業務範囲には以下が含まれます。
- ①利益を計算する「会計」
- ②利益に基づき税金を計算する「税務」
- ③「会計」の結果を受けての「経営コンサルティング」や「資金繰り」の相談業務
- ④「税務調査の立合い」
など
経営者の方は、経営するにあたって経営方針が間違っていないか?正しく利益を計上できているか?資金繰りは大丈夫か?など、会社の現状を正しく認識しておく必要があります。「だいたいこれくらい」のどんぶり勘定では大きな判断ミスを招く恐れがあるからです。
税理士は、税務申告の基礎となる「会計」に関する知識を持っています。顧問契約により毎月の会計監査を依頼していれば当然として、スポットで決算業務や税務申告だけを依頼するようなケースであっても「会社の心臓部」である財務会計に関する部分を全て見せるわけですから、税理士は会社の現状を正確に把握分析できる立場にあります。
会社としては、税理士が持っているデータを「情報サービス」として受け、経営に生かしていくことが重要となります。また顧問税理士も報酬をもらっている以上、企業を生かすために財務に関する様々な情報をリアルタイムで発信する義務があります。
あなたの企業は大丈夫?税理士が提供するサービスとは?
税理士が提供する情報サービス
では、税理士が提供する情報サービスにはどのようなものがあるのかを具体的に列挙してみましょう。
(1)月次損益報告
「月次損益」とは毎月の企業活動の結果を財務的な数値として集計する作業です。月次損益を計算すると、「損益が現在プラスマイナスどちらの方向に向かっているのか?」「売上の利益率は適正なのか?」などいわば「方向確認」についての情報をリアルタイムで把握することができます。
(2)決算直前の節税対策
決算直前になれば上記(1)の月次損益報告から最終的な損益や税額が予想できます。節税を検討している企業であれば、決算直前の段階で減価償却費の特別償却や税額控除、決算賞与の支給、設備投資の是非など税額を抑えるためのコンサルティングが受けられます。
(3)資金繰り対策
簿記の仕組みを理解している税理士であれば、月次損益から将来的な資金繰りをある程度予想することができます。運転資金の予想から、万が一資金ショートする可能性があれば資金調達に関するコンサルティングで企業をサポートすることも税理士が提供する重要な情報サービスです。
(4)事業承継対策
企業が事業を継続していくためには後継者が欠かせません。しかし、後継者が事業を承継 するためには長期的な資金繰り・資産運用に関するビジョンや相続税や贈与税など税務上の問題をクリアする必要があるなど、いくつものハードルがあります。税務会計に関する様々な知識を総合してコンサルティングできる税理士からの情報は必須です。
情報は鮮度が命!サービスを受けるタイミングは?
月次損益や節税対策は「情報提供を受けるタイミング」が最も重要です。
例えば会社の損益がマイナスに向かっていることを決算直前に聞いたとしても、プラス方向への修正はもはや不可能です。資金ショートしてから「資金が不足しますね」とコンサルティングされても何の役にも立ちません。
また、節税対策は「決算日前」に済ませておかなければならない項目が殆どですから、決算が始まってから節税対策に関する情報を提供されても何もできません。
このように、税理士が提供する情報サービスは鮮度が命です。「適切なタイミング」で「適切な情報」を提供してもらえるか?が良い税理士の判断基準となります。
ここで見分ける良い税理士、悪い税理士
企業会計の基本『月次処理』と月次損益報告
では、良い税理士とそうではない税理士を見分けるポイントはどこにあるでしょうか?
会計や税務の情報を会社経営に生かしていくためには高度で専門的な知識を要するので、難しいことは税理士に全てお任せしている、という経営者の方も多いかと思います。
その結果、税理士からの情報サービスが不足していることにも気付かず、会計的・税務的に非常に損をしていたというケースがあります。言い方は悪いのですが、会計税務の難解さや複雑さを盾に、企業が被った不利益を「煙に巻く」ことも充分あり得るわけです。「難しいことは分からない」という方は、見分けるポイントとして「月次損益報告」で判断するのが一番でしょう。
先に挙げた税理士が提供する情報サービスのなかでも「月次損益報告」は、その他業務の基幹となる作業です。決算対策や資金繰りは「月次損益報告」をベースに組み立てていくものであり、作業が完了しなければ成り立ちません。つまり「月次損益報告」ができていない税理士はその他のコンサルティングもできない、ということを意味します。毎月、経営者に向けて月次損益の報告を行う作業を怠らない税理士を選ぶべきです。
実務的には、税理士本人が会社に赴いて月次損益報告をするパターンや税理士事務所に書類を持参して処理を依頼するパターン、税理士ではなく職員が来て月次損益報告をするパターンなど処理形態は様々です。
提供する情報も紙ベースでの提供もあれば、口頭で伝えるのみというケースもあります。最終的に経営者の方にリアルタイムな数値が伝わってさえいれば、最低限必要な情報を提供してもらえる税理士であるといえます。
決算に向けたコンサルティングも重要なファクター
「月次損益報告」が適切なタイミングで、適切な内容で提供されたかを判断する材料が「決算書」でしょう。
「決算書」は毎月の月次損益を12ヶ月積み重ねた結果を集計した資料です。月次損益の段階で損益報告や節税対策など、適切なコンサルティングをしていれば経営者は会社の財務数値についてあらかじめ理解しているはずです。
黒字決算・赤字決算を問わず、最終損益の数値をみた時に「経営者が納得」すればそれは「月次損益報告」が適切に行われたと考えてよいでしょう。
情報サービスがタイムリーでないのは致命的
繰り返しになりますが、「月次損益報告」も「節税対策」も「情報提供のタイミング」を逃しては何の意味もありません。もし経営者の方が「決算書」を見た時に少しでも違和感を感じたとしたら、それは税理士自身が「タイミング」を理解していない可能性があります。
経営者の方は、税理士が良いサービスを提供しているか?信用に値するか?を判断するためにも「決算書」には必ず目を通すべきです。
まとめ
近年の税法は、消費税の軽減税率適用による8%、10%混在にみられるように処理や適用条件などが複雑化しています。それだけに、知識や経験が豊富なのは勿論のこと、情報発信に長けている税理士との付き合いが重要になっていくでしょう。企業存続のため、「お任せ」ではなく税理士の発する情報サービスについて今一度見直してみてはいかがでしょうか。