サラリーマンや個人事業主など、収入のある個人は原則として所得税と個人住民税を納める必要があります。所得税も個人住民税も個人の所得(=もうけ)に対して課税されるため、税額の計算方法などは似ていますが、控除額などで違いも多くあります。
この記事では、所得税と個人住民税の人的控除の違いについて解説します。
所得税と個人住民税の課税と納付時期の違い
所得税と個人住民税の違いを理解するためには、納付額の計算方法や納付時期、納付方法などの仕組みの違いを理解する必要があります。
ここでは、所得税と個人住民税の課税と納付時期の違いについて見ていきましょう。
所得税と個人住民税の納付額の計算方法
所得税と個人住民税の納付額の計算方法は、それぞれ次のようになります。
①所得税
所得税の納付額の計算は次の計算式で求めます。
所得税の税率は、課税所得金額に応じて5~45%の税率となります。
②個人住民税
個人住民税は、所得(=もうけ)に課される所得割と、一律の均等割に分かれます。それぞれの納付額の計算は次の計算式で求めます。
・所得割
個人住民税の税率は、課税所得金額にかかわらず道府県民税4%、市町村民税6%、合計10%です(自治体によって異なることがあります)。
・均等割
道府県民税1,500円、市町村民税3,500円(復興特別税を含む。自治体によって金額が異なるところもあります)
所得税と個人住民税の所得割の計算式は、同じです。ただし、税率と所得控除の金額が異なります。
所得税と個人住民税の納付時期と納付方法
ここでは、所得税と個人住民税の納付時期と納付方法の違いについて見ていきましょう。
①所得税の納付時期と納付方法
・個人事業主の場合
個人事業主の場合の所得税の納付時期は、原則、翌年の2月16日から3月15日までです。確定申告を行い、所得税を納めます。所得税の納付は、納付書での納付や振替納税などの方法で自分で納めます。
・サラリーマンの場合
サラリーマンの場合の所得税は、毎月の給料からその年の所得税を天引きで納めます。天引きされた所得税は、勤務先の会社が従業員に代わって国に納付します。そのため、サラリーマン自身が所得税を納付することは通常はありません。
②個人住民税の納付時期と納付方法
・個人事業主の場合
個人事業主の個人住民税の納付時期は原則、6月、8月、10月、翌1月(自治体によって納付時期が異なる)です。通常、4回に分けて、前年分の個人住民税を納付します。1回での納付も可能です。
個人住民税は、納付書が自治体から送付されてくるため、その納付書を使って納付します。
・サラリーマンの場合
サラリーマンの場合の個人住民税は、毎月の給料からその前年の個人住民税を天引きという形で納めます。天引きされた個人住民税は、勤務先の会社が従業員に代わって、各自治体に納付します。
そのため、サラリーマン自身が個人住民税を納付することは通常はありません。
令和2年以降における所得税と個人住民税の所得控除
所得控除とは、扶養家族の有無や保険料の支払いの有無など、個人的な事情による税負担の不平等を是正するために設けられた控除のことです。所得控除には、配偶者や子供など人に関する人的控除と保険料などの物的控除の大きく2つに分かれます。
所得税と個人住民税における、所得控除の金額が異なるもののほとんどは人的控除です。ここでは、金額の違いを見ていく前に、所得控除の中の人的控除にどのようなものがあるのかを見ていきます。
令和2年(住民税は3年)以降の人的控除には、次のものがあります。
①基礎控除
個人が受けられる基本的な控除です。令和元年までは、誰でも受けることができましたが、令和2年以降は、所得制限が設けられました。
②扶養控除
納税者と生計を一にしている扶養家族がいる場合に受けられる控除です。扶養家族の年齢によって控除額が異なります。ただし、16歳未満の扶養家族に対する扶養控除はありません。
③配偶者控除
納税者と生計を一にしている配偶者(年間合計所得48万円以下)がいる場合に受けることができる控除です。納税者本人の所得金額により、控除金額が異なります。
④配偶者特別控除
配偶者に48万円を超える所得があるため配偶者控除の適用が受けられない場合であっても、配偶者の所得が133万円以下の場合に受けることができる控除です。配偶者や納税者本人の所得金額により、控除金額が異なります。
所得税における配偶者特別控除の金額は、次のとおりです。
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | ||||
---|---|---|---|---|
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1,000万円以下 |
||
配 偶 者 の 合 計 所 得 金 額 |
48万円超 95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超 100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
100万円超 105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
105万円超 110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
110万円超 115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
115万円超 120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
120万円超 125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
125万円超 130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
130万円超 133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
⑤寡婦控除
夫と死別や離別をした場合で、一定の条件に当てはまる場合に受けることのできる控除です。
⑥ひとり親控除
納税者がひとり親であるときに受けることのできる控除です。
⑦障がい者控除
納税者本人や配偶者、扶養家族が所得税法上の障がい者に当てはまる場合に受けることのできる控除です。
⑧勤労学生控除
納税者自身が勤労学生であるときに受けることのできる控除です。
所得税と個人住民税の人的控除額の差
ここまでは、人的控除の内容について見てきました。ここでは、所得税と個人住民税の人的控除額の差額について見ていきましょう。
所得税と個人住民税の人的控除額の差額は、次のようになります。
①基礎控除
納税者の合計所得金額 | 個人住民税 | 所得税 | 人的控除の差 |
---|---|---|---|
2,400万円以下 | 43万円 | 48万円 | 5万円 |
2,400万円超 2,450万円以下 | 29万円 | 32万円 | 3万円 |
2,450万円超 2,500万円以下 | 15万円 | 16万円 | 1万円 |
2,500万円超 | 0円 | 0円 | 0円 |
②扶養控除
扶養親族 | 個人住民税 | 所得税 | 人的控除の差 |
---|---|---|---|
一般(下記以外) | 33万円 | 38万円 | 5万円 |
特定扶養親族(19歳以上23歳未満) | 45万円 | 63万円 | 18万円 |
老人扶養親族(70歳以上) | 38万円 | 48万円 | 10万円 |
同居老人等扶養親族 | 45万円 | 58万円 | 13万円 |
③配偶者控除
一般
納税者の合計所得金額 | 個人住民税 | 所得税 | 人的控除の差 |
---|---|---|---|
900万円以下 | 33万円 | 38万円 | 5万円 |
900万円超 950万円以下 | 22万円 | 26万円 | 4万円 |
950万円超 1,000万円以下 | 11万円 | 13万円 | 2万円 |
1,000万円超 | 0円 | 0円 | 0円 |
老人(70歳以上)
納税者の合計所得金額 | 個人住民税 | 所得税 | 人的控除の差 |
---|---|---|---|
900万円以下 | 38万円 | 48万円 | 10万円 |
900万円超 950万円以下 | 26万円 | 32万円 | 6万円 |
950万円超 1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 | 3万円 |
1,000万円超 | 0円 | 0円 | 0円 |
④配偶者特別控除
配偶者の合計所得金額 | 納税者の合計所得金額 | 個人住民税 | 所得税 | 人的控除の差 |
---|---|---|---|---|
48万円超95万円以下 | 900万円以下 | 33万円 | 38万円 | 5万円 |
900万円超950万円以下 | 22万円 | 26万円 | 4万円 | |
950万円超1,000万円以下 | 11万円 | 13万円 | 2万円 | |
1,000万円超 | 0円 | 0円 | 0円 | |
95万円超100万円以下 | 900万円以下 | 33万円 | 36万円 | 3万円 |
900万円超950万円以下 | 22万円 | 24万円 | 2万円 | |
950万円超1,000万円以下 | 11万円 | 12万円 | 1万円 | |
1,000万円超 | 0円 | 0円 | 0円 |
配偶者の合計所得金額が100万円超133万円以下の場合は、個人住民税と所得税の控除金額は同じです。
⑤寡婦控除
個人住民税 | 所得税 | 人的控除の差 |
---|---|---|
26万円 | 27万円 | 1万円 |
⑥ひとり親控除
個人住民税 | 所得税 | 人的控除の差 |
---|---|---|
30万円 | 35万円 | 5万円 |
⑦障がい者控除
個人住民税 | 所得税 | 人的控除の差 | |
---|---|---|---|
障がい者 | 26万円 | 27万円 | 1万円 |
特別障がい者 | 30万円 | 40万円 | 10万円 |
同居特別障がい者 | 53万円 | 75万円 | 22万円 |
⑧勤労学生控除
個人住民税 | 所得税 | 人的控除の差 |
---|---|---|
26万円 | 27万円 | 1万円 |
個人住民税には、そのほか調整控除があります。調整控除とは、税源移譲に伴い生じる所得税と個人住民税の差による負担増加を調整するために設けられた控除のことです。人的控除額の差などを基に計算します。
まとめ
所得税と個人住民税では、税額の計算式は同じですが、所得控除の金額や税率が異なります。特に、所得控除の金額は、基本、個人住民税のほうが所得税よりも低いため、所得税では税金がかからなくても、個人住民税は税金がかかるということも生じます。
所得税と個人住民税の所得控除(人的控除)の差を理解し、納める税金の準備に役立てましょう。
▼参照サイト
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/shoto320.htm
- 『令和2年度版 税務ハンドブック』コントロール社