法人の節税方法として挙げられるものに生命保険があります。一言に生命保険といっても、いろいろな種類があり、受取人がだれかによって経理処理が異なります。そのため、契約を間違えると思った効果が得られない場合もあります。今回は、そうならないために、法人契約の生命保険と税金の関係について解説します。
生命保険には経費にできる保険とできない保険がある
生命保険支払時の処理方法
生命保険には支払い時に経費にできるものと、できないものがあります。まずは、それぞれどのような処理方法をとれば良いかみていきましょう。
(1)全額経費にできる場合
全額が経費にできる生命保険の場合は、支払い時に「保険料」などの経費科目で処理します。
例)全額経費にできる生命保険2万円を普通預金から支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
保険料 | 2万円 | 普通預金 | 2万円 | 保険料支払い |
(2)全額経費にできない場合
全額が経費にできない生命保険の場合は、支払い時に「保険積立金」などの資産科目で処理します。
例)全額経費にできない生命保険2万円を普通預金から支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
保険積立金 | 2万円 | 普通預金 | 2万円 | 保険料支払い |
(3)一部(半分)が経費にできる場合
生命保険のなかには支払金額の一部や半分を経費にすることができるものがあります。その場合は、支払い時に経費になる部分は「保険料」などの経費科目で処理し、経費にならない部分は、「保険積立金」などの資産科目で処理します。
例)半分額経費にできる生命保険2万円を普通預金から支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
保険料 | 1万円 | 普通預金 | 2万円 | 保険料支払い |
保険積立金 | 1万円 |
生命保険受取時の処理方法
次に生命保険が満期や解約などで戻ってきたときの処理方法についてみていきましょう。
(1)全額経費にできる生命保険の保険金を受け取った場合
この場合は、支払い時に全額を経費処理しているため、戻ってきたときは全額を「雑収入」などの収益科目で処理する必要があります。
例)全額経費で処理した生命保険の保険金1,000万円を普通預金で受け取った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 1,000万円 | 雑収入 | 1,000万円 | 生命保険金の受取 |
(2)全額経費にできない生命保険の保険金を受け取った場合
この場合は、支払い時に「保険積立金」などの資産処理をしているため、その資産を取り崩す処理をします。支払った保険料よりも高い金額の保険金を受け取った場合は、その差額を「雑収入」などの収益科目で処理します。
例)全額経費にならない生命保険の保険金1,000万円を普通預金で受け取った。
なお、保険積立金の残高は990万円である
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 1,000万円 | 保険積立金 | 990万円 | 生命保険金の受取 |
雑収入 | 10万円 | 生命保険金の受取 |
(3)一部(半分)が経費にできる生命保険の保険金を受け取った場合
この場合は、支払い時に経費になる部分は「保険料」などの経費科目で処理し、経費にならない部分は、「保険積立金」などの資産科目で処理しているため、資産部分はその資産を取り崩す処理を、経費部分は「雑収入」などの収益科目で処理します。また、支払った保険料よりも高い金額の保険金を受け取った場合は、その差額を「雑収入」などの収益科目で処理します。
例)支払金額の半分を経費にできる生命保険の保険金1,000万円を普通預金で受け取った。なお、保険積立金の残高は440万円である
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 1,000万円 | 保険積立金 | 440万円 | 生命保険金の受取 |
雑収入 | 460万円 | 生命保険金の受取 |
生命保険の種類とそれぞれの経理処理方法
定期保険と終身保険
ここまで、生命保険全般における処理方法について確認しました。ここからは、生命保険の種類ごとの処理方法を見ていきましょう。
法人で加入する生命保険で多いものに定期保険と終身保険があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
(1)定期保険
定期保険とは、契約時にきめられた一定期間の間に被保険者が死亡した場合に死亡保険金を受け取ることができる生命保険です。満期返戻金がなく、いわゆる掛け捨てといわれる保険です。支払い時は全額経費にできる生命保険です。
(2)終身保険
契約期間がない終身の保険です。いわゆる一生涯にわたって保障される保険のことです。
終身保険は、必ず死亡保険金を受け取ることができる保険です。そのため、支払い時の経理処理は、法人が受取人の場合は全額経費にできない生命保険として、資産計上します。
仮に役員や従業員の遺族が受取人の場合は、会社に保険金が入ってくることはないため、支払い時は従業員の給料として処理します。
養老保険と定期付養老保険
生命保険には、定期保険や終身保険以外にもさまざまな種類があります。ここでは、そのなかで代表的な養老保険と定期付養老保険について解説します。
(1)養老保険
養老保険とは一定の保険期間がある生命保険で、死亡時には死亡保険金が、契約満了時には満期(生存)保険金が受け取れるものです。また、死亡保険金と満期(生存)保険金で受取人を変えることができます。そのため、受取人がどうなっているかで経理処理が異なります。まとめると以下のようになります。
養老保険の経理処理
保険受取人 | 支払い時の 経理処理 |
仕訳例 | |
---|---|---|---|
死亡保険金の受取人 | 満期(生存) 保険金の受取人 |
||
法人 | 法人 | 資産計上 | 保険積立金/普通預金 |
役員・従業員の遺族 | 役員・従業員 | 給与処理 | 給料手当/普通預金 |
役員・従業員の遺族 | 法人 | 1/2資産計上・1/2経費計上 | 保険料/普通預金 保険積立金/ |
(2)定期付養老保険
定期付養老保険とは定期保険と養老保険をプラスした保険で、保険料の払込期間はあるが、保証は一生涯続く保険です。死亡保険金と満期(生存)保険金で受取人を変えることができます。経理処理は、受取人の違いや養老保険部分と定期保険部分のバランスによって異なります。まとめると以下のようになります。
定期付養老保険の経理処理
保険受取人 | 経理処理 | 仕訳例 | |||
---|---|---|---|---|---|
死亡保険金の受取人 | 満期(生存)保険金の受取人 | 養老保険 部分 |
定期保険 部分 |
養老保険 部分 |
定期保険 部分 |
法人 | 法人 | 資産計上 | 経費計上 | 保険積立金/普通預金 | 保険料/普通預金 |
役員・従業員の遺族 | 役員・従業員 | 給与 | 経費計上 | 給料手当/普通預金 | 保険料/普通預金 |
役員・従業員の遺族 | 法人 | 1/2資産計上 1/2経費計上 |
経費計上 | 保険料/普通預金 保険積立金/ |
保険料/普通預金 |
生命保険金を退職金に活用すると、メリットが大きい
法人にとってのメリット
受け取った生命保険金は、退職金に活用するとメリットが大きいといわれています。ここでは、生命保険金を退職金に活用する場合の法人のメリットをみていきましょう。
(1)節税
上述したとおり、受け取った生命保険金は「雑収入」などの収益科目で処理する必要があるケースも多くあります。しかも、その金額は一度に大きな金額になることも多いため、利益が大きくなり、その年度で多くの税金を支払う必要がでてきます。その場合に退職金として役員や従業員に支払えば、退職金は経費となり、保険金の収入と相殺されて利益が抑えられ、税金が安くなります。
(2)従業員への福利厚生
生命保険は従業員への福利厚生になるメリットもあります。
生命保険を退職金代わりに掛けている場合、従業員にとっても、安心して仕事に打ち込むことができ、会社の成長にもつながります。
(3)優秀な人材の確保ができる
現在、採用市場・売り手市場ともいわれ、どの法人も人材を確保するのに苦労しています。
生命保険を退職金代わりに掛けている場合は、採用面でも法人の強みとなり、優秀な人材を確保できるメリットがあります。
役員や従業員側のメリット
次に、退職金として受け取る役員や従業員側のメリットを確認しましょう。
(1)生存中の退職金の場合
定年退職して退職金を受け取る場合、まず老後の生活が安定するというメリットがあります。また退職金には大きな控除額があり、その控除を超えないかぎり税金はかかりません。
控除額は以下のとおりです。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
(2)死亡退職金
役員や従業員が在職中に亡くなった場合、従業員や従業員の遺族に死亡退職金をだす場合があります。この死亡退職金は相続財産になるのですが、500万円×法定相続人の数の非課税限度額があり、優遇されています。たとえば、法定相続人が配偶者と子どもの2人の場合は、500万円×2人=1,000万円までの死亡退職金には相続税がかかりません。
まとめ
法人が生命保険に加入する場合には、多くのメリットがあります。しかし、生命保険には多くの種類があり、その種類や受取人がだれかによって経理処理が異なります。生命保険加入のメリットをしっかりと受けるためにも、きちんとした知識を身に着けることが大切です。