税金対策として、商品の売却代金の入金を来年度以降に遅らせた社長がいました。入金されたタイミングで売上を計上して、利益が増加すると勘違いしたのでしょう。しかし、売却代金の入金を遅らせても、節税とは全く関係ありません。そこで、売上を計上するタイミングについて徹底解説します。
ここが誤解されやすい!売上と入金は違う
「売上=入金」と誤解されている社長や個人事業主は意外と多いです。しかし、税金を計算する上での売上を計上するタイミングには、独特のルールがあります。まずはコンビニエンスストアを例に見ていきましょう。
レジにお金が入金されると売上に計上する本当の理由
コンビニエンスストアで買い物をすると、顧客はレジでお金を支払います。店側は入金したタイミングと同時に売上を計上します。しかし、レジにお金が入ったから売上に計上するわけではありません。商品を顧客に渡したことで代金を受け取る権利が発生するのが、売上に計上する本当の理由です。
売上は代金を受け取る権利が発生した時点で計上する
いったい、受け取る権利とは何でしょうか?
引き続きコンビニエンスストアを例にしましょう。ある顧客がレジの前にあるおでんを試食と勘違いして、箸を伸ばしてこんにゃくなどを勝手に食べたとします。店側としては、本人におでんの代金を支払うつもりが無くても、食べた分は弁償してもらうと考えるのが普通です。結果的に商品を渡したのと同じだからです。法律上でも、コンビニエンスストアは顧客におでん代を請求する権利が発生します。
このように、代金を受け取る権利が発生した時点が売上を計上するタイミングとなります。
売上に計上するタイミングとそのルール
「代金を受け取る権利の発生」
が売上に計上するタイミングであることを明らかにしました。しかし、そのタイミングについては会社が選択できます。そこで、売上に計上するタイミングの例とそのルールについて解説します。
ケース別売上に計上するタイミング
商取引は
・コンビニエンスストアや町工場のように、商品・製品を販売する
・建設業やホームページ制作業のように、受注してから物などを作り引き渡す
・コンサルティングやパソコン修理業のように、形のないサービスを提供する
などが挙げられます。それでは、商取引ごとの売上に計上するタイミングを見ていきましょう。
(1)商品・製品を販売する場合
商品・製品を販売する動きに応じて、売上に計上するタイミングを決められます。
① 出荷基準
商品・製品を発送したタイミングで売上に計上します。本来は販売先に納品しないと売上代金を受け取る権利は発生しませんが、運送業者に依頼した場合、発送する都度、相手に納品したかどうかの確認をするのに手間がかかります。いずれは商品・製品が販売先へ納品されるため、発送したタイミングで売上に計上します。
② 納品基準
販売先に商品・製品が納品されると売上代金を受け取る権利が発生するため、売上に計上します。
③ 検収基準
納品された商品・製品は販売先で検品するのが普通です。その検品をクリアしないと返品される可能性があります。そこで、販売先が検品を終了した時点で売上に計上する検収基準が認められているのです。
(2)受注してから物などを作り、引き渡す場合
受注先から注文を受けて、物などを作る業種についての話です。ホームページ制作業を例に売上に計上するタイミングを説明します。
① 引渡基準
ホームページが完成して、受注先へ納品したタイミングで売上に計上するのが引渡基準です。
② 検収基準
制作したホームページについて、受注先の検品が終了した時点で売上に計上する検収基準が認められています。
(3)形のないサービスを提供した場合
商品・製品の販売やホームページの制作などと違い、サービスの提供は受注先の目に見えません。パソコン修理業を例に、売上に計上するタイミングを説明します。
① 役務完了基準
パソコン修理などのサービスを提供することを「役務の提供」といいます。売上に計上するタイミングは、基本的にパソコンの修理が完了した時点となります。
② 検収基準
パソコンの修理が完了した後、依頼主は動作確認します。その結果、修理に問題ある場合、修理業者へ代金を支払わないのが普通です。そのため、動作確認など検品が終了した時点で売上に計上する検収基準が認められています。
売上に計上するタイミングは取引先ごとで選択・毎年継続するのがルール
ホームページ制作業を例にすると、引渡基準よりも検収基準のほうが売上に計上するタイミングが遅いことは明らかです。そのため、今年度は引渡基準、来年度は検収基準というように、会社が自由に決められると思われがちですが、税金を計算する上では、選択の自由に制限を加えています。そのため、売上に計上するタイミングについて2つのルールを設けています。
(1)取引先ごとに決める
たとえば、ホームページ制作業ならA社は引渡基準、B社は検収基準と取引先ごとに売上に計上するタイミングを決められます。
(2)同じ基準を毎年継続する
上記ホームページ制作業がA社に対して引渡基準を用いていたのに、売上に計上タイミングを遅らせるため、今年度だけは検収基準に切り替えることは認められません。一度、引渡基準を用いたら、毎年継続するのがルールです。
出荷・納品から入金までのサイクルごとによる税金の計算方法
商品・製品の販売やサービスの提供は、「販売・サービスの提供→検収→入金」のサイクルが基本です。そこで、サイクルごとで税金の計算に及ぼす影響を仕訳形式で解説します。
税金は所得に税率を掛けて計算する
法人税や所得税などの税金は所得に税率を掛けて計算します。当然、所得が増えると税金は増加します。
所得の計算方法は次の通りであり、売上を計上すると増え、経費を計上すると減ります。
売上などの収入-費用・損失などの経費=所得
納品または検収が完了した場合
商品・製品の納品やサービスの提供、それらの検品が完了した時点で売上に計上します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 | 所得への影響 |
---|---|---|---|---|---|
売掛金 | 10,000円 | 売上高 | 10,000円 | 掛売上 | 入金に関係なく、所得は増える |
売上代金が入金された場合
上記の商品・製品の納品やサービスの提供に対して、入金された場合は売上に計上せず、次のように処理します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 | 所得への影響 |
---|---|---|---|---|---|
現金預金 | 10,000円 | 売掛金 | 10,000円 | 売掛金の回収 | 入金されても、所得は増えない |
先に手付金をもらった場合
英会話学校などは授業料を先払いするのが普通です。授業というサービスの提供を受ける前に支払う料金のことを手付金といいます。英会話学校を例に、売上に計上するタイミングと次のプロセスを説明します。
(1)手付金(授業料)が入金されたとき
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 | 所得への影響 |
---|---|---|---|---|---|
現金預金 | 10,000円 | 前受金 | 10,000円 | 手付金の入金 | 入金されてもサービス(授業)を提供していないため、売上・所得は増えない |
仮にサービスを行わなかったとき、英会話学校は預かった「現金預金=前受金」を生徒に返金しなければなりません。
(2)サービス(授業)を提供したとき
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 | 所得への影響 |
---|---|---|---|---|---|
前受金 | 10,000円 | 売上 | 10,000円 | 手付金の入金 | サービス(授業)を提供したため、売上・所得は増える |
売上代金を回収できない場合
最悪の場合、商品・製品などを納品しても、販売先が経営難などの理由で代金を支払ってくれないことは十分に考えられます。この入金されない状態のことを「貸し倒れ」といいます。税金を計算する上の貸し倒れとして処理できる条件はおもに次の通りです。
・法律上の貸し倒れ
・販売先などに売上代金を支払う能力がないことについて明らかとなった場合
など
仕訳は次の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 | 所得への影響 |
---|---|---|---|---|---|
貸倒損失 | 10,000円 | 売掛金 | 10,000円 | 売上代金の貸し倒れ | 貸倒損失して経費に計上するため、所得は減る |
まとめ
「売上≠入金」であることを説明してきました。税金の計算では、販売先などから代金を受け取る権利が発生した時点で売上に計上するというルールを用いています。入金する・しないに関係ないため、実感ベースとは異なりますが、計算ミスをすれば税務調査で指摘されてしまいます。だからこそ、売上に計上するタイミングについて、正しい知識が必要となります。