平成30年度の税制改正で個人事業主の青色申告控除額実質引き下げが予定されています。増税につながるため、気になるところでしょう。しかし、引き続き青色申告控除額65万円を受けられる条件があります。その条件とは何でしょうか。青色申告控除額実質引き下げについて解説します。
平成30年度の税制改正、青色申告控除額実質引き下げの真相に迫る
平成30年度の税制改正大綱に青色申告控除額を引き下げる旨が盛り込まれています。それでは、詳しい内容について見ていきましょう。
平成32年分の確定申告から青色申告控除額が10万円引き下げられる
現在は個人事業主が会計ソフトへ入力するなど複式簿記により帳簿を作成すると、基本的に青色申告控除額65万円が受けられます。しかし、それが平成32年分の確定申告から55万円に引き下げられる予定です。そのため、次の税目が増税されます。
税目 | 増税される年 |
---|---|
所得税と復興特別所得税 | 平成32年以降 |
住民税 | 平成33年以降 |
※なお、事業税は青色申告控除額を差し引かずに計算するため、平成30年度の税制改正により増税されることはありません。
また、現金出納帳など簡易簿記により記帳する個人事業主が受けられる青色申告控除額10万円については変更ありません。
引き続き青色申告控除額65万円を受けられる条件とは?
全ての個人事業主が青色申告控除額を55万円に引き下げされるわけではありません。次のいずれかの条件を満たせば、平成30年度の税制改正に関係なく青色申告控除額65万円が受けられます。
(1)電子帳簿で保存すること
電子帳簿保存法で定められた帳簿のことを指します。次の帳簿を紙媒体から電子帳簿による保存へ切り替えるのが条件です。
帳簿名 | 内容 |
---|---|
仕訳帳 | 年間の取引を時系列で記帳する帳簿 |
総勘定元帳 | 勘定科目ごとに時系列で記帳する帳簿 |
(2)確定申告を電子申告で行うこと
確定申告を紙媒体で提出せず、e-Tax(イータックス)を用いてインターネットで税務署へ送信するのが電子申告です。
電子帳簿と電子申告のアウトライン
電子帳簿と電子申告には税法上のルールが定められています。両者の特色や違いについて紹介します。
電子帳簿として認められる条件
税法上、仕訳帳と総勘定元帳が電子帳簿として認められる条件は、帳簿の機能と手続方法に大別できます。
(1)帳簿の機能
税務調査で調査官が帳簿をチェックできるようにするため、次の機能が求められます。
①2項目以上で検索できること
帳簿に記録される勘定科目、取引日、取引内容、取引先、取引金額などの項目のうち、任意に2項目以上を選択して検索できるようにする必要があります。たとえば、総勘定元帳から勘定科目を「売上高」、取引先を「A商店」と検索とします。その結果、A商店に対する売上高が抽出できます。
②範囲指定ができること
取引金額や取引日で範囲指定して検索できることが要求されます。たとえば、仕訳帳から100万円以上の取引を抽出したり12月中の取引だけ抽出したりできることを意味します。
③訂正・削除の履歴を残す
会計ソフトは勘定科目や金額などを訂正したり、入力した取引を削除したりすることができます。税法上の電子帳簿ではこれらの履歴を残すことが要求されます。
たとえば、会計ソフトへ入力した売上高を200万円から190万円に訂正したとします。電子帳簿では訂正する前の200万円と入力した情報を残す必要があります。
(2)手続方法
電子帳簿で保存する年の開始日の3カ月前までに税務署へ手続きすることが原則です。ただ、新たに開業する場合は、開業日から3カ月以内に手続きすれば、電子帳簿による保存が認められます。
電子申告で確定申告をする方法
電子申告で確定申告をするためには、次の手順を踏む必要があります。
(1)署名用電子証明書付きマイナンバーカードを取得する
「誰が確定申告をしたのか」を証明するため、署名するのに用います。
(2)カードリーダーを用意する
電子申告で署名するための機器です。
(3)開始届出書の提出
e-TaxのIDを取得します。確定申告の申告期限まで取得すれば、電子申告は可能です。
(4)e-Taxに確定申告のデータ入力
e-Taxの入力画面は紙ベースの青色申告決算書や確定申告書と書式は同じです。
(5)確定申告の申告期限までに送信
マイナンバーカードとカードリーダーを用意して、申告期限である3月15日までに税務署へデータを送信します。そもそも申告期限を過ぎると青色申告控除額65万円は受けられません。
なお、e-Taxの導入や操作方法などで迷ったときには、e-Tax・作成コーナーヘルプデスクに問い合わせることができます。
電話番号 | 0570-01-5901 | |
---|---|---|
問い合わせ日時 | 通常 | 月曜日~金曜日 午前9時から午後5時 (祝日等及び12月29日~1月3日を除きます) |
平成30年1月15日~ 平成30年3月15日まで |
月曜日~金曜日 午前9時から午後8時 (祝日を除きます。)日曜日(2月18日・25日、3月4日・11日) 午前9時から午後8時 |
電子帳簿と電子申告、どちらがハードルは低い?
電子帳簿は開始日の3カ月前まで手続きが必要であり、全ての会計ソフトが対応しているわけではありません。
一方、電子申告はe-Taxという国税庁のシステムを用いるため、基本的に誰でも無料で使用できます。また、平成31年から実施する電子申告から手順が簡便化される予定です。詳細は国税庁で検討中ですが、現時点では開始届出書の提出を省略することが検討されています。仮にそれが実現されると、e-TaxのID取得が不要となります。
以上から、引き続き青色申告控除額65万円を受けるためには、電子帳簿よりも電子申告を検討したほうが現実的といえます。
電子申告に署名用電子証明書付きマイナンバーカードは必須?
電子申告を行うためには、確定申告をした人の証明が必要です。その役割を果たすのが署名用電子証明書です。そこで、署名用電子証明書付きマイナンバーカードが必須かどうかを検証します。
電子申告は住基カードでもできるが、将来は?
住基カード(住民基本台帳カード)にも署名用電子証明書が付いていれば電子申告は可能です。しかしそれは、次の理由から将来まで保証されません。
(1)住基カードの交付はすでに停止されている
平成27年12月末をもって住基カードの交付は停止されました。したがって、新たに署名用電子証明書付きの住基カードを取得するのは不可能です。
(2)署名用電子証明書には有効期限がある
住基カードの交付が停止された以上、署名用電子証明書の有効期限が切れた段階で電子申告はできなくなります。
マイナンバーカードに署名用電子証明書を付けないで電子申告をする方法
電子申告に署名用電子証明書付きマイナンバーカードが必須かといえば、必ずしも必要とはいえません。電子申告に署名できる資格のある人は本人だけでなく、税理士にも同じ権限が与えられています。そのため、確定申告を税理士に依頼する場合には、本人は開始届出書の提出をしてe-TaxのIDを取得するだけで済みます。もちろん、カードリーダーも不要です。
まとめ
平成30年度の税制改正による青色申告控除額実質引き下げは増税というよりも、電子申告での確定申告を促すのが目的ではないでしょうか。そのために平成31年から実施される電子申告から簡便化が予定されています。また、確定申告シーズンはヘルプデスクの体制がより充実しています。平成30年の税制改正を機に、電子申告で確定申告をすることをおすすめします。