わが国の労働者は、大きく個人事業主と給与所得者に分けられます。両者は働き方が大きく異なるだけではなく、実は税金の考え方も異なります。もし、どちらの働き方をするか迷う場合は、税金の考え方も考慮して決める必要があります。ここでは、税金の考え方を中心に、個人事業主と給与所得者の違いを解説します。
給与所得者の税金の計算方法
給与所得者ってどんな人?
個人事業主と給与所得者の税金の考え方の違いを見る前に、まずはそもそも給与所得者とはどのような人のことを指すのか確認しましょう。
給与所得者とは、サラリーマン・パート・アルバイトのように、仕事の対価として、給料や賃金、賞与の収入を得ている人のことをいいます。役員報酬や役員賞与をもらっている会社役員や、俸給をもらっている公務員も給与所得者です。実は、国会議員も歳費をもらっている給与所得者になります。
給与所得者の税金の計算方法
サラリーマンなどの給与所得者は、所得税を毎月の給料から天引きされ、年末には会社が年末調整で1年間に天引きした所得税の過不足を調整します。そのため、自分で1年間の所得税の金額を計算することはありません。ここでは、個人事業主との違いを見ていくために、自分で1年間の給与に対する所得税を計算する方法を見ていきましょう。
1年間の給与に対する所得税の計算は、次の手順で行います。
①毎月の給料を1年間集計する
②給与所得を求める
③給与所得から各種所得控除を差し引き、課税される所得を求める
④課税される所得に税率を乗じて、所得税の金額を求める
では、具体例で実際に計算してみましょう。
(例)毎月の給料30万円、賞与年2回合計100万円、独身、生命保険を年間10万円(生命保険料控除8万円)支払いの場合
①毎月の給料を1年間集計する
毎月の給料30万円×12か月+賞与100万円=460万円
②給与所得を求める
所得税の計算をする場合は給与所得を求める必要があります。給与所得は次の計算式で求めます。
給与所得金額=1年間の給与-給与所得控除
給与には、給与の金額によって、一定金額の給与所得控除が認められています。
1年間の給与から給与所得控除を差し引いて、給与所得を求めます。給与所得控除額は給与金額に応じ、次の表の計算式で求めます。
給与所得控除(平成29年分)
1年間の給与等の金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
1,800,000円以下 | 収入金額×40% 650,000円に満たない場合には650,000円 |
1,800,000円超 3,600,000円以下 | 収入金額×30%+180,000円 |
3,600,000円超 6,600,000円以下 | 収入金額×20%+540,000円 |
6,600,000円超 10,000,000円以下 | 収入金額×10%+1,200,000円 |
10,000,000円超 | 2,200,000円(上限) |
今回の例で計算してみましょう。
1年間の給料は、460万円なので、給与所得控除額は、460万円×20%+540,000円=146万円
給与所得金額=460万円-146万=314万円
③給与所得から、各種所得控除を差し引き課税される所得を求める
所得税では、家族がいることや保険の支払いがあるなどの個人的な事情を考慮するため、基礎控除や配偶者控除、生命保険料控除などの所得控除を設けています。そのため、所得税を計算する前に、給与所得から各種所得控除を差し引き、課税される所得を求めます。
今回のケースでは、基礎控除38万円+生命保険料控除8万円=46万円の所得控除があります。
課税される所得金額=314万円-46万円=268万円
④課税される所得に税率を乗じて、所得税の金額を求める
所得税は、所得が高ければ高いほど税率が高くなる累進課税制度を採用しています。そのため、所得に応じた税率を使い所得税の金額を計算します。所得税は次の表の計算式を用いて計算します。
平成27年分以降の所得税速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
今回のケースでは、課税される所得金額が268万円のため、「10%-97,500円」で計算します。
所得税の金額=課税される所得金額が268万円×10%-97,500円=170,500円
個人事業主の税金の計算方法
個人事業主ってどんな人?
次に個人事業主について見ていきましょう。
個人事業主とは、事業所得や不動産所得などから生ずる収入がある人のことです。
具体的には農業や、漁業、建設業、製造業、卸売業や小売業、不動産業などの事業を営んでいる個人のことです。
個人事業主は給与所得者と違い、原則毎月の収入から所得税が引かれることはないため、自分で所得や所得税の金額を計算し、確定申告をする必要があります。
青色申告の概要とメリット
個人事業主は毎年、確定申告を行いますが、確定申告には青色申告と白色申告があります。
個人事業主は、自分で所得や所得税の金額を計算する必要があるため、正確さが必要です。
「その正確さを担保するため、正しい帳簿付けやその帳簿書類の保存などを行っている場合は、一定の特典を付けますよ」というのが青色申告です。
青色申告には、赤字を翌年以降に繰り越せたり、家族への給料を経費にできたりするなど、さまざまな特典がありますが、節税効果が大きいものが青色申告特別控除です。青色申告特別控除とは所得金額から最高65万円の控除ができるというものです。個人事業主で65万円の経費を用意するのは難しいため、大きな節税といえるでしょう。
個人事業主の税金の計算方法
では、個人事業主の所得税を計算する方法を見ていきましょう。個人事業主に対する所得税の計算は、次の手順で行います。
①1年間の売上や経費を集計し、所得を求める
②所得から、各種所得控除を差し引き課税される所得を求める
③課税される所得に税率を乗じて、所得税の金額を求める
では、具体例で実際に計算してみましょう。
(例)1年間の売上700万円、経費400万円、青色申告、独身、生命保険を年間10万円(生命保険料控除8万円)支払いの場合
①1年間の売上や経費を集計し、所得を求める
所得金額は、次の計算式で求めます。
所得金額=1年間の売上(収入)-経費-青色申告特別控除
今回のケースでは、売上700万円-経費400万円-青色申告特別控除65万円=235万円が所得金額です。
②所得から、各種所得控除を差し引き課税される所得を求める
こちらは、給与所得の場合と同じ計算です。今回のケースでは、次のようになります。
課税される所得金額=235万円-46万円=189万円
③課税される所得に税率を乗じて、所得税の金額を求める
所得税の速算表により所得税を計算します。今回のケースでは、課税される所得金額が189万円のため、「5%」で計算します。
所得税の金額=課税される所得金額が189万円×5%=94,500円
個人事業主と給与所得者の違い
個人事業主と給与所得者の経費の考え方
ここまで、個人事業主と給与所得者の税金の計算方法を見てきました。では、それぞれの立場における経費とは何でしょうか。
個人事業主の場合は、売上を生み出すためにかかった費用が経費です。例えば、小売業なら販売商品の仕入高やお店の家賃など、製造業なら材料の仕入れや工場の賃料などが経費になります。
しかし、原則として給与所得者の場合は、経費は認められていません。その代わりに、一定の金額の給与所得控除があります。ここだけ見ると、個人事業主の方が経費にできる額が多そうです。しかし、フリーランスで活動するライターやエンジニアなど、自分の技術で収入を得る場合は、仕入れなどもないので経費に計上できるのが少ない場合もあります。個人事業主と給与所得者どちらになるか迷っている場合は、経費の考え方にも注意しましょう。
個人事業主と給与所得者のその他の違い
個人事業主と給与所得者では、税金や経費以外に健康保険などでも違いがあります。主な違いを表にまとめました。参考にしてください。
給与所得者 | 個人事業主 | |
---|---|---|
健康保険 | 会社が加入する健康保険に加入
給与額などで保険料を算出 毎月納める保険料は会社と折半 |
国民健康保険に加入
世帯収入などで保険料を算出 全額自己負担 |
年金 | 厚生年金に加入
給与額などで保険料を算出 毎月納める保険料は会社と折半 |
国民年金に加入
所得額に関係なく一定金額を支払い 全額自己負担 |
まとめ
今回は、税金の考え方を中心に、個人事業主と給与所得者の違いを解説しました。個人事業主と給与所得者では、所得税の計算方法や納税のしくみが違ったり、経費の考え方や健康保険等にも違いがあったりします。個人事業主として独立などを考える場合は、しっかりと個人事業主と給与所得者の違いを検討しましょう。