サラリーマンが会社を退職して、個人事業主になる場合には、年金や保険などさまざまなことがどう変わるのか確認しておく必要があります。確認しておかないと、計画していなかった支払いがあったり、思ったより高い保険料になったりすることも。ここでは、個人事業主が加入できる年金や保険の種類を解説します。
個人事業主が加入できる年金や保険
個人事業主が加入する保険制度
個人事業主が加入できる年金や保険には、いろいろな種類があります。まずは、保険制度から見ていきましょう。
個人事業主が加入できる保険制度には、国民健康保険、業界の保険、任意継続の3つがあります。
①国民健康保険
国民健康保険は、他の健康保険に加入していない場合に必ず加入しないといけない健康保険です。そのため、勤めていた会社を辞め、会社が加入している健康保険から脱退した場合は、通常、国民健康保険に加入します。
国民健康保険への切り替えは、住んでいるところの市区町村役場の窓口で行います。サラリーマンの場合の健康保険料は、会社と従業員で折半で支払いますが、個人事業主の場合は、全額自己負担です。また、国民健康保険では、世帯収入などで保険料が異なるので注意が必要です。
②業界の保険
建設業や製造業など、仕事の業種によってはその業界に健康保険組合がある場合も多くあります。業界の保険は、国民健康保険とは加入条件や保険料が異なります。多くの場合、収入ではなく扶養家族の人数や加入者の年齢などで保険料の金額が決まります。加入条件や保険料についての詳細は、その業界の健康保険組合に問い合わせが必要です。
③任意継続
任意継続とは、退職して個人事業主になっても、勤めていた会社が加入していた社会保険に加入し続けることができる制度です。勤めていた会社が加入していた社会保険に加入といっても、サラリーマンの時と違い、保険料を会社と折半ということはなく、全額自己負担となります。ただし、一般的にはサラリーマンの時と同じ収入であれば、国民健康保険より任意継続のほうが保険料は安くなります。任意継続は最長で2年間のみ継続できます。
個人事業主が加入する年金制度
次に、個人事業主が加入する年金制度を見ていきましょう。
①国民年金
国民年金は、個人事業主の場合は皆加入する必要のある年金です。実は、サラリーマンも加入しなければならないのですが、厚生年金保険に入ることで、国民年金にも自動で加入していることになります。国民年金は厚生年金と違い、全額自己負担することになります。
ここで注意が必要となるのが配偶者の年金です。サラリーマンの場合、配偶者の収入が130万円以内であれば、保険料を支払う必要がありませんでした。しかし、国民年金の場合は収入金額に関係なく一律の保険料を支払う必要があるため、世帯の負担が増える場合があります。
②国民年金基金
国民年金基金は、国民年金の上乗せ制度です。サラリーマンの厚生年金と国民年金の差をなくすために創設された制度です。毎月の掛け金には上限があり、上限内であれば、給付の型及び加入口数は自分で決めることができます。
③個人型確定拠出年金 iDeCo(イデコ)
個人型確定拠出年金は、毎月支払った掛金を自分で運用し、60歳以降に年金または一時金で受け取るという、自分で自分の老後に備える制度です。個人型確定拠出年金には、次のような税制の優遇もあります。
(1)支払った全額が所得控除の対象
(2)運用益が非課税
(3)受取時に公的年金等控除または退職所得控除を受けることができる
個人事業主が加入する民間の保険制度
個人事業主が加入できる保険には、民間の生命保険や地震保険、火災保険などの制度があります。生命保険や地震保険、火災保険は、サラリーマンでも加入できますが、例えば事業用の店舗に掛けられた地震保険や火災保険は経費にすることもできます。
個人事業主になったら、保障のことや経費のことなどを考えながら保険の加入を考えましょう。
個人事業主が年金や保険に加入している場合の税金
個人事業主が加入している年金や保険は所得控除になる
ここまでは、個人事業主が加入できる年金や保険を見てきました。ここからは、その年金や保険と税金の関係を見ていきましょう。
所得税の金額は、利益(所得)から所得控除を差し引いた額に税率を乗じて計算します。
所得控除とは、個人的な事情を考慮するために設けられている控除で、基礎控除や配偶者控除など多くの控除があります。1年間に支払った健康保険や年金の金額は、全額が所得控除となるので、節税効果があります。
ちなみに、健康保険や年金は個人事業の経費にはなりません。そのため、帳簿付けをする必要はありません。
ただし、事業用の通帳から支払った場合は、「事業主貸」勘定で帳簿付けします。例えば、国民健康保険2万円を事業用の通帳から支払った場合の仕訳は以下のとおりです。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
事業主貸 | 2万円 | 普通預金 | 2万円 | 健康保険の支払 |
生命保険料控除と地震保険料控除
生命保険と自宅に対する地震保険を支払った場合も、所得控除の対象になります。しかし、健康保険や国民年金のように全額がそのまま所得控除の金額になるのではなく、一定の計算後の金額が所得控除の金額になります。
①生命保険料控除
生命保険料には平成23年12月31日以前に契約を結んだ旧契約と、平成24年1月1日以降に契約を結んだ新契約の2つがあります。
旧契約は、一般分、個人年金分の2つの区分ごとに、新契約は、一般分、個人年金分、介護医療保険分の3つの区分ごとに、以下の表に1年間の支払金額をあてはめて、控除額を計算します。
・旧契約
年間の支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
25,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
25,000円超 50,000円以下 | 支払保険料等×1/2+12,500円 |
50,000円超 100,000円以下 | 支払保険料等×1/4+25,000円 |
100,000円超 | 一律50,000円 |
・新契約
年間の支払保険料等 | 控除額 |
---|---|
20,000円以下 | 支払保険料等の全額 |
20,000円超 40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
40,000円超 80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
②地震保険料控除
地震保険料控除の対象になる保険は、いわゆる地震保険と呼ばれるもの(火災保険部分を除く)と、旧長期損害保険料の2つです。
旧長期損害保険料とは、平成18年12月31日までに締結し、契約保険期間が10年以上のもので満期返戻金等がある保険の保険料です(平成19年1月1日以後に契約内容の変更をしたものを除く)。
それぞれ以下の表に1年間の支払金額をあてはめて控除額を計算します。
・地震保険料
年間の支払保険料 | 所得税控除額 |
---|---|
50,000円以下 | 支払金額 |
50,000円超 | 一律50,000円 |
・旧長期損害保険料
年間の支払保険料 | 所得税控除額 |
---|---|
10,000円以下 | 支払金額 |
10,000円超20,000円以下 | 支払金額÷2+5,000円 |
20,000円超 | 一律15,000円 |
※地震保険料と旧長期損害保険料の両方がある場合は、それぞれの保険の控除額を別々に計算し、合算します。ただし、控除額の上限は合計50,000円までです。
1枚の証明書に両者の記載がある場合は、どちらか有利な一方の金額のみが控除額となります。
年金や保険を受け取ったときは?
公的年金を受け取っているときの処理方法
次に、個人事業主が年金や保険を受け取ったときの処理について見ていきましょう。
公的年金等を受け取っている場合は、事業所得ではなく、雑所得として処理します。
公的年金は、1年間に受け取った年金の金額から、公的年金等控除額を差し引いた金額が、所得金額となります。
公的年金等控除額は、年齢や1年間に受け取った額に応じて、以下の表で計算した金額になります。
・65歳未満の場合
1年間の公的年金等の収入金額 | 公的年金等控除額 |
---|---|
130万円未満 | 70万円 |
130万円超 410万円未満 | 収入金額×25%+37.5万円 |
410万円超 770万円未満 | 収入金額×15%+78.5万円 |
770万円超 | 収入金額×5%+155.5万円 |
・65歳以上の場合
1年間の公的年金等の収入金額 | 公的年金等控除額 |
---|---|
330万円未満 | 120万円 |
330万円超 410万円未満 | 収入金額×25%+37.5万円 |
410万円超 770万円未満 | 収入金額×15%+78.5万円 |
770万円超 | 収入金額×5%+155.5万円 |
ちなみに、公的年金が振り込まれても帳簿付けをする必要はありません。
ただし、事業用の通帳に振り込まれた場合は、「事業主借」勘定で帳簿付けします。
例えば、公的年金14万円が事業用の通帳に振り込まれた場合の仕訳は以下のとおりです。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 14万円 | 事業主借 | 14万円 | 公的年金の受取 |
満期などで保険金を受け取ったときの処理方法
生命保険などの保険が満期になり保険金を受け取ったときの処理について見ていきましょう。
実は、その保険金を一度にすべて受け取るのか、年金として分けて受け取るのかで処理方法が異なります。
・一度にすべて受け取る場合
保険金を一度にすべて受け取る場合は、一時所得になります。税金の対象となる一時所得は次のように計算します。
・年金として分けて受け取る場合
保険金を年金として分けて受け取る場合は雑所得になります。雑所得は次のように計算します。
その年に受け取った年金の額-受取金額に対応する掛け金の金額
まとめ
個人事業主には、加入できる年金や保険制度がいろいろあります。そのため、自分がどの年金や保険に加入すべきか、加入した場合の支払金額がどれくらいになるかなどを、あらかじめ把握しておく必要があります。また、その年金や保険を支払ったときや受け取ったときは税金が関係してきます。この記事を参考に、ぜひ適正な処理をしてください。