個人事業主は毎年、1年間の所得や税額を計算し、国に申告・納付する必要があります。確定申告時期に1年間のレシートを集計したり、帳簿付けをしたりする個人事業主も多いでしょう。では、仕事が忙しくて申告が遅れたり、申告しなかったりするとどうなるのでしょうか。今回は、個人事業主の無申告について解説します。
確定申告をしなければならない人としなくていい人
確定申告を必ずしなければならない人
個人事業主は毎年、確定申告をする必要があります。しかし、実は個人事業主は、確定申告を必ずしなければならない人としなくていい人の2つに分けられます。確定申告をしなくていい人は、確定申告をしなくても無申告にはなりません。そのため、どういう場合に確定申告が必要か、また逆に必要でないのかを理解しておく必要があります。まずは、確定申告を必ずしなければならない人から見ていきましょう。
確定申告を必ずしなければならない人は、主に次のとおりです。
- ①支払う税額のある人
- ②給与の収入がある場合で、その金額が2,000万円をこえる人
- ③同族会社の役員、その親族で、会社から貸付金の利子や地代家賃の支払いを受けている人
- ④医療費控除や寄付金控除、住宅ローン控除などを受ける人
- ⑤退職金等を受け取った人で「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出せず、源泉徴収された所得税が正規の税額より少ない場合
上記のなかで、多くの個人事業主が関係してくるのが、①と④です。
黒字があり、支払う税額のある個人事業主は確定申告をする必要があります。また、医療費控除や寄付金控除を受けるためには、そもそも確定申告することが要件のため、この場合も確定申告をする必要があります。
確定申告をしなくていい人
次に確定申告をしなくてもいい人を見ていきましょう。
確定申告をしなくてもいい人は主に次のとおりです。
- ①支払う税額がない人
- ②サラリーマンなど、給与を1か所から受け取っている人で、給与所得及び退職所得以外の合計所得が20万円以下の人
- ③会社役員や、パート・アルバイトなど、給与を2か所から受け取っている人で、従となる給与の金額と給与所得及び退職所得以外の所得の合計が20万円以下の人
- ④公的年金等の収入金額が400万円以下で、それ以外の所得が20万円以下の人
上記の中で、多くの個人事業主が関係してくるのが、①です。
事業が赤字の場合や、黒字でも基礎控除や配偶者控除などの控除をすれば支払う税額がない場合は申告する必要がありません。
※青色申告特別控除で65万円控除を受ける場合は、支払う税金がなくても期限内に申告する必要があります。
また、②や③は、副業として個人事業を行っている場合に関係してきます。
ただし、融資を受ける場合は、確定申告書の控えや所得証明書が必要となります。確定申告をしないと国や自治体からの所得証明の発行を受けることができないので注意しましょう。
所得税が無申告の場合のペナルティ
所得税の無申告や期限後申告には罰金がかかる
確定申告を必ずしなければならない人が無申告であったり、期限後に申告した場合には、ペナルティが課されます。ペナルティの1つに罰金があります。ここでは、どのような罰金があるか見ていきましょう。
①延滞税
延滞税は、納付期限までに納付しなかった場合に課される税金です。
あくまで、期限までに納付しなかった場合に課される税金なので、申告を期限までにしていたとしても、納付が遅れれば、延滞税は課されます。
税率は最大14.6%(2か月以内は7.3%)です。ただし、毎年財務大臣が告示する特例基準割合により、計算した税率と、14.6%(2か月以内は7.3%)のどちらか低い税率を用いて延滞税を計算するため、税率が14.6%になることは、ほとんどありません。
延滞税の金額は、以下の国税庁ホームページで計算することができます。
②無申告加算税
無申告加算税は、申告期限までに申告しなかった場合に課される罰金です。
所得税の金額や、自主的に期限後申告をしたのか、税務署から指摘を受けて期限後申告したのかで税率が変わります。
・原則
納める所得税が50万円までの部分は15%、50万円を超える部分は20%の無申告加算税が課されます。
・自主的に期限後申告した場合
納める所得税の金額にかかわらず5%の無申告加算税が課されます。
・税務調査の事前告知があり、その告知から税務調査を受ける前までに自主的に期限後申告した場合
納める所得税が50万円までの部分は10%、50万円を超える部分は15%の無申告加算税が課されます。
③重加算税
重加算税は悪質な隠ぺいまたは偽装があったと認められたときに課される罰金です。
申告していた場合は35%、無申告の場合は40%ものペナルティが課されます。
※無申告や期限後申告のペナルティではありませんが、期限内申告をしていても、申告内容に間違いがあった場合は、過少申告加算税が課される可能性があります。
最悪の場合は、刑事罰を受ける可能性がある
申告をしなければならない人が無申告の場合に課されるペナルティは、罰金だけではありません。最悪の場合は、刑事罰を受ける可能性もあります。
平成23年に、「故意の申告書不提出によるほ脱犯」が創設されました。これは、故意に「納税申告書を法定申告期限までに提出しないことにより税を免れた者」を処罰する規定のことです。この規定により、無申告であったことがわかり、しかもそれが故意に税金の納付を逃れようとする場合であった場合は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金または、これらの両方が課されることになります。
無申告はどのようにしてばれる?
申告すべき人による無申告にはペナルティが課されます。しかし、無申告はばれないと考えている人がいるかもしれません。実は、さまざまなところから無申告がばれる場合があります。
①取引先への税務調査
収入があるということは、当然、物やサービスを提供した先があるはずです。提供先が個人事業主や法人の場合は、その個人事業主や法人の経費として計上されているはずです。取引先に税務調査が入った場合は経費の支払先のことを調べます。その過程で、無申告であることがばれる場合があります。
②税務署には多くの資料がある
個人事業主や法人は、税金の申告書以外にさまざまな資料を税務署に提出する必要があります。家賃の支払先や報酬の支払先が記載された支払調書や、取引先と金額などを記載した資料などを毎年提出しています。そういった資料から無申告がばれる場合があります。
③国税庁の重点施策
国税庁では、毎年、世相を反映して、その年の重点施策を設けます。例えば、以前はFXやアフィリエイトをしている人の課税状況を確認するために重点的に調査を行い、無申告の人を摘発するということもありました。このように国税庁の重点施策によって、無申告がばれる場合があります。
④税務署へのタレコミ
税務署へのタレコミにより、税務調査が入ったという話を聞いたことがある人も少なくないでしょう。実際、国税庁のホームページからも、情報の提供をすることができます。
税務署もすべてのタレコミに対応するわけではありません。慎重に情報を検討して、その事実が明らかな場合で、悪質な場合や規模が大きい場合に調査を行います。こういった税務署へのタレコミから無申告がばれる場合があります。
まとめ
個人事業主にとって、確定申告はとても手間のかかる作業です。しかし、無申告であることは、さまざまなところからの情報などによって税務署に知られることになります。また、無申告の場合は、大きい金額の罰金や刑事罰など、とても大きなペナルティがかかります。結果として、きちんと申告をしておいた方が良かったと後悔することになりかねません。個人事業主は必ず確定申告をするようにしましょう。