法人の設立後に税金面で損しているケースが見受けられます。それは設立の手続きをしただけであることが原因。法人の設立で税金対策をするためには、事前の準備と設立後の手続きが大切になってきます。そこで、事前の準備、設立の手続きにかかる税金・費用、設立後に必要な手続きの3点から税金対策について解説します。
法人を設立する前の税金対策
法人の税金対策は設立する前の準備段階によって、負担する税額が大きく違ってきます。具体例を3つ見ていきましょう。
資本金は1,000万円未満が税金対策の基本
そもそも設立するときの資本金を1,000万円未満にすることがなぜ税金対策の基本なのでしょうか。それは消費税を納める義務が最長で2年間免除される・されないの分岐点となるからです。この免除される事業者のことを免税事業者といいます。
仮に資本金が1,000万円以上の場合、消費税は「預かった消費税-支払った消費税」の残額を納付する義務があります。この納付する義務のある事業者のことを課税事業者といいます。
預かった消費税 | 売上に付随して預かる消費税 |
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支払った消費税 | 人件費を除いた経費に付随して支払う消費税 |
支払った消費税のうち人件費を除くため、赤字でも納付する可能性の高い税目です。そのため、消費税を納める義務を免除されるかどうかは、法人の資金繰りに大きく影響します。したがって、設立するときは資本金を1,000万円未満にすることが税金対策の基本となります。
税金対策を有利にするためには期首を利益の最も出る月に設定する
法人は期首とする月を自由に設定できます。そのため、税金対策を有利にするためには、利益の出る月を期首に設定することが大切です。たとえば、旅行代理店を設立するとします。繁忙期がお盆の場合、8月が年間で最も利益の出る月になる可能性が高くなります。決算日は翌年7月31日であり、決算までの期間が長いほうが広告宣伝費への投入など、余裕かつ計画的に税金対策を実施することができます。一方、利益の出る月を決算月にすると、生命保険の法人契約など税金対策の選択肢が限られます。
消費税の還付を受ける場合はあえて課税事業者を選択する
先に述べた通り、課税事業者は「預かった消費税-支払った消費税」の残額を納付しますが、支払った消費税のほうが多ければ、払いすぎた分が還付されます。しかし、免税事業者は還付を受けることができません。そのため、次のようなケースで還付を受けるためには課税事業者を自ら選択する必要があります。
(1)多額の設備投資をする場合
製造業が多額の設備を購入するのはもちろん、高額の機械装置をリースする場合にも課税事業者の選択を検討する価値はあります。たとえば、税抜5,000万円の印刷機をリース契約するとします。5,000万円に対する消費税が「支払った消費税」としてカウントされ、預かった消費税から差し引かれます。
(2)輸出業の場合
商品などを国内で仕入れて海外へ輸出するとき、国内で売り上げるのとは異なり、消費税が課税されません。一方、国内で仕入れた商品については支払った消費税にカウントされます。つまり、預かった消費税は0円のため支払った消費税分が還付されます。
特に多額の設備投資により課税事業者を選択する場合は注意が必要です。2~3年間は免税事業者にはなれないからです。そのため、初年度の還付される消費税より2年目に納付する消費税のほうが多いと、免税事業者よりも税金の負担額が多くなる可能性があります。
なお、法人を設立した場合、課税事業者選択届出書の提出期限はその年度の決算月の末日までとなります。
法人の設立にかかる税金・費用
法人を設立するためには、所定の手続きが必要です。それに伴う税金・費用を紹介します。
株式会社と合同会社の設立にかかる税金・費用を徹底比較
株式会社と合同会社は同じ営利法人ですが、設立の手続方法や税金・費用が異なります。そこで、両者を比較しながら見ていきましょう。
(1)株式会社
設立の手続きは次の手順を踏み、それに伴う税金・費用がかかります。
①定款を作成し、公証役場で認証を受ける
定款の認証を受けるための手数料3万円と印紙代4万円がかかります。
②資本金を払い込み、設立登記する
資本金の1,000分の7の登録免許税がかかります。なお、資本金の金額が少ない場合は、最低15万円が課税されます。
株式会社の設立に必要な税金・費用はトータルで約24万円となります。
(2)合同会社
株式会社と違って、公証役場で定款の認証を受ける手続きを省くことができます。設立の手順とそれに伴う税金・費用を見ていきましょう。
①定款を作成する
印紙代4万円がかかります。
②資本金を払い込み、設立登記をする
株式会社と同じように資本金の1,000分の7の登録免許税がかかります。しかし、最低金額が6万円で済みます。
合同会社の設立に必要な税金・費用はトータルで約10万円となり、株式会社よりも約14万円安く済みます。
電子定款なら印紙代4万円が節約できる
そもそも電子定款とは、紙媒体の定款に代えた制度です。ワードなどで作成した定款をPDFファイルに変換し電子署名をします。紙媒体の定款を電子定款にすることで、印紙代4万円が免除されます。特に合同会社の設立をするとき、定款の作成に伴う税金・費用がほとんどかかりません。
電子定款に必要な初期費用
電子定款を作成するためには、PDFファイルに電子署名をできることが求められます。そのためには、電子署名のできるソフトと署名するためのカードリーダーが必要です。京橋公証役場ホームページのQ&Aによると次の通りです。
・PDF変換ソフトAdobe Acrobat 約3万5,000円
・ICカードリーダライタ 約3,000円
電子定款を自分で作成する初期費用と手間を加味すると、司法書士や行政書士に依頼した方が得策といえます。
法人の設立後に必要な税金対策
法人の設立後に税務署などへ必要書類を提出します。そのなかには、税金対策に欠かせない書類があります。具体例を2つ紹介しましょう。
法人設立の届出とセットに青色申告の申請をしよう
法人を設立すると設立日から2ヵ月以内に「法人設立届出書」を税務署へ提出する必要があります。そのタイミングで青色申告の申請をすることが税金対策では必須です。「青色申告の承認申請書」の提出期限は次のうちの早い日となります。
・設立日から3ヵ月以内
・初年度の決算日の前日(3月31日が決算日の場合は3月30日を意味します)
青色申告の申請をしないと、税金面で不利になってしまいます。
(1)備品など固定資産の購入費用が一括で経費として落とせる金額が、30万円未満までではなく10万円未満に縮小されます。
(2)初年度の赤字の金額が次年度以降の利益と相殺できません。たとえば、初年度の赤字が100万円、次年度の利益が200万円とします。
ケース別 | 次年度の税金の計算方法 |
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青色申告の申請をしている場合 | 利益200万円から赤字100万円を差し引いた残額100万円に税率を掛けて計算します。 |
青色申告の申請をしていない場合 | 赤字100万円は切り捨てられて、利益200万円に対して税率を掛けることになります。 |
源泉所得税と住民税は納期の特例を選択しよう
従業員10人未満で開業する場合、天引きする源泉所得税と住民税の納付は納期の特例を選択することをおすすめします。基本的に源泉所得税と住民税は天引きした翌月10日までに納付しますが、納期の特例を選択することで6ヵ月分を後払いできるからです。提出期限は次の通りです。
税目 | 本来の提出期限 | 備考 |
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源泉所得税 | 天引きする月の前月末日 | 設立した月に天引きした場合は翌月10日までに納付する必要があります。 |
住民税 | 天引きする月の下旬から翌月10日 | 市区町村によって異なります。 |
まとめ
いかがでしたか。
法人の設立で税金対策を施すポイントは準備段階と設立後の手続きといえます。特に資本金の金額や期首の月の設定などは設立後に軌道修正することができません。そのため、法人を設立するときは準備段階を含めて計画的に行いましょう。
参考サイト
- http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm
- http://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/1461_01.htm
- http://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/24/01.htm
- http://www.koshonin.com/teikan.html
- http://www.k-kosho.jp/index01c.html
- http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5100.htm
- http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2505.htm