個人事業主から法人成りをするなら 事前に知っておきたい税金について解説 | MONEYIZM
 

個人事業主から法人成りをするなら
事前に知っておきたい税金について解説

法人成りを検討する段階の個人事業主にとって、設立後の税金は気になるところでしょう。確かに個人事業主と法人とでは税金の取り扱いは異なります。また、法人成りならではの税金の計算方法は特殊です。そこで、個人事業主と法人の税金の違いと法人成りによる特殊な内容について解説します。

法人成りをする前に個人事業主と法人にかかる税金を徹底比較

個人事業主が法人成りをするなら事前に知っておきたいのが法人との税金の違いです。そこで、両者の税金を徹底比較します。

所得に対する税率の違いを検証する

個人事業主と法人は「収入-経費=所得」に税率を掛けて計算する点で共通しています。しかし、個人事業主と法人の税率は違います。

(1) 個人事業主

個人事業主の所得税率は累進課税制度を採用しています。次のように所得に比例して税率が高くなります。

(所得税の速算表)
課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

 

また、イメージ図は次の通りです。

(出典:財務省)

(2) 法人

法人の場合、法人税率はほぼ一律です。中小企業の場合は次の通りです。

所得の金額 決算月が平成30年3月31日までの年度 決算月が平成30年4月1日以降の年度
800万円以下の部分 15%(※) 15%(※)
800万円を超える部分 23.4% 23.2%

※決算日が平成31年3月31日までの年度に適用される税率です。決算日が平成31年4月1日以降は原則の19%が適用される可能性があります。

青色申告特別控除と給与所得控除を比較する

両者はお金の負担がないにもかかわらず、所得から差し引ける点で共通しています。しかし、差し引ける金額が違います。

(1)青色申告特別控除

個人事業主が青色申告で確定申告をした場合に所得控除できる制度です。最高額は65万円となります。

(2)給与所得控除

法人の経営者は会社から役員報酬(給料)を支給されます。そのため、給与所得控除の金額が経営者の所得から控除できます。その金額は年収に応じて次の通りです。

給与等の収入金額

(給与所得の源泉徴収票の支払金額)

給与所得控除額
1,800,000円以下 収入金額×40%
650,000円に満たない場合には650,000円
1,800,000円超 3,600,000円以下 収入金額×30%+180,000円
3,600,000円超 6,600,000円以下 収入金額×20%+540,000円
6,600,000円超 10,000,000円以下 収入金額×10%+1,200,000円
10,000,000円超 2,200,000円(上限)

 

また、給与所得控除のイメージ図は次の通りです。

(出典:財務省)

赤字でも課税されるのが法人の特徴

個人事業主と違い、法人は所得に関係なく住民税の均等割が最低でも年7万円課税されます。つまり、赤字でも均等割の負担が必要となります。

法人は社会保険の加入が強制される

法人は従業員の人数に関係なく、社会保険の加入が強制されます。その社会保険料の会社負担分は年収の約15%です。たとえば、年収500万円の従業員を雇用しているとします。社会保険料の会社負担分は「年収500万円×15%=75万円」です。

法人成りをするときに個人の財産・債務を引き継ぐポイント

法人成りをする場合、事業は存続するため、個人事業主のときの財産・債務を引き継ぐケースがあります。そこで、引き継ぐポイントについて説明します。

個人の財産・債務を引き継ぐ方法は3種類ある

個人の財産・債務を引き継ぐ方法は3種類あります。それぞれの特徴を説明します。

(1)現物出資

資本金を現金預金ではなく、固定資産などの財産などで出資するのが現物出資です。税金の計算上は個人から法人へ売却したものとして取り扱われます。

(2)法人へ売却する

個人の財産を法人へ売却します。税金の計算上では現物出資と同じですが、法務局へ登記の手続きが不要な点で異なります。

(3)個人の財産を法人へ賃貸する

個人が法人へ賃貸する方法があります。上記(1)、(2)と違い、個人の売却益に対して課税されることはありません。しかし、法人からの賃貸収入は毎年確定申告をする必要があります。たとえば、不動産を法人へ賃貸した場合、個人は不動産所得の確定申告をしなければなりません。

債権・債務を個人名義で精算する

債権・債務を現物出資や売却により法人へ引き継ぐと個人の税金に影響し、事務手続きが面倒です。しかし、個人名義で精算すれば、税金の計算には影響しません。そのことを仕訳形式で解説します。

(1)債権・債務が発生した場合
借方 貸方 金額
売掛金 売上高 100万円
仕入高 買掛金 80万円

この時点で売上高と仕入高に計上しているため、所得の金額が確定します。

(2)債権・債務を精算した場合
借方 貸方 金額
現金預金 売掛金 100万円
買掛金 現金預金 80万円

すでに上記(1)で所得の金額が確定しているため、債権・債務を精算しても税金の計算に影響しません。

在庫を引き継ぐ際の注意点

個人事業主のときの在庫は販売価格で法人へ引き継ぐのが基本的なルールです。そのため、引継価格を販売価格の70%未満で引き継ぐと個人と法人に対して二重課税されます。この70%未満で引き継ぐことを「低額譲渡」といいます。そのため、在庫を法人へ引き継ぐ際は販売価格の70%以上で引き継ぐのがポイントです。それでは、低額譲渡による二重課税のメカニズムを仕訳形式で紹介しましょう。

 

例)販売価格100万円の在庫を50万円で法人へ引き継いだ場合

(1)個人
借方 金額 貸方 金額 備考
現金預金 70万円 売上高(引継価格) 50万円 在庫の低額譲渡は、販売価格の70%で売却したとして取り扱われます。
売上高(値引き分) 20万円
(2)法人
借方 金額 貸方 金額 備考
在庫 70万円 現金預金 50万円 低額譲渡による値引き額は受贈益として法人に課税されます。
受贈益 20万円

要するに、個人は値引き分を売上高、法人は受贈益として、それぞれの所得の金額に加算されるため、二重課税されるのです。

動産の固定資産を引き継ぐ方法

固定資産は時価で引き継ぐのが基本ですが、備品など動産の固定資産には時価が存在しません。そこで、時価の代わりに帳簿価格を用います。帳簿価格とは、固定資産の購入金額のうち、減価償却の手続で価値を減少させた金額を差し引いた残額のことを指します。

たとえば、購入金額100万の自動車を法人へ引き継ぐとします。個人事業主のときに減価償却の手続で50万円の価値を減少させた場合、差額の50万円が帳簿価格となります。

また、個人事業主のときに自動車を使用しているため、法人へ引き継ぐ場合は中古資産を購入したものとして取り扱われます。そのため、耐用年数が新車よりも短く、経費で落とせる金額が多くなります。

個人事業主の確定申告で注意すべき点

法人成りをすることは個人事業主を廃業したり、法人へ賃貸したりするため、確定申告の方法が根本的に違ってきます。そこで、注意すべき点について紹介します。

法人成りにより個人事業主を廃業する場合

廃業する年の確定申告は通常とやり方が異なります。具体的には次の通りです。

(1)事業所得と給与所得が合算する

廃業前の事業所得と役員報酬の支給を受けることによる給与所得を合算して確定申告をします。

(2)事業税を申告する

事業を行った月数に応じて、所得が事業主控除額を超える場合は、廃業日から1ヵ月以内の事業税の申告をします。

事業を行った月数 事業主控除額
1ヵ月 242,000
2ヵ月 484,000
3ヵ月 725,000
4ヵ月 967,000
5ヵ月 1,209,000
6ヵ月 1,450,000
7ヵ月 1,692,000
8ヵ月 1,934,000
9ヵ月 2,175,000
10ヵ月 2,417,000
11ヵ月 2,659,000
12ヵ月 2,900,000
(3)事業税の見積計上が認められる

事業税は支払通知が届いた翌年の経費で落としますが、法人成りで事業税を申告した場合には、その年に見積計上が認められます。

個人名義の不動産を法人に貸し付ける場合

法人に貸し付ける以上、個人事業主は継続します。そのため毎年、法人から賃貸収入に対する不動産所得と給与所得を合算して確定申告する必要があります。注意点は、事業規模の不動産投資でないため、青色申告特別控除は65万円ではなく10万円にダウンする点です。

まとめ

いかがでしたか。
法人成りの税金の計算は取り扱いが特殊です。たとえば、在庫を引き継ぐとき、低額譲渡をすると個人と法人に対して二重課税されます。また、廃業する場合、個人事業主は事業税の申告が必要である点も特殊といえるでしょう。法人成りする場合は、税金の計算に注意していきましょう。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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