個人が負担すべき費用を会社が負担すれば、基本的に給料として個人の所得税が課税されます。しかし、社宅家賃などの負担額について会社の経費に落とす上で、個人の所得税が非課税となります。そこで、個人の負担すべき費用を会社の経費で落とし、個人の所得税が非課税となる項目について徹底解説します。
家賃を用いた税金対策の基本
法人の場合、取引を会社名義と経営者名義に分けることができます。たとえば、不動産を会社名義で借りて経営者へ貸したり、経営者名義の自宅を会社へ貸したりすることができます。そこで、これらの取引に伴う家賃を用いた法人の節税対策について紹介します。
家賃を用いた税金対策はおもに2種類ある
法人が家賃を用いた節税対策はおもに2種類あります。それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。
(1)会社が住宅を借り上げ、社宅とする方法
会社名義で住宅を借り上げて、社宅として経営者や従業員へ貸します。その家賃の一部を会社が負担する仕組みです。その結果、社宅家賃の会社負担額を会社の経費で落とせます。一方、家賃の一部を負担してもらった従業員は給料の支給を受けたのと同じ経済効果にもかかわらず、所得税は非課税です。
(2)経営者名義の不動産を賃貸する方法
たとえば、個人事業主が法人成りをして経営者名義の自宅や駐車場などを会社へ貸すとします。その場合、経営者へ家賃を支払い、会社の経費で落とすことができます。
経営者名義の賃貸収入は確定申告の対象
自宅や駐車場を会社へ貸し、賃貸収入を得た場合、名義人である経営者は不動産所得として、役員報酬に対する給与所得と合算して確定申告を行います。不動産所得を計算するときは、賃貸収入から不動産に対する固定資産税や建物など固定資産の減価償却費(使用に伴う価値の減少額)などの経費を差し引きます。
社宅を用いた税金対策について徹底解説
経営者や従業員など個人が負担すべき社宅家賃を会社が一部負担することで、会社と個人の節税効果は抜群です。しかし、節税対策を施すためには、社宅家賃の会社負担額を個人の非課税限度額の範囲内に設定する必要があります。そこで、社宅家賃の非課税限度額を中心に解説します。
税金対策に失敗した場合のリスク
そもそも個人は負担すべき費用を会社が負担することは、本来は給料を支給したのと同じであり、源泉徴収の対象となります。しかし、社宅家賃など特定の経費については非課税限度額が設けられています。
そのため、税金対策に失敗したということは、社宅家賃の会社負担額の設定が個人の非課税限度額を超えたことを意味します。その場合のリスクは大きいです。たとえば、社宅家賃の非課税限度額が一人あたり月5万円とします。そのとき、会社負担額が月6万円なら非課税限度額を超えているため、差額の月1万円が源泉徴収の対象となります。仮に税務調査で「社宅家賃の会社負担額は個人の非課税限度額を超えている」と指摘された場合、最長で5年前までさかのぼって税金が課税されます。具体的には一人あたり「月1万円×12カ月×5年=60万円」が源泉徴収の対象となります。
従業員に対する社宅家賃の非課税限度額は?
そもそも社宅家賃の非課税限度額は従業員と役員では計算方法が異なります。まずは従業員について見ていきましょう。節税対策をするためには、非課税限度額の50%以上を従業員が負担すれば、社宅家賃の会社負担額は会社の経費で落とすことができ、一方個人の所得税は非課税です。それでは、非課税限度額の計算方法を紹介します。具体的には次の(1)~(3)までの合計額で計算します。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3平方メートル)
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22
役員に対する社宅家賃の非課税限度額は?
役員に対する社宅家賃の非課税限度額については、従業員よりもルールが細かく、また小規模かどうかで計算方法が異なってきます。それぞれの非課税限度額について見ていきましょう。
(1)社宅が小規模な住宅である場合
非課税限度額は次の①~③の合計額となります。
① (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
② 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3平方メートル)
③ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
また、小規模な住宅とは建物の耐用年数と面積に応じて次の表の通りとなります。
耐用年数 | 面積 |
---|---|
法定耐用年数が30年以下 | 132平方メートル以下 |
法定耐用年数が30年超え | 99平方メートル以下 |
(2)社宅が小規模な住宅でない場合
社宅が小規模住宅でない場合、自社所有または大家など家主から借り上げた住宅によって、非課税限度額の計算方法が異なります。
①自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が非課税限度額です。
イ.(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
※法定耐用年数が30年を超える場合は10%
ロ.(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
②家主から借り受けた住宅等を貸与する場合
会社が大家など家主へ支払う家賃の50%の金額と、上記①で計算した金額とのいずれか多い金額が非課税限度額です。
固定資産税の課税標準額の調べ方
社宅家賃の非課税限度額は固定資産税の課税標準額(税金を計算するときに税率を掛ける金額)で決まります。そのため、社宅を従業員へ貸す前に事前に知っておきたいところでしょう。そこで、固定資産税の課税標準額の調べ方について紹介します。
(1)調べ方
各市町村の役所(東京23区の場合は各都税事務所)で、固定資産課税台帳の閲覧や評価証明書の交付を受けることにより、社宅の固定資産税の課税標準額が調べられます。
(2)必要書類
基本的に次の原本が必要です。
・申請書
・本人確認資料
・賃貸物件を借りている場合は賃貸借契約書など関係を証明できるもの
・代理人の場合は委任状など
社宅を除いた非課税となる項目
経営者や従業員の負担すべき費用を会社が負担して、個人の所得税が非課税となる項目は社宅のほかにも存在します。そこで、具体的な項目を2つ紹介します。
通勤手当を最大限に活用しよう
給料の支給のうち、通勤手当は所得税が非課税です。たとえば、給料の額面金額が30万円の場合、通勤手当3万円なら、源泉徴収の対象は残額の27万円です。それでは、通勤手当の非課税限度額について見ていきましょう。
(1)電車やバスでの通勤
基本的に通勤するために負担した実費が非課税限度額です。その計算対象にはグリーン車代を除いた新幹線代も含まれます。なお、最高限度額は月15万円です。
(2)マイカーや自転車通勤
たとえ自転車通勤のように実費を負担していなくても、通勤距離が片道2キロ以上なら通勤手当の非課税限度額が設けられています。具体的には次の表の通りです。
片道の通勤距離 | 1か月当たりの限度額 |
---|---|
2キロメートル未満 | (全額課税) |
2キロメートル以上10キロメートル未満 | 4,200円 |
10キロメートル以上15キロメートル未満 | 7,100円 |
15キロメートル以上25キロメートル未満 | 12,900円 |
25キロメートル以上35キロメートル未満 | 18,700円 |
35キロメートル以上45キロメートル未満 | 24,400円 |
45キロメートル以上55キロメートル未満 | 28,000円 |
55キロメートル以上 | 31,600円 |
(出典:国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2585.htm
支給した食事代を非課税にする方法
経営者や従業員などが負担すべき食事代を会社が負担しても、個人の所得税が非課税となるケースがあります。具体例を3つ紹介します。
(1)昼食代など通常の食事代
社員食堂や仕出し弁当などの食事代は次の条件をすべて満たせば、会社が負担しても個人の所得税は非課税です。
・会社負担額が全体の食事代の半額以下
・会社負担額が月3,500円(税抜)以下
(2)残業食や宿日直の食事代
残業食代や宿日直の食事代は基本的に全額所得税が非課税です。
(3)深夜勤務者で食事が支給できない場合
深夜勤務者への食事代の補助額が一日あたり300円(税抜)以下なら所得税は非課税です。
まとめ
社宅家賃の会社負担額を代表するように、給料を支給する代わりに個人の負担すべき費用を会社が負担すれば、法人の経費で落とすことができ個人の所得税は非課税です。それによって、法人と個人の節税対策につながります。この記事を機に社宅の活用などを検討してはいかがでしょうか。
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2597.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2600.htm
- http://www.tokyo-takken.or.jp/contents_editer/news/infomation.php?no=278
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2582.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2585.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2594.htm