平成30年度の税制改正大綱では、「働き方改革」を後押しするという観点から、個人所得課税の様々な点での見直しが図られています。今回の記事では、その中でも特に多くの人に関わるものと考えられる給与所得控除、公的年金等控除、そして基礎控除の3つについて、どのような見直しが行われているのかを徹底解説していきます。
給与所得控除
給与所得控除とは?
給与所得者でも、サラリーマンであればスーツや靴、文房具など、業務上必要な物品を自分の財布から購入することは多々あります。これらの出費を給与所得者は個人事業主のように必要経費とすることができませんが、所得額を求める際に収入の額に応じて給与所得控除が差し引かれることで、不公平を回避しています。これが、給与所得控除が一般に「サラリーマンの必要経費」と称される所以です。
平成30年度税制改正大綱における見直し
財務省が取りまとめた大綱では、次の2点の変更点があります。
1.控除額を一律10万円引き下げる
2.上限額が適用される給与等の収入金額を850万円、その上限額を195万円に引き下げる
変更後の控除額はどうなる?
税制変更後の控除額は以下の通りに予定されています。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
---|---|
162.5万円以下 | 55万円 |
162.5万円超~180万円 | 収入金額×40%-10万円 |
180万円超~360万円 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超~660万円 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超~850万円 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円 |
例えば年収が200万円の場合、給与所得控除は200万円×30%+8万円=68万円であり、所得税の課税対象となる給与所得額は132万円となります。
公的年金等控除
公的年金等控除とは?
年金は課税対象ではないと思われやすいかもしれないですが、税法上では雑所得と区分され、支給にあたって所得税が源泉徴収されています。所得の計算において、1年間の年金の金額から差し引くことのできる控除を公的年金等控除といいます。対象となる主な公的年金等は、以下の3つです。
1.国民年金法、厚生年金保険法、公務員等の共済組合法などの規定による年金
2.過去の勤務により会社などから支払われる年金
3.外国の法令に基づく保険又は共済に関する制度で1に掲げる法律の規定による社会保険又は共済制度に類するもの
平成30年度税制改正大綱における見直し
今回の改正における変更点は、次の通りとなっています。
1.控除額を一律10万円引き下げる
2.公的年金等の収入金額が1,000万円を超える場合の控除額については、195万5千円の上限を設ける
3.公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が
(ⅰ)1,000万円超2,000万円以下の場合、見直し後の控除額から一律10万円引き下げる
(ⅱ)2,000万円超の場合、見直し後の控除額から一律20万円引き下げる
見直し前の現行制度では、年金等の収入の額のみで控除額が決まっていましたが、3.にある通り、年金以外の合計所得金額が公的年金等控除の額に大きく影響するようになります。年金収入が一定額を下回れば全額控除されるという最低保障額も、現在は65歳未満が70万円、65歳以上が120万円と固定されていますが、見直し後には総所得額に応じて変動します。
変更後の控除額はどうなる?
1. 公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下の場合
(ⅰ)定額控除 40万円
(ⅱ)定率控除
50万円控除後の公的年金等の収入金額が
(1)360万円以下の部分 25%
(2)360万円超720万円以下の部分 15%
(3)720万円超950万円以下の部分 5%
(ⅲ)最低保障額
(1)65歳未満 60万円
(2)65歳以上 110万円
2. 1,000万円超から2,000万円以下の場合
(ⅰ)定額控除 30万円
(ⅱ)定率控除
50万円控除後の公的年金等の収入金額が
(1)360万円以下の部分 25%
(2)360万円超720万円以下の部分 15%
(3)720万円超950万円以下の部分 5%
(ⅲ)最低保障額
(1)65歳未満 50万円
(2)65歳以上 100万円
3.2,000万円超の場合
(ⅰ)定額控除 20万円
(ⅱ)定率控除
50万円控除後の公的年金等の収入金額が
(1)360万円以下の部分 25%
(2)360万円超720万円以下の部分 15%
(3)720万円超950万円以下の部分 5%
(ⅲ)最低保障額
(1)65歳未満 40万円
(2)65歳以上 90万円
以上を踏まえて、2つのケースを比べてみましょう。AさんとBさんは両者ともに65歳を超えており、毎年350万円の年金を受け取っているとします。年金以外の合計所得額がAさんは800万円、Bさんは1,500万円であるとすると、それぞれの公的年金等控除の額はどうなるでしょうか。
Aさんの場合は40万円+(350万円-50万円)×25%=115万円、Bさんは30万円+(350万円-50万円)×25%=105万円が、控除額となります。従って、年金の収入に係る雑所得の額は、それぞれ235万円、245万円となります。
基礎控除
基礎控除とは?
所得税額の計算において、総所得金額から一律に差し引くことができる控除を基礎控除といいます。何か条件を満たすと適用されるというものではなく、すべての納税者を対象として無条件に適用されます。よって、基礎控除額よりも所得が低い場合、その年の所得税は非課税となります。
平成30年度税制改正大綱における見直し
今回の改正における最大の変更点は、単純に一律で控除額が引かれていたのが、所得によって控除額が変動するようになったことです。
国税と地方税では扱いが異なります。まず国税の場合、
1.控除額を一律10万円引き上げる
2.合計所得額が2,400万円を超える個人についてはその合計所得金額に応じて控除額が逓減し、合計所得金額が2,500万円を超える個人については基礎控除の適用はできないこととする
以上の結果、基礎控除の額は以下の通りになります。
合計所得金額 | 基礎控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超~2,450万円 | 32万円 |
2,450万円超~2,500万円 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
次に地方税の場合、
1.控除額を一律10万円引き上げる
2.前年の合計所得金額が2,400万円を超える所得割の納税義務者についてはその前年の合計所得金額に応じて控除額が逓減し、前年の合計所得金額が2,500万円を超える所得割の納税義務者については基礎控除の適用はできないこととする。
以上の結果、基礎控除額は以下の通りになります。
合計所得金額 | 基礎控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 43万円 |
2,400万円超~2,450万円 | 29万円 |
2,450万円超~2,500万円 | 15万円 |
2,500万円超 | 0円 |
なお、国税の場合はその年の所得、地方税の場合は前年の所得が基準となって控除額が求められます。
まとめ
今回の税制改正によって、給与所得控除・公的年金控除が減少し、基礎控除が増加しました。それにより今まで以上に高収入者層の負担が大きくなりますが、個人事業主やフリーランスで働く人々の不公平感は減るものと考えられ、政府としては多様化する働き方への対応を狙っていると言えるでしょう。特に、個人事業主の方はどうすれば減税することが可能なのか、あらかじめ対策を立てておくようにしましょう。