個人事業主は、毎年確定申告をおこない、所得の金額に応じて所得税などの税金を納付します。そのため、どうしても確定申告では、税金のことばかり考えてしまいがちですが、国民健康保険料も確定申告によって支払う金額が決まるため、注意が必要です。そこで、今回は国民健康保険について詳しく解説します。
国民健康保険のしくみとは
そもそも国民健康保険ってどんな制度?
国民健康保険料の計算方法を解説する前に、まずは国民健康保険がどのような制度なのかを確認しましょう。
健康保険とは、ケガや病気をしたときに誰もが安心して医療を受けられるように考えられた制度で、労働者がその所得によって定められた保険料を出し合い、医療費の負担をする、いわば相互扶助の制度です。日本では、すべての国民が健康保険制度に加入することになっています。
健康保険には、サラリーマンとその家族が加入する社会保険である「健康保険」と、サラリーマン以外の人とその家族が加入する「国民健康保険」の2つに大きく分かれます。個人事業主は、国民健康保険に加入します。個人事業主やその家族が加入する国民健康保険は、地方自治体が運営しています。平成30年3月31日までは、市区町村が財政運営の主体でしたが、平成30年4月以降は都道府県が主体となっています。ただし、国民健康保険の手続きは、市区町村の役所窓口で行っています。
国民健康保険の保険料のしくみ
サラリーマン以外の人とその家族は国民健康保険に加入する必要があります。国民健康保険の制度自体は、日本中どの地域でも同じですが、支払う保険料の金額は住んでいる地域によって異なります。なぜ、住んでいる地域によって支払う保険料の金額が異なるのかを理解するためには、国民健康保険のしくみを知る必要があります。
実は、ひとくちに国民健康保険料といっても、その保険料には3つの区分と4つの方式があります。それぞれを確認しましょう。
①国民健康保険料の3つの区分
国民健康保険料には、医療分、支援分、介護分という3つの区分があります。
医療分とは一般的な健康保険で、ケガや病気で病院にかかったときに支払う保険料です。全ての加入者が保険料を負担します。
支援分とは、後期高齢者(75歳以上)の人が医療を受けることを支援するために支払う保険料です。全ての加入者が保険料を負担します。
介護分とは、要介護状態の高齢者が介護サービスを受けるために支払う保険料です。40歳以上64歳までの加入者が負担します。また、65歳以上になると、介護保険の被保険者となって、介護保険料を支払います。
つまり39歳までは、医療分 + 支援分を、40歳から64歳までは、医療分 + 支援分 + 介護分を負担します。どの区分も最高(限度)額が決まっています。
②国民健康保険料の4つの賦課方式
国民健康保険には3つの区分があり、加入者は4つの賦課方式によって保険料を負担します。4つの賦課方式とは、均等割、所得割、平等割、資産割です。また、保険料の負担額は世帯単位で決められます。
均等割とは、大人・子供、収入の有無に関係なく、加入者1人あたりの定額の保険料です。
所得割とは、前年の所得に応じた保険料です。所得が高いほど所得割も高くなります。所得割は課税所得※×料率で計算します。
※保険料の算定に用いる課税所得は、確定申告の課税所得とは異なります。
平等割とは、人数に関係なく、1世帯あたりに係る定額の保険料です。
資産割とは、所有している固定資産税に応じた保険料です。
均等割と所得割はどの地域でもかかりますが、平等割と資産割は制度自体がない自治体も多いです。
国民健康保険料の計算方法
国民健康保険料の計算式
国民健康保険には3つの区分と4つの賦課方式があることを説明しました。その区分と賦課方式をもとに、ここでは、実際に国民健康保険料を計算してみましょう。採用している賦課方式や保険料率は各自治体で異なります。
例えば、東京都中央区の場合は均等割と所得割はありますが、平等割と資産割はありません。そのため、医療分、支援分、介護分について、それぞれ均等割と所得割を計算して合算したものが、年間の保険料です。実際に計算すると以下のようになります。
例)東京都中央区在住、夫婦と子供2人の4人家族、夫婦はいずれも40歳超、世帯(収入があるのは夫のみ)の年間課税所得300万円の場合
※平成30年4月1日現在の料率、均等割額とする
①医療分
東京都中央区の医療分の所得割料率は7.32% 均等割額39,000円
所得割 300万円×7.32%=219,600円
均等割 39,000円×4人=156,000円
合計 375,600円
②支援分
東京都中央区の支援分の所得割料率は2.22% 均等割額12,000円
所得割 300万円×2.22%=66,600円
均等割 12,000円×4人=48,000円
合計 114,600円
③介護分
東京都中央区の介護分の所得割料率は1.06% 均等割額15,600円
所得割 300万円×1.06%=31,800円
均等割 15,600円×2人=31,200円
合計 63,000円
介護分の均等割の対象となる人数は、40歳~64歳までです。そのため、今回のケースは夫婦2人分だけが該当します。
④合計年間保険料
医療分375,000円+支援分114,600円+介護分63,000円=552,600円
国民健康保険料は事業の経費にならない
上記の例だと、年間552,600円の国民健康保険料を支払う必要があります。では、この国民健康保険が個人事業の経費になるかというと、経費にはなりません。なぜなら、事業とは直接関係のない支払いだからです。しかし、国民健康保険料が家計の負担になることには違いないため、全額所得控除になります。
所得控除とは、扶養控除や生命保険料控除のように、その家庭の状況に応じて控除が受けられるというものです。帳簿付けについては、事業の経費にならないため仕訳は必要ありません。ただし、事業の現金や預金から支払っている場合は、事業の現金や預金の残高を実際の帳面と合わせる必要があるため、仕訳が必要です。この場合、国民健康保険料は経費ではないので「事業主貸」勘定を使います。
例)事業用の通帳から、国民健康保険料45,000円が引き落とされた。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
事業主貸 | 45,000円 | 普通預金 | 45,000円 | 国民健康保険料 |
国民健康保険料の節税方法
国民健康保険料の節税のため青色申告をしよう
国民健康保険料の計算例を見ましたが、思ったよりも高い金額になると感じた人も多いのではないでしょうか。中でも均等割は、世帯の人数で決まるのでどうしようもありませんが、所得割については、所得に応じて金額が増減します。そのため、国民健康保険料を低くするためには、所得を低くする必要があります。
所得を低くするには、経費を増やすか、控除を増やすことになります。ただし、経費は事業に関係のあるものしか認められないため、なかなか増やすことは難しいです。そこで、控除を増やすことになりますが、ここで注意したいのが、国民健康保険と控除の関係です。
実は、国民健康保険の保険料計算で基準となる課税所得を出す際、所得から差し引かれる控除は基礎控除のみ。扶養控除や生命保険料控除、医療費控除などを差し引くことができません。しかし、青色申告をしている人なら、青色申告特別控除も差し引くことができます。青色申告特別控除は、個人事業主で青色申告をしている人に対し、確定申告で最高65万円までの控除を受けることができるというものです。国民健康保険の保険料計算においても、所得から最高65万円までの控除を差し引くことができます。
国民健康保険料を節税したい場合は、青色申告を考えましょう。
国民健康保険料と専従者の関係
次に、国民健康保険料と専従者の関係を見ていきましょう。専従者とは、配偶者や子供などの家族で、個人事業主の世帯主と一緒に仕事をしている人のことです。青色申告の場合は専従者に支払った給料を経費にすることができ、白色申告の場合は、経費にはできませんが、一定額を控除することができます。この専従者給与や専従者控除も青色申告特別控除と同様、国民健康保険料の支払額の計算で控除することができるため、国民健康保険料の節税に使うことができます。
ただし、注意したいのが、国民健康保険料は世帯の所得に対して保険料が課されるということです。専従者給与は配偶者等の給与所得となります。給与所得には金額に応じて一定の給与所得控除額(最低65万円)がありますが、給与所得控除額を超えると所得が生じ、その分が世帯所得にプラスされます。そのため、専従者給与等が多い場合は、全額が国民健康保険料の節税になるわけでありません。
まとめ
個人事業主にとって、所得税などの税金は大きな関心事の1つです。しかし、税金だけに注視していると、あとで思わぬ高額の国民健康保険料を請求される場合もあります。税金だけでなく、国民健康保険料の支払額がいくらになるのかにも注意して、確定申告を行いましょう。