大きな節税効果が認められる住宅借入金等特別控除、通称「住宅ローン控除」は、個人事業主の方なら是非ともおさえておきたい節税対策です。しかし、自宅と事務所を兼用している場合、住宅ローン控除は受けられるのでしょうか。本記事では、住宅ローン控除を受けるための条件と、その節税効果についてご説明します。
住宅ローン控除の概要と節税効果
住宅ローン控除とは、一定の要件を満たす住宅の新築・購入・リフォームに要する費用を補填するために銀行や勤務先などからローンを借りている場合、居住し始めた年から数えて最大で15年間、所得税の税額控除を受けられるという制度のことです。
税額控除と所得控除の違い
所得税の控除には、住宅ローン控除のような税額控除の他にも、所得控除という方法が存在します。ここで両者の違いを確認しておきましょう。
まず税額控除とは、所得税額が対象となる控除の方法です。課税対象となる所得の額から算出された所得税額から、控除額が差し引かれます。上記の住宅ローン控除の他には、配当控除や外国税額控除、試験研究を行った場合の所得税額の特別控除、政党等寄附金特別控除といったものがあります。
対する所得控除は、税額控除よりも前の段階で控除がなされます。すなわち、総所得額から控除額が差し引かれ、課税の対象となる額が減額されるという方法です。誰もが一律に38万円の控除を受けられる基礎控除や、配偶者控除、医療費控除などがあります。
住宅ローン控除の節税効果
住宅ローン控除額は、月々の返済額ではなく、ローン合計額の年末残高、そして入居した年に応じて決定されます。この他にも、種々の要件を満たす認定住宅かどうかでも計算方法が変わるため、詳細については国税庁Webサイトをご参照ください。
ここでは試しに、「2010年入居、2017年12月31日時点のローン残高が6,000万円」というケースを想定して、2017年分の住宅ローン控除額がいくらになるのかを見てみましょう。2010年に入居した物件における住宅ローン控除額の計算方法は「年末残高額×1%」で、上限額は50万円となっています。したがって、計算式にこのケースの数字を当てはめると、
となりますが、限度額を超えてしまっているので控除額は50万円となります。上述のように住宅ローン控除は税額控除ですので、所得税額から50万円がそのまま差し引かれます。
自宅兼事務所で住宅ローン控除を受ける要件
自宅が事務所や店舗を兼ねている場合にも、住居ローン控除を受けることができます。ただしそのためには、建物全体の床面積のうち住居用のスペースが2分の1以上を占めている必要があります。この条件を満たしていれば、住居用スペースについてのみ住宅ローン控除を適用することができます。
ここで、上記と同じケースで、事業利用比率が50%の場合を考えてみましょう。この場合、ローン残高6,000万円の半分が住居ローン控除の対象となります。したがって、
となり、今回は上限額を上回らないため、30万円がそのまま税額控除されます。
事業利用比率が低ければ低いほど、当然ながら控除額は高くなります。さらに特筆すべき点として、租税特別措置法関係通達41-29の規定により、事業利用比率がおおむね10%未満であれば通常の住居と同等に見なされるため、床面積の100%が住居ローン控除の対象となります。家事按分による経費算入額は少なくなりますが、住居ローン控除が税額控除であることを考えれば、これは非常に魅力的なオプションであると言えるでしょう。
このように大きな節税効果が見込める住居ローン控除ですが、自宅兼事務所であろうと普通の住居であろうと、控除を受けるための条件が他にも多く存在します。以下では、住居ローン控除の一般的要件を確認していきます。
所得金額
その年の合計所得金額が3,000万円以下でなければ、住宅ローン控除を受けることはできません。収入金額ではなく所得金額である点に注意してください。
入居開始日と居住継続
2017年分以後の確定申告において住宅ローン控除を受けられるのは、入居開始日が2007年以降である場合に限られます。なお上述のように、2007年以降のどの年に入居したかによって、控除額の計算方法や控除限度額が異なります。詳しくは本記事末尾に掲げる表をご参照ください。
また、住居の新築・取得または増改築の日から6ヶ月以内に入居し、適用する年の12月31日まで居住し続けることも控除の条件です。年末前に転出し、12月31日時点で居住の事実がない場合は控除を受けることができません。
ローン期間
10年以上のローンであることが条件です。加えて、増改築の場合には工事費用が100万円以上でなければなりません。短期で返せるローンでは控除の適用外になってしまいますので、ローン残高の多寡と相談しながら負担にならない程度に長く見積もった期間を申請しましょう。
床面積
新築・取得または増改築後の建物の床面積が、50平方メートル以上である必要があります。マンションの階段や通路などは含まれず、登記簿上に記載された専有部分の床面積によって判断されます。また、自宅兼事務所等の場合、店舗や事務所などの事業用スペースも含めて50平方メートルを超えていれば、控除を受けることができます。
購入元
取得時および取得後に、生計を一にする親族や縁者などから取得した住宅は、住宅ローン控除の適用が認められません。贈与による取得の場合も同様です。この条件は、特に中古住宅に関して重要になります。
築年数
中古住宅の場合は、原則として築20年以内のものに限られます。マンションなどの耐火建築物であれば、築25年以内まで認められます。これらの条件に満たなくとも、一定の耐震基準を満たしているか、または取得の日までに耐震改修を申請し、入居までにその改修によって耐震基準に適合していることが証明されていれば、控除の対象となります
住宅ローン控除の控除期間・控除額計算方法・控除上限額
住宅ローン控除の控除期間・計算方法・上限額は、入居した年と選択したプランによって異なります。以下は、2017年以後に適用可能な住宅ローン控除の早見表です。
入居した年 | 控除期間 | 計算方法(上限額) |
---|---|---|
2007年 | 15年 | 1~10年目:ローン残高×0.6%(15万円)
11~15年目:ローン残高×0.4%(10万円) |
2008年 | 10年 | 1~6年目:ローン残高×1%(20万円)
7~10年目:ローン残高×0.5%(10万円) |
15年 | 1~10年目:ローン残高×0.6%(12万円)
11~15年目:ローン残高×0.4%(8万円) |
|
2009~2010年 | 10年 | ローン残高×1%(50万円) |
2011年 | 10年 | ローン残高×1%(40万円) |
2012年 | 10年 | ローン残高×1%(30万円) |
2013年 | 10年 | ローン残高×1%(20万円) |
2014~2021年 | 10年 | ローン残高×1%(40万円) |
まとめ
税額控除の住宅ローン控除は、自宅兼事務所であっても条件を満たせば住居部分への適用を受けることができ、個人事業主の方にとっては強力な節税の手段となります。控除を受けるための種々の要件を確認し、積極的に利用していくとよいでしょう。