平成33年4月以降から適用される「収益認識に関する会計基準」では、これまでとは全く異なる方法で収益を認識することとされています。
今のところ、すべての会社が対象となっているわけではありません。しかし、上場に向けて準備している会社などには特に影響が大きい改正ですので、注意が必要です。
もしや当社にも関係が!?新しい収益認識基準の適用範囲
現在は公認会計士の監査が義務付けられている会社が適用対象
平成33年の4月以降に開始する事業年度から適用される「収益認識に関する会計基準」は、公認会計士の会計監査が義務付けられている会社、つまり法律上の大会社や上場企業など、一部の会社にのみ強制的に適用されます。なお、法律上の大会社とは、資本金5億円以上または負債200億円以上の会社を指します。
したがって、現在上場していたり、大会社とされていたりする会社が最も影響を受けますが、このような会社はすでに十分な対策をしていることと思われます。
次に影響を受けるのが、上場を目指していたり、増資を検討していたり大きな負債を抱えている大会社に該当しそうな企業です。
これらに当てはまらない会社の場合、すぐに具体的な対策を取る必要はありません。
世界を相手に!国際会計基準とのコンバージェンス
今回は強制適用の対象になっていない会社であっても、この改正は必ずしも無関係ではありません。
現在、世界中で会計のルールを統一しようという動きがあります。この動きを会計基準のコンバージェンスといい、世界中で利用する目的で定められた会計基準を国際会計基準(IAS/IFRS)といいます。大企業や上場企業に適用される日本の会計基準は既に国際会計基準にどんどん近づいており、国際会計基準に完全に移行する準備を整えています。
今回の「収益認識に関する会計基準」の制定は、国際会計基準の会計処理に合わせた内容となっています。
この方針で大企業や上場企業に適用される会計基準と国際会計基準の統合が進んだ場合、国内の大会社や上場企業と中小企業の間で異なる会計基準に準拠することになりますが、それでは整合性が取れません。特に、国内で2つの異なる収益認識基準を採用することには疑問の声があがっています。
まだ正式な発表などはありませんが、中小企業の収益認識基準も「収益認識に関する会計基準」と同じ内容に改正されると予想している公認会計士・税理士の方が多いようです。
「収益認識に関する会計基準」が適用された場合、会計処理に留まらず業務内容にも影響がありますので、今回適用されない会社の方も大まかな内容には目を通しておくことをおすすめします。
なお、今回適用されない会社であっても、「収益認識に関する会計基準」に準拠することを禁止されているわけではありません。上場準備中の会社などの場合には、任意に準拠した方がいい場合もあります。
業務内容にも影響アリ!新しい収益認識基準の内容とは!?
「収益認識に関する会計基準」では、5つのステップで収益を認識します。
以下のような契約を結んだ場合を例に、収益認識の手順を解説します。
<事例>
お客様の事業所への備え付けサービスと、今後3年間の保守サポートがついている機械装置を1,000万円で売却した。支払は翌月10日までに銀行振込。
【ステップ1】契約の識別
「収益認識に関する会計基準」では、以下の条件にあてはまる「契約」から生じたものを収益として認識します。
(1)各当事者が契約を承認し、それぞれの義務を果たすことを約束している
(2)各当事者の権利や支払の条件がはっきりしている
(3)経済的な実態のある取引である
(4)対価を回収できる可能性が高い
今回の事例にあてはめて、(1)~(4)を検討してみましょう。
(1)売り手が機械装置の売却と備え付け、保守サポートの提供、買い手が代金の支払いを約束した
(2)売り手は代金の受け取り、買い手は機械装置の受け取りと備え付け、保守サポートの提供を受ける権利が生じた。また、支払の条件は翌月10日までに銀行振込とはっきりしている
(3)機械装置の売買という経済的な実態がある
(4)通常の小売業であるため、一般的には対価を回収できる
このように、この契約は(1)~(4)を満たしているため、「収益認識に関する会計基準」ではこの契約から生じるものを収益と認識します。
【ステップ2】履行義務の識別
ステップ1で識別した契約の中にどのような「履行義務」が含まれているのか識別します。
今回の事例では、売り手に以下のような「履行義務」が生じています。
・機械装置の引き渡し
・機械装置の備え付け
・3年間の保守サポート
【ステップ3】取引価格の算定
ステップ3では、ステップ1で認識した契約の取引価格がいくらなのか算定します。今回のケースであれば通常は1,000万円ですが、たとえば前倒しで月末までに支払った場合には100万円の値引きをする慣習があり、このお客様はいつも前倒して支払ってくれるといった事情がある場合には、取引価格は900万円となります。
【ステップ4】取引価格を履行義務に配分する
ステップ3で算定した金額を、ステップ2で識別した履行義務に配分します。
この事例では、機械装置の価値がこの契約全体の90%、備え付けが7%、3年間の保守サポートが3%である場合、1,000万円をこの比率で配分するため以下のようになります。
・機械装置の引き渡し:900万円
・機械装置の備え付け:70万円
・3年間の保守サポート:30万円
【ステップ5】履行義務を果たすごとに収益を認識する
ステップ2で識別した履行義務を果たすごとに、ステップ4で配分した収益を認識します。
この事例では、機械装置をお客様に引き渡した時点で900万円、機械装置の備え付けを行った時点で70万円、保守サポート期間が1年経過するごとに10万円の収益を認識します。
財務諸表の見方が変わる!売上のビフォーアフター
デパートに大打撃!?消化仕入で売上激減
「収益認識に関する会計基準」では、当事者としてリスクを抱えながら販売をしているか、代理人として販売の手数料を受け取っているかを区別し、それぞれ異なる方法で売上高を計上します。
本人の立場で販売を行っている場合には売上高と売上原価・販管費を両方計上します。
一方、代理人の立場で販売を行っている場合には売上から売上原価を差し引いた金額を売上高として計上します。
最終的な利益には影響しませんが、過去の損益計算書と比較すると売上高が激減したように見えますので、注意が必要です。
この影響を大きく受けるのは百貨店やスーパーなどの小売店だと言われています。小売店では、仕入先が所有権を持ったまま商品を陳列棚に展示し、販売した時点で自動的に仕入れを行い、もし売れないようであれば返送する消化仕入という方法が広く利用されています。
消化仕入を行っている場合は代理人としての売上とみなされますから、消化仕入を行っていない同業他社と比較して売上が低く表示されてしまいます。
基準が変わる、業務も変わる
「収益認識に関する会計基準」では、1つの契約に含まれる履行義務に取引価格を配分しなければいけませんから、あまりに複雑な契約だと売上が発生するたびに経理処理に一苦労です。
したがって、現在はあたりまえのように商品についている機械の無料設置サービスや保証サービスなども、今後は見直す必要が生じるかもしれません。
また、アメリカの有名ライターメーカーのジッポー社は永久に無償修理保証をしていることで有名ですが、永久に修理の履行義務を負担する場合に、どのように収益を認識するのかといった課題が生じる可能性があります。
まとめ
新しい収益認識基準は会計処理の方法に留まらず、業務や契約の内容にまで影響を及ぼします。上場に向けて準備している企業はもちろん、今回は適用を受けない企業も「もし新しい収益認識基準が当社に適用されたとしたら、業務や契約内容にどのような影響があるだろうか……」と一度検討してみてはいかがでしょうか?