税制改正により一般社団法人を利用した相続税対策が 大幅に制限される | MONEYIZM
 

税制改正により一般社団法人を利用した相続税対策が
大幅に制限される

税制改正前は一般社団法人を利用した相続税対策が行われてきました。しかし、それに対して平成30年度の税制改正でメスが入り、その相続税対策が大幅に制限されます。そこで、今まで行われてきた一般社団法人を利用した相続税対策、税制改正の内容について解説します。

一般社団法人を用いた相続税対策の税制改正が行われる理由

一般社団法人を用いて相続税対策が行われてきましたが、まずは一般社団法人のアウトラインについて説明します。

そもそも一般社団法人とは何か

一般社団法人は株式会社のように会社法に基づき設立されるのではなく、別の法律に基づき設立される社団法人です。一般社団法人は、株式会社の株主に相当する社員が2名以上必要となります。しかし、一般社団法人には株式会社のような出資持分(持ち株を相続財産とする)の考え方が存在しません。その考え方に着目して、相続税対策が行われてきました。

個人資産を一般社団法人に移転する相続税対策を防止するのが税制改正の理由

平成30年度の税制改正の理由は、個人資産を一般社団法人に移転することで、相続財産を不当に減らすことによる相続税対策を防止するためです。そこで、株式会社を比較しながら、一般社団法人を用いた相続税対策について説明します。

 

たとえば、中小企業のオーナーが個人資産1億円を法人に移転したとします。相続財産の金額を、一般社団法人と株式会社について比較すると次の通りになります。

(1)株式会社

オーナーの持ち株が財産となるため、移転した個人資産1億円は会社の財産の増加額としてカウントします。その1億円を加味して、相続財産を計算するため、移転した個人資産の金額が相続税の計算に反映されます。

(2)一般社団法人

出資持分の考え方がないため、株式会社のような持ち株自体が存在します。そのため、個人資産1億円を一般社団法人に移転すると相続財産は同額(1億円)減らすことができます。

一般社団法人を用いた相続税対策の税制改正のアウトライン

相続税対策の税制改正は、上記の個人資産1億円を一般社団法人へ移転した場合について、相続財産に加算するのがポイントとなります。

一般社団法人の純資産をベースとした金額を相続財産に加算する

そもそも純資産とは、資産から負債を控除した残額を指します。たとえば、資産の内訳が現金預金5,000万円、土地5,000万円、建物3,000万円とし、負債の内訳は借入金3,000万円とします。純資産は次の通りです。

資産 負債および純資産
現金預金 5,000万円 借入金 3,000万円
土地 5,000万円 純資産 1億円
建物 3,000万円
資産の合計 1億3,000万円 負債および純資産の合計 1億3,000万円

 

平成30年度の税制改正では、上記の純資産1億円について、被相続人を含む役員の人数で割った金額を相続財産に加算されることになりました。たとえば、父親と息子1人が役員の一般社団法人があるとします。仮に父親が亡くなった場合、「純資産1億円÷役員の人数2人=5,000万円」が相続財産に加算されます。

相続財産に加算される一般社団法人とは?

純資産が相続財産に加算される対象となる一般社団法人のことを「特定一般社団法人等」といい、次の条件を満たす場合のことを指します。

(1)相続開始の直前における同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超えること

たとえば、役員の構成が父親と息子の場合、同族役員数と総役員数のいずれも2人となります。そのため、同族役員数の総役員数に占める割合は「同族役員数2人÷総役員数2人=100%」です。

(2)相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること

たとえば、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える期間が3年間の一般社団法人があるとします。仮に相続開始日直前に従業員など同族以外の人を役員に就任させて、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1以下にしても、特定一般社団法人等となり、相続財産の加算対象です。

相続財産に加算される対象となる被相続人は?

相続財産に加算される対象となる被相続人は、死亡人が次の人のことを指します。

(1)特定一般社団法人等の役員である人

(2)相続開始前5年以内において特定一般社団法人等の役員であった人。

贈与税が課税されている場合は相続税から控除する

特定一般社団法人等は、後述する場合に当てはまると贈与税が課税されます。その特定一般社団法人等に課税された贈与税は相続税から控除することができます。

税制改正で一般社団法人に課税される贈与税の基準を明確化した

税制改正前は一般社団法人に課税される贈与税の基準があいまいでしたが、平成30年度の税制改正で明確になりました。

そもそも一般社団法人に贈与税が課税される場合とは?

個人資産を一般社団法人に移転することで、たとえば明らかに相続財産を減らす目的だけで個人資産を一般社団法人に移転した場合は贈与税の課税対象となります。税制改正前は贈与税が課税されない要件を次のように例示しています。

 

(1)その運営組織が適正であるとともに、その役員等のうち親族関係と次の(2)の特殊関係者の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合は、いずれも3分の1以下とする旨を定款で定めていること

(2)次の人に対し、施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における財産の帰属、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと

・一般社団法人に財産の贈与若しくは遺贈をした者

・一般社団法人の設立者、社員、役員(これらの親族を含む)

(3)一般社団法人が解散した場合、その残余財産(残った財産)を国、地方公共団体、公益社団法人、公益財団法人などに帰属(分配)する旨の定めが定款などにあること

(4)一般社団法人が次のことに当てはまらないこと

・法令違反をした事

・その帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装して記録又は記載をしている事実

・その他公益に反する事実

一般社団法人に対する贈与税の税制改正の内容

税制改正前は一般社団法人に課税される条件について例示されているだけであり、範囲が明確でありませんでした。しかし、平成30年度の税制改正では、上記(1)から(4)のいずれかの条件を満たさないと贈与税の課税対象となることが明確になりました。

まとめ

税制改正によって一般社団法人を利用して、個人資産を一般社団法人に移転することによる相続税対策が大幅に制限されます。さらに一般社団法人に贈与税が課税される基準も明確化されました。この記事を機に一般社団法人を利用した相続税対策を再検討してはいかがでしょうか。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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