事業が軌道に乗って新しく支店を作る場合、税金の納付先や金額がどうなるかご存知でしょうか。新しい土地での事業展開に集中するあまり、税金のことをつい忘れてしまうなどといった事態に陥らないよう、必要な届出や税金についてポイントをまとめました。
支店設置時に必要な手続き
支店設置登記
新たに設置する支店が、本店所在地とは異なる法務局の管轄となるか、それとも同一の法務局の管轄となるかで、登記申請の手続きや登録免許税の額が異なります。
本店とは異なる法務局の管轄内に支店を設置する場合
原則として、支店設置の日から2週間以内に本店所在地の法務局に支店を設けた旨を登記し、その後、設置日から3週間以内に支店所在地の法務局でも申請します。しかしこれでは手間が多くかかるため、現在では商号などに変更がない限り本店所在地で一括申請ができるようになっており、大抵のケースではこれを利用します。この場合、登録免許税として、本店所在地の法務局分の60,000円と支店所在地の法務局分の9,000円、登録手数料の300円、計69,300円を納付します。
本店と同一の法務局の管轄内に支店を設置する場合
この場合は、支店所在地を管轄する法務局に登記を申請する必要がありません。設置する支店1か所につき60,000円の登録免許税を納付します。
支店と営業所の違い
実は上記の登記申請は、新たな事業の拠点を設けた企業が必ず行わなければならないというものではありません。それは、その拠点を支店とするか営業所とするかによって異なります。支店と営業所はどちらも企業が事業を営む場の呼称ですが、それぞれ意味合いも設置時に必要な手続きも違います。
支店
ある範囲における事業の拠点となる組織を指します。本社や本店とは異なる都道府県に置かれることが多く、ある程度の独自性を備え、常駐する従業員が営業活動を行います。支店を新たに設置した際には、法務局への登記申請が義務づけられています。登記完了後、税務署や労基署などへ届出を行います。
営業所
日常的な言葉としての営業所は、本店も支店も含んだすべての事業所を指します。しかし会社法において営業所は支店と区別して用いられ、本店の管理下にあり独自性を欠いた組織を意味します。この点では出張所や詰所などの呼称も、営業所と同様に扱われます。支店の場合とは異なり、営業所開設に登記の必要はなく、税務署や労基署などへの届出のみ行います。
支店として登記することのメリット・デメリット
支店として登記申請することには、メリットとデメリットの両方があります。まずメリットとして、以下のものが挙げられます。
- ・支店には支配人を置くことができるため、その権限の範囲内であれば契約などに関して本店を介さずに処理することができ、対外取引が迅速化される
- ・支店が置かれる地域の信用金庫・信用組合など、地域金融機関からの融資を受けられる
- ・支店が置かれる地域での会社の認知度が上がり、地元企業しか受注できないような案件も受注できるようになる
他方、デメリットとしては、以下のものが考えられます。
- ・支店の設置・移転・廃止などに際して登記費用がかかる
- ・労働保険や雇用保険の手続きを支店で行う必要がある
- ・定款・株主総会議事録・計算書類などの書類を支店に置く必要がある
- ・支店所在地の市役所や都道府県への税務上の届出が必要になる
支店設置登記に向いている業種
支店設置登記には、業種ごとに向き不向きが存在します。建設業などはその地域内での信用が強く求められるため、支店設置登記をする会社が多いと一般に言われています。それに対して小売りや飲食業などは、営業所として会社機能を持たせず、支店設置登記をしない場合が多いようです。
支店設置で税金はどう変わる?
企業が都道府県や市区町村に対して納める地方税に、法人事業税と法人住民税があります。支店を設置したら、国税である法人税とは別に、これらの税金を支店所在地の地方自治体に納付する必要があります。この他にも、支店所在地の所轄税務署に源泉徴収税や償却資産税を申告しなければならない場合があります。
法人事業税
法人事業税は、事業所が所在する都道府県に納めます。支店を他の都道府県に設置した場合、企業全体の所得を従業員数や事業所数に応じて県ごとに分割したものに、各都道府県が設定する法人事業税率を掛けることで税額を求めて納付します。
法人住民税
法人住民税は「法人道府県民税」と「法人市町村民税」の総称で、事業所が所在する都道府県および市区町村に納めます。その額は、均等割と法人税割の合計によって求めます。以下、この2つの方式について見てみましょう。
法人住民税の均等割
所得額に関係なく、自治体ごとに一律で額が定められているのが均等割です。例えば東京都では、資本金が1,000万円以下で従業員数が50人以下の事業所の場合は年間7万円が課されます。原則として支店の所在地が本店と同じ都道府県であれば県税分の均等割の金額が増加することはありませんが、異なる市区町村に支店を開設した場合は、それぞれの市区町村への均等割を納付する必要があります。
法人住民税の法人税割
法人税割分は、法人税額に各自治体が一定の範囲内で設定する税率を掛けることで算出されます。支店を他の都道府県または市区町村に設置する場合は、所得税額を従業員数や事業所数に応じて自治体ごとに分割して、支店所在地の自治体に納付しなければなりません。
源泉徴収税
給与支払いの事務を各支店で行っている場合、会社が従業員の代わりに給与から源泉徴収した所得税等の納税地は、その支店の所在地となります。この場合でも納付金額自体は変わりませんが、給与支払事務所等の開設届を支店ごとに提出して、支店ごとに源泉徴収税を納付する必要があります。
償却資産税
事業で使用するものの中でも、備品や車両など、消耗品に分類される資産にかかる税金を償却資産税と言います。これは、普段の減価償却資産管理から本店や支店の所在地の市区町村ごとに納付する必要があります。
初めて支店を出すときに気をつけるべきこと
支店を初めて設置する際には、主に次の4点について注意する必要があります。
支店の登記申請の期間
上述のように、支店設置の日から、支店の所在地においては3週間以内に、本店の所在地においては2週間以内に登記の申請をしなければなりません。この期日を過ぎてしまうと、過料を科せられることがあります。
支店設置についての取締役会決議
支店設置に際して、支店設置に関する事項について取締役会で意思決定を行う必要があります。取締役会を設置していない会社の場合は、取締役の過半数の一致が必要です。登記申請時に議事録の提出が求められます。
支店の登記簿の記載事項
支店の登記簿には、商号、本店、会社成立の年月日、支店所在地、登記記録に関する事項を記載する必要があります。
支店設置後の変更登記
支店の登記簿には会社の商号、本店、支店所在地が登記されますが、本店が支店設置後に商号を変更した場合、本店を管轄する法務局で商号変更の手続きを経ても、支店の登記簿の商号が自動的に変わることがありません。そのため、本店だけではなく支店の登記簿の変更登記申請も同時に行う必要があります。
まとめ
新たに開く事業所を支店として設置することにはメリットとデメリットの両方があり、また様々な税金もかかるので、一概に支店の設置が良い効果を及ぼすとは限りません。しかし、いずれにせよ企業の成長戦略において、支店の拡大は必要不可欠なものです。検討中の会社があれば、周到な準備を重ねて新地開拓にチャレンジしましょう。