事業が成功して大きな利益を獲得することは、すべての経営者の目標でしょう。長年の努力が実を結び、大儲けした中からきちんと納税し、残りは自分の給与に……ところが、税法上は必ずしもその給与が適正と認められるとは限りません。今回は、高額の役員給与が税法上の損金とならない事例について解説します。
高すぎる役員給与は損金にならない!過大役員給与課税とは
過大役員給与だけじゃない!役員給与は規制だらけ
従業員への給与や賞与は原則として税法上の損金になりますが、役員への給与や賞与は以下の3種類に限って損金と認められます。
(1)定期同額給与
月に1度以上の頻度で、毎回決まった金額を支給する給与です。一般的には役員への毎月の給与として支給する事例が多いです。
その取締役の職務内容が大幅に変わったり、極端に会社の業績が悪化したりというような特別な事情がない限り、金額の変更は期首から3ヵ月以内に、一度だけ認められます。
(2)事前確定届出給与
事前に届け出た日に、あらかじめ届け出た金額を支給する給与です。給与という名前ではありますが、一般的には役員への賞与として支給する事例が多いです。
事前に届け出た日と1日でも前後したり、1円でも異なる金額を支給した場合には損金として認められませんから、特に小規模な会社では担当者が支給を忘れたり、急病で支払日当日に欠勤したりといったトラブルがないようにしましょう。
事前に銀行にて振込予約を行ったり、全額を現金で出金して会社の金庫に入れておいたりと、ミスがないように慎重に対応すべきです。
(3)業績連動給与
会社の業績を基準に支給する給与です。給与という名前ではありますが、業績に応じて支払われる決算賞与として支給する事例が多いです。
しかし、計算方法が複雑ですから、中小企業への導入はおすすめできません。
役員給与について、詳しくは当サイトの以下の記事をご参照ください。
https://www.all-senmonka.jp/moneyizm/1266/
これだけでも役員給与・賞与を損金にするハードルはかなり高いと感じられます。しかし、これらの条件を満たしていたとしても、高すぎる役員給与・賞与は会社の損金として認められません。
高すぎる給与の判断基準
会社の損金となる費用は、原則として会社の経営に直接必要なものに限られます。不必要に高額な役員給与・賞与は会社の経営にとってムダな支出だとみなされてしまうため、会社の損金とはならないとされています。
しかし、もし支払った役員給与・賞与が不必要に高額なので会社の損金として認められないと指摘された場合、多額の法人税に加えて過少申告加算税や延滞税が追徴され、しかも役員個人が支払った所得税や住民税、社会保険料が還付されるわけではありませんので踏んだり蹴ったりになってしまいますから、十分な注意が必要です。
税務署は、役員給与・賞与が高すぎるかどうかについて以下の2つの基準で判断します。
(1)形式基準
役員給与や賞与は、定款や株主総会・取締役会で定められた内容に基づいて支給されるのが法律上の大原則です。これらの定めを超える役員給与や賞与の支出は法令に違反していますから、「高すぎる」という指摘を受けてもやむを得ないでしょう。
しかし、家族経営の会社では定款が実態と乖離しているにもかかわらず放置されている、株主総会・取締役会を開催しない、議事録の作成・保管を失念してしまうといったケースが意外に多く見受けられます。
誰も指摘しないし、いままでトラブルもなかったから……これらの作業は収益を生まないにもかかわらず費用がかかりますから、気持ちはわかります。しかし、役員給与・賞与を合法的に支払うために必要な書類ですから、きちんと整備しておきましょう。
(2)実質基準
定款や議事録が整備されていたとしても、役員給与や賞与が客観的に見て高すぎる場合には損金として認められません。
具体的には以下のようなことを総合的に勘案して金額が妥当かどうかを判断しますが、実務上はなかなか困難です。参考までに、特別な事情がない限り、非常勤の役員への役員給与は月に10〜15万円程度が妥当だと言われています。
・役員の職務の内容
・法人の収益状況
・使用人給与の支給状況
・類似法人の役員給与の支給状況
妥当な役員給与はどれくらい?
似ている会社の役員給与を基準に判断
税法上損金と認められる役員給与の金額を検討するにあたり、平成30年1月25日に確定した「残波事件」が参考になります。残波事件は、泡盛の「残波」を製造する酒造会社が創業者を含む役員に支払った報酬と退職金が高すぎるため損金ではないと税務署に指摘され、それを不服として最高裁まで争った事件です。
残波事件では、地域や業種が同じ法人の中から売上が「半額から2倍」の会社を抽出し、これらの会社の役員給与の最大額を超える役員給与は過大であるという大前提が示されました。この会社の抽出基準を「倍半基準」といいます。
役員給与を決める際に「高すぎるかな……?」と感じたら、まずは同じ地域のライバル企業の役員の顔を思い浮かべましょう。彼らより高額な給与を受け取る場合、高額過ぎる役員給与であると税務署から指摘される可能性があります。
同種企業の役員給与の最高額を基準とするのはあくまで判断の大前提ですから、その役員の大活躍によって売上を大きく伸ばしたり、特別な資格を有していたりというような特別な貢献があった場合には、それらの事情も加味されます。
会社の利益や従業員の給与の増減額は?
残波事件では同種企業の役員給与の最高額を基準としつつも、過去数年間の売上総利益、営業利益、経常利益の増減額や、従業員の給与の増減額も加味すべきであるとされました。
たとえば、過去数年間の売上・利益が右肩上がりで、それに比例して従業員の給与も右肩上がりという状況であれば、従業員の給与と同程度の割合で役員給与を増額しても過大役員給与だと指摘されるリスクは低いと思われます。
しかし、万一役員給与が高額過ぎると指摘された場合、追徴額が大きくなってしまいますから、あまり大きなリスクを取ることはおすすめできません。そのようなケースでは、役員給与の支給に加えて配当を行うことを検討しましょう。
過大役員退職金にも注意が必要
退職金を受け取る大きなメリット
役員給与と比較して役員退職金は所得税の面でとても優遇されていますし、社会保険料は徴収されません。したがって、毎月の生活費に余裕があるのであれば役員給与を引き下げて税金と社会保険料を圧縮し、退職金として受け取るために積み立てておくことを強くおすすめします。
退職金については以前解説していますから、詳しくはこちらの記事をご参照ください。
https://www.all-senmonka.jp/moneyizm/1272/
役員退職金にも適正額があることに注意
役員給与と比較して有利な役員退職金ですが、役員給与と同じく高額過ぎる退職金は損金に算入されません。
適正な役員退職金の上限額を計算するにあたり、功績倍率法という計算方法が最も広く利用されています。また、裁判でもこの方法が採用されています。
役員退職給与の適正額(上限額)=最終月額報酬×勤続年数×功績倍率
以前は最終月額報酬について、倍半基準で抽出された会社の役員給与の平均額を利用することとされた裁判例が多かったのですが、残波事件では創業者については最高額を利用することとされました。
また、功績倍率は最後に就任していた役職などを基準に計算しますが、代表取締役社長の場合には3を用いることが多くなっています。
役員退職金は役員給与にも増して金額が大きいため、過大であると指摘されると会社の資金繰りに大きな悪影響を与えてしまいます。また、長期にわたって退職金原資を積み立てておく必要がありますので、役員退職金の大体の金額を事前に計画しておく必要があります。
もし、まだ役員退職金について検討されていない場合には、一度きちんと専門家に相談してみましょう。
まとめ
同業他社と比較して役員給与や退職金を決めろと言われても、そのようなデータが公開されているわけではありませんから実務上は判断に迷うケースも多いでしょう。そのようなときこそ、税理士の助言が役立ちます。税理士は自分の経験から報酬が過大だと指摘されたケース、されなかったケースを熟知しています。ご自身で判断に迷った場合には、ぜひ税理士に相談してみましょう。