法人が投資信託している場合の税金と処理方法 | MONEYIZM
 

法人が投資信託している場合の税金と処理方法

この記事の監修者
吉田健司税理士事務所 代表 吉田 健司(税理士・CFP)

利益を得るための1つの方法である投資信託。投資信託は、個人の投資家が行うものと思われがちです。しかし、法人でも投資信託をすることは可能です。ただし、法人で投資信託を行う場合はきちんと帳簿付けなどを行い、税金を計算する必要があります。今回は、法人で投資信託をする場合の処理方法について解説します。

そもそも投資信託とは

投資信託ってどんなもの?

まず、そもそも投資信託がどのような金融商品か、その概要から確認しましょう。

投資信託とは、多くの投資家から集めたお金を1つにして、運用の専門家がさまざまなものに投資していくものです。利益が出れば、投資金額等に応じて投資家に分配します。投資信託は投資した金額がすべて回収できるわけではなく、損(元本割れ)することがあるのも特徴の1つです。集めたお金を投資する対象が株式なのか公社債なのかによって、株式投資信託、公社債投資信託などの名前がついている場合が多いです。投資信託には投資、販売、運用、管理で4つの人物・機関が登場します。

①投資

投資信託を購入する投資家です。投資信託は個人でも法人でも投資できます。

②販売

投資信託の販売は金融機関や証券会社などの販売会社が行います。販売会社はいわば窓口で、集めた資金の運用は行いません。投資家ごとの口座の管理や、分配金・償還金の支払いなどの業務を行います。

③運用

投資信託の運用は運用会社が行います。さまざまなデータを独自に分析し、どの株式や公社債に投資するのかを決定します。

④管理

投資家から集めた資金は、運用会社が管理するのではなく、別に信託銀行などで管理されます。これにより、投資家の資金と運用会社の資金を区別することができ、運用会社が投資家の資金を使い込めないようにしています。運用会社の指示で株式などの売買を行います。

投資信託で利益が出る2つのケース

ここまでは、投資信託の仕組みについて見てきました。では投資信託ではいつ、どのように利益が出るのでしょうか、投資信託で利益が出るのは次の2つです。

①分配金

投資信託で出る利益として一般的なのが分配金です。運用した投資信託の利益は、保有する口数等に応じて投資家に分配されます。分配金をいつ受け取るかは、投資信託ごとに異なります。月1回のものもあれば、年1回に受け取るものもあります。

②売却

投資信託で出るもう1つの利益が売却益です。購入した時点での価額より換金(売却)時の価額が高ければ、売却益をあげることができます。換金方法には「買取請求」と「解約請求」があります。

・買取請求

所有している投資信託を販売会社に買い取ってもらい、換金する方法です。

・解約請求

販売会社を通して、信託財産の一部を解約して換金する方法です。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
外国投資信託のうち証券投資信託および公募信託に類似しない場合や外国籍の会社型投資信託などは、CFC税制が適用される可能性がありますので注意が必要です。
吉田健司税理士事務所代表 吉田 健司

投資信託の会計処理の方法

投資信託を購入した場合の処理方法

ここからは、投資信託を所有している場合の会計処理を見ていきましょう。

投資信託は「有価証券」もしくは「投資有価証券」勘定で処理するのが一般的です。

MMFなどの日々決算型の公社債投信は「有価証券」で、長期所有目的の公募株式投信は「投資有価証券」で処理します。では、購入時の仕訳を見ていきましょう。

 

例)株式投資信託100万円と購入手数料22,000円の合計1,022,000円を、普通預金から支払った。
借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
投資有価証券 1,000,000円 普通預金 1,022,000円 投資信託
投資有価証券 20,000円 購入手数料
仮払消費税等 2,000円 購入手数料

 

一般的に、購入時の手数料は投資有価証券に含めて処理します。

投資信託で利益が出た場合の処理方法

次に、投資信託で利益が出た場合の仕訳について確認しましょう。投資信託での利益には、分配金と売却益があります。それぞれの仕訳は次のとおりです。

①分配金

分配金には、さらに利益の分配にあたる「普通分配金」と、元本の払い戻しである「特別分配金」に分かれます。法人の場合、普通分配金からは、15.315%の所得税が差し引かれて振り込まれます。

 

例)普通分配金2万円から所得税3,063円が差し引かれ、差額の16,937円が振り込まれた。また、後日特別分配金1万円も振り込まれた。

●普通分配金の仕訳

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
普通預金 16,937円 受取配当金 20,000円 普通分配金
仮払金 3,063円 源泉所得税

 

差し引かれた所得税は「仮払金」や「預け金」などの資産科目で処理します。

 

●特別分配金の仕訳

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
普通預金 1万円 投資有価証券 1万円 特別分配金

 

特別分配金は、元本の払い戻しのため、「投資有価証券」をマイナスします。

②売却益

投資信託の換金(売却)方法には、「買取請求」と「解約請求」があります。実は、「買取請求」と「解約請求」では税務の考え方が異なります。そのため、会計処理も異なるものとなります。

・買取請求

例)証券会社に、投資信託の買取請求を行った。買取金額110万円、売却手数料22,000円が差し引かれ、1,078,000円が普通預金に振り込まれた。帳簿上の投資信託の価額は101万円だった。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
普通預金 1,078,000円 投資有価証券 1,010,000円 投資信託
支払手数料 20,000円 有価証券売却益 90,000円 売却手数料

売却益

仮払消費税等 2,000円 売却手数料

 

買取請求の場合は、有価証券の譲渡と考えて仕訳を行います。

・解約請求

例)証券会社に、投資信託の解約請求を行った。解約金額110万円、手数料22,000円、所得税13,783円が差し引かれ1,064,217円が普通預金に振り込まれた。帳簿上の投資信託の価額は101万円だった。

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
普通預金 1,064,217円 投資有価証券 1,010,000円 投資信託
支払手数料 20,000円 受取配当金 90,000円 手数料

売却益

仮払消費税等 2,000円 手数料
仮払金 13,783円 源泉所得税

 

解約請求の場合は、配当金の受取と考えて仕訳を行います。

 

今回ご紹介した仕訳は一例です。投資信託にはいくつかの種類があり、その種類によって、仕訳が異なることもあります。

法人で投資信託をしている場合の税金とは

投資信託を譲渡した時の税金とは

ここから、法人で投資信託をしている場合の税金について見ていきます。

投資信託で買取請求をした場合は、譲渡とみなされます。個人事業では本業(事業)と譲渡の所得を分けて計算しますが、法人は分けることはしません。本業の利益と投資信託の譲渡の利益を合算し、合算した利益に法人税率を乗じて、法人税の計算を行います。そのため、投資信託の譲渡で大きな利益が出ている場合は、法人税の金額も大きくなるので注意が必要です。

投資信託で分配金がある場合の税金とは

投資信託で分配金がある場合や解約請求をした場合の利益は、配当金とみなされます。そのため、分配金や解約請求をした時の利益には、15.315%の所得税が源泉徴収されます(上場株式等の配当等に係る源泉徴収税率等)。ただし、この源泉徴収された金額は税金の前払いのため、法人税の納付額の計算の際に控除されます。

 

投資信託の分配金や解約請求をした場合の利益は、受取配当金です。ここで注意したいのが、受取配当金の益金不算入制度との関係です。原則、株式投資信託の収益分配金(特定株式投資信託の収益分配金を除く)は、受取配当金の益金不算入の対象外となります。益金不算入の配当金と同様に計算しないように注意が必要です。

記事監修者からのワンポイントアドバイス
投資信託のうち受取配当等の益金不算入制度の対象となるのは日本株に投資するETFのみです。これを特定株式投資信託(外国株価指数連動型特定株式投資信託を除く。)といい、益金不算入割合は20%です。
吉田健司税理士事務所代表 吉田 健司

法人が投資信託に投資するメリットとデメリット

次に、法人が投資信託に投資するメリットとデメリットを見ていきましょう。

法人が投資信託に投資するメリット

・運用益を得ることができる

法人が投資信託に投資する第一のメリットは、もちろん運用益を得られることです。投資信託の運用がうまくいくと、定期的な運用益(分配金)のほか、売却すると売却益を得られます。
 

投資信託の運用で生じた利益(キャッシュ)は本業に使えるため、会社の成長につなげることもできます。

・投資信託の運用でマイナスが出た場合も個人よりも有利

投資信託の運用はいつも利益が生じるとは限りません。投資信託はマイナスが出るリスクもあります。
 

投資信託の運用が失敗して損失が出た場合も、個人で投資信託を運用するよりも法人で運用したほうがメリットがあります。
 

個人は、事業や給与など収入を種類に応じて所得に分け、所得ごとに所得金額などを計算します。個人で投資信託に投資しマイナスが出た場合は、そのマイナスを他の株式の利益と相殺できますが、事業所得や給与所得などとは相殺できません。そのため、投資信託でいくらマイナスが出ても、事業所得や給与所得などの税金は支払わなければなりません。
 

一方、法人では収入を各所得に分けることはありません。本業の損益も投資信託の収益も合算した所得に法人税がかかります。投資信託でマイナスが出たら本業などの他の利益と相殺できるので、納める税額が低くなります。また、投資信託のマイナスが大きく他の利益と相殺しても損失になる場合は、その損失を最大10年間翌期以降に繰り越しすることも可能です。

法人が投資信託に投資するデメリット

・元本保証がない

法人が投資信託に投資するデメリットは、元本保証がないことです。投資信託の運用でマイナスが出たら、出資した金額よりも低い金額しか戻ってこない場合もあります。

・税の優遇措置がない

個人では、投資信託に対していくつかの税の優遇措置があります。例えばNISA口座で投資信託をすれば、投資信託の運用益には税金がかかりません。しかし、法人では投資信託に対して税の優遇措置がないので、利益は全額が課税対象になります。
 

また、個人では特定口座で投資信託に投資できますが、法人には特定口座の制度はありません。
 

特定口座を利用すると、投資信託を売却した場合などの損益計算を証券会社が行ってくれるので、事務の手間が少なくて済みます。法人は特定口座を利用できないので、個人に比べて損益計算などの事務の手間が多いデメリットもあります。

職場つみたてNISAとは

法人で導入が進んでいる制度のひとつに「職場つみたてNISA」があります。職場つみたてNISAとは、簡単にいうと、会社を通して従業員がNISAを利用する制度です。「成長枠」と「つみたて投資枠」の併用も可能です。
 

職場つみたてNISAでは、従業員は会社が選んだ証券会社で資産運用を行います。通常、毎月の給料からあらかじめ決めた一定額を天引きして、つみたてNISAでの資産運用に充てます。毎月固定額の投資ができるので、無理せず資産形成を行えます。
 

会社は、従業員に対し、職場つみたてNISAのために一定額の奨励金を支給することもできます。例えば、従業員の給料から毎月1万円を職場つみたてNISA分として天引きし、会社も奨励金として月1万円を従業員のつみたてNISAのために支給すれば、従業員は毎月2万円を職場つみたてNISAで資産運用していることになります。 

このように職場つみたてNISAを導入した場合の会計処理は、給料支払い時と証券会社に送金時の2つの仕訳が必要です。

・給料支払い時

例)従業員の給料30万円から、職場つみたてNISAの掛け金3万円を天引きした。会社からは、職場つみたてNISAの奨励金を2万円支給している。給料と職場つみたてNISAの奨励金に対する源泉所得税は合計で1万円である。なお、金額は説明しやすいよう、きりのいい数字にし、また分かりやすいようにその他の控除はないものとする。

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
給与 30万円 普通預金 26万円 〇月分給与
預り金 3万円 職場つみたてNISA
預り金 1万円 源泉所得税
給与 2万円 預り金 2万円 職場つみたてNISA奨励金

 

給料から天引きした職場つみたてNISAの掛け金は、あくまで従業員が負担するものであるため、「預り金」などの勘定科目で処理します。これは、源泉所得税など給料から天引きする他の項目と同じ考え方です。
 

会社が負担する職場つみたてNISAの奨励金は「給与」や「福利厚生費」などの経費科目で処理します。この時点で、職場つみたてNISAの奨励金を証券会社にまだ支払っていないため、貸方勘定科目は「預り金」などで処理します。また、奨励金は源泉徴収の対象となるので注意しましょう。

・証券会社への送金時

例)給料から天引きした職場つみたてNISAの掛け金3万円と、NISAの奨励金2万円の合計5万円を証券会社に送金した。
 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
預り金 3万円 普通預金 5万円 職場つみたてNISA
預り金 2万円     職場つみたてNISA奨励金

 

証券会社に送金する時には、預り金を支払った会計処理をします。

※ここで紹介した仕訳は、あくまで一例です。勘定科目や仕訳などには他の方法もあるので、自社に合わせた仕訳をしてください。
記事監修者からのワンポイントアドバイス
職場つみたてNISAとは、職場という身近な場を通じて、NISAを利用した資産形成ができるよう、事業主が従業員などを支援する福利厚生制度です。勤務先で職場つみたてNISAの制度が導入されているか調べてみましょう。
吉田健司税理士事務所代表 吉田 健司

記事監修者 吉田税理士からのワンポイントアドバイス

投資信託には、さまざまな種類があります。そのため、法人で投資信託をしている場合は、その種類に合わせた会計処理や税務処理が必要となります。今回はその中でも一般的な処理方法をご紹介しました。自社が所有している投資信託が一般的な処理方法を行ってよいか不明な場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。

長谷川よう
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
この記事の監修者
吉田健司税理士事務所 代表 吉田 健司(税理士・CFP)
東京国税局で主に法人税調査に27年間従事した後、独立。税理士としてクライアントに直接対応し、個々の状況に合わせて共に問題を考え、解決策を見出すことを大切にしています。また、金融機関に属さない独立系ファイナンシャル・プランナーとして、完全中立の立場でアドバイスを行っています。

事務所公式ホームページはこちら