法人の損金は個人事業主の所得税でいう必要経費と意味は同じです。しかし、法人の場合、損金と別に費用という概念が存在します。たとえば、「法人税の支払額は経費で落とせない=損金計上ができない」と言われますが、決算書では費用計上を行います。このように損金と費用は混同しやすいため、両者の違いについて解説します。
損金について知る前の法人税の予備知識
法人税の計算方法についての基本的なルール
そもそも損金は法人税の概念です。そこで、損金について知る前に法人税の予備知識を説明します。
法人税の計算方法は所得金額に税率を掛ける点では個人事業主の所得税と共通しています。しかし、所得税と違い、収入から経費を差し引いて計算するわけではありません。法人税は決算書の当期純利益という会計上の利益をベースに、別表調整により所得金額を求める2段構えで計算します。
別表では会計上の費用と損金の違いを調整する
決算書の当期純利益をベースに別表調整により計算する理由は、会計上の利益と法人税の所得金額が類似しているからです。それは損金と会計上の費用にも当てはまります。たとえば、業務上の交通費は損金であり、会計上の費用でもあります。そのため、当期純利益の計算で控除した交通費は法人税の所得金額にもそのまま反映されます。また、損金と会計上の費用の違う例として、当期純利益を計算するとき、損金でない法人税などの見積額を控除しますが、別表調整で所得金額を算出する段階で控除した金額を加算する点が挙げられます。
法人税の計算は株主総会の決議を得る必要がある
決算書の当期純利益は株主総会の決議を得ることで、計算が正しいと認められます。法人税の所得金額の計算も同じように株主総会の決議を得た当期純利益をベースに別表調整を行います。そのため、後述するように、たとえばある支出項目について経理処理をしている、いないによって損金の計算に影響を及ぼすことになります。
損金のアウトラインについて解説
損金は会計上の費用と類似していますが、法人税では明確なルールが定められています。そこで、損金のアウトラインについて解説します。
そもそも損金とは何か
法人税で損金とは次のように定められています。
(1)売上に対応する売上原価の額(完成工事原価など原価を含む)
売上に対応する原価は販売数量と直接関係します。たとえば、小売業の商品仕入れ分のうち販売数量分だけ損金計上をすることができます。また、別の例として、製造業における光熱費100万円のうち、販売数量80個と在庫分20個(計100個)を合理的にあん分すれば、前者に対応する「光熱費100万円×販売数量80個÷計100個=80万円」の損金計上が可能です。
(2)販売費、一般管理費などで債務の確定した費用(ただし、債務の確定していない償却費を含む)の額
販売費、一般管理費は販売数量と直接関係するわけではありません。たとえば、事務所用の家賃を販売数量分だけあん分することは不可能です。そのため、その年度の期間に応じて損金計上を行います。1年分の税理士報酬を前納した場合、その年度に対応する分だけ損金計上ができます。
(3)損失の額
たとえば、売掛金など債権の貸し倒れ(回収不能の確定額)や災害による被災額なども損金計上の対象となります。ただし、事業活動に基づく損失と関係ない、たとえば株主への出資金の払い戻しなどの資本等取引は損金計上の対象から除かれます。
売上原価を計上するタイミング
売上原価は販売数量から正確な金額との近似値を推定することが可能です。そのため、たとえ金額が確定していなくても、売上に基づき見積計上することができます。たとえば、製造業で経費の集計が確定申告書の提出期限までに間に合わない場合、販売数量に基づく見積計上額の損金計上ができます。
販売費、一般管理費などの債務が確定したとは?
販売費、一般管理費などの債務の確定について法人税で明確な基準が定められています。具体的には次の3つの条件をすべて満たすことを指します。
(1)費用に対する債務が成立していること
たとえば、従業員に対する締め後の給料は会社の支払義務が確定しています。つまり、従業員に対し、債務が成立しています。一方、従業員への退職金を見積計上する退職給付引当金は会計上の費用ですが、支払義務は確定していません。そのため、債務が成立しているわけでなく、損金計上は認められません。
(2)債務に対して支払義務の発生する事実が存在していること
前述の従業員に対する締め後の給料は実際に労働したという事実が存在するため、損金計上ができます。しかし、労働したという事実がない場合、たとえ締め後の給料という名目で支給しても、それは従業員に対する寄付となり、損金計上の対象にはなりません。
(3)金額が合理的に算定することができること
たとえば、従業員に対する締め後の給料は日数や労働時間から合理的に算定することが可能です。そのため、金額が客観的であるため、損金計上ができます。
損金と会計上の費用の違いを解説
損金と会計上の費用は類似していますが、考え方は違います。そこで、両者の違いについて解説します。
そもそも会計上の費用とは?
そもそも決算書の当期純利益は事業活動による採算額から法人税などの見積金額を差し引いた金額です。つまり、「今期はいくら売り上げた結果、最終的にいくら残るのか」という計算を行います。そのため、今期の売上に対応する仕入や諸経費、利益に対する法人税など見積金額を会計上の費用として計上します。
売上に対応していなくても損金に計上できる項目
そもそも法人税は税金の負担能力をベースに所得金額を計算します。そのため、たとえ今期の売上に対応していない費用などでも損金計上ができます。会計上の費用でなくても損金計上ができる項目はおもに次の通りです。
(1)繰越欠損金
繰越欠損金とは過去の累積赤字のことを指します。青色申告で確定申告をしている場合に限り、今期の所得金額から控除することができます。
(2)費用を見積計上した事業税
会計上の費用に見積計上した事業税は翌期中に申告します。今期の売上に対応していなくても、申告した年度で損金計上ができます。
(3)特別償却準備金
特別償却準備金とは、優遇税制に基づく減価償却費の追加計上額のことを指します。会計上の費用に計上せず、内部留保の金額から直接控除します。そのため、当期純利益からマイナスされませんが、別表調整による損金計上ができ、所得金額から控除されます。
売上に対応していても損金に計上できない項目
売上に対応しても損金計上ができない項目はおもに次の通りです。
(1)租税公課
・法人税、地方法人税、住民税
・追徴課税される加算税、延滞税など
・罰金、科料、過料など罰則に基づくもの
・法人税から税額控除する所得税、復興特別所得税、外国法人税
(2)交際費等
中小企業の場合、交際費等のうち800万円を超える金額は会計上の費用に計上しても、損金計上できません。
(3)役員賞与
交際費等と同じように、会計上の費用に計上しても、事前確定届出給与を除き損金計上は認められません。
株主総会の決議を得なければ損金に計上できない項目
前述の通り、法人税は株主総会の決議を得た当期純利益に基づいて所得金額を計算します。そのため、損金の中には株主総会の決議を得なければ、計上が認められない項目が存在します。
そもそも株主総会の決議を得るとは?
費用または損失として経理した会計上の費用が株主総会の決議を得た場合、その経理処理が正式に認められることを意味します。この経理処理のことを法人税では損金経理といいます。
損金経理をしないと損金に計上できない費用
損金経理をしないと損金計上が認めらない項目はおもに次の通りです。
(1) 減価償却費
減価償却費とは固定資産を耐用年数に応じて複数年で費用計上することを指します。たとえば、計算ミスや粉飾決算などにより税法上の限度額より少ない金額で損金経理をした場合、経理処理をした金額しか損金計上できません。
(2)30万円未満の消耗品
30万円未満の消耗品を全額損金計上するためには、支払年度に一括で損金経理することが求められます。
(3)10万円未満の消耗品または使用可能期間が1年未満の消耗品
支払年度に一括で損金経理することが全額損金計上する条件です。
(4)繰延資産の償却費
創立前の支出費用である創立費や権利金などの繰越欠損金は上記(1)と同じように損金経理することが損金計上の条件です。
(5)未払使用人賞与
使用人(従業員)の賞与の未払い額を損金計上する条件のひとつに損金経理をすることが挙げられています。
まとめ
損金は税金の支払能力のマイナス要因といえます。たとえば、過去の累積赤字を計上すれば財産は減少します。会計上の費用でなくても、税金の支払能力は減少しているため、繰越欠損金として法人税の所得金額から控除します。このように税金の支払能力という視点から費用を見ると損金について理解しやすいでしょう。
参考文献・URL
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