中小企業では人手不足が深刻な問題となっていますが、助成金には雇用の安定化などに取組む企業を応援するさまざまな制度がそろっています。近年は働き方改革に関連して助成金の新設や拡充が活発なため、助成金については最新情報の入手が欠かせません。今回は、雇用対策に役立つ中小企業向けの助成金をご紹介します。
長時間労働の是正や柔軟な働き方を推進する助成金
【拡充】時間外労働等改善助成金
時間外労働等改善助成金は時間外労働の上限設定や勤務間インターバルの導入などに取組み、一定の成果をあげた事業主に対して取組み費用などを一部助成するものです。時間外労働等改善助成金のうち「時間外労働上限設定コース」と「勤務間インターバル導入コース」は費用の3/4(上限あり)が支給されますが、以下の2点を満たすと助成率が4/5になります。
・事業規模が30人以下
・労働能率向上のための設備投資、機器等の費用が30万円超のとき
助成金の申請は必要書類とともに交付申請書を最寄りの労働局(雇用環境・均等部[室])に提出し、交付決定後に取組みを実施し、その後、支給申請を行うといった流れとなります。厚生労働省が開設する助成金のサイトでは支給要件をはじめ、申請書の記載方法や注意点などが詳しく紹介されているので適宜、利用しましょう。
・時間外労働上限設定コース
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html
・勤務間インターバル導入コース
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html
・職場意識改善コース
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisiki.html
【拡充】両立支援等助成金
両立支援等助成金は仕事と育児、介護等の両立を図るために取組んだ事業主に支給される助成金です。数多くのコースがありますが、ここでは2018年度に拡充された「出生時両立支援コース」をご紹介します。
出生時両立支援コースは、男性の育児休業や育児目的の休暇取得を推進するための助成金制度です。中小企業への助成額は大企業の2倍で、さらに、生産性要件を満たすと【 】内に示したように増額となります。生産性要件とは、助成金を申請する直近の会計年度における生産性が「3年度前と比較して6%以上の伸びがある」などの要件のことです。
・育児休業の取得
中小企業向けの助成額は育休取得者の1人目については57万円【72万円】、2人目以降は取得した育休の期間によって幅があり14.25~33.25万円【18~42万円】となっています。ただし、助成対象は1企業、1年度あたり最大10人までです。
・育児目的休暇の取得
1企業につき1回限りですが、中小企業には28.5万円【36万円】が助成されます。
両立支援等助成金には、介護休業の取得促進などに関連した「介護離職防止支援コース」、自社における女性の活躍を推進する「女性活躍加速化コース」などもあります。
・厚生労働省:仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主等のみなさまへ 両立支援等助成金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html
非正規労働者の処遇改善やスキルアップに役立つ助成金
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、有期契約などの非正規社員の処遇改善に取組んだ事業主を対象とする助成金制度です。同一労働同一賃金に向けた取組みを応援するために、多彩なコースが設けられています。
「正社員化コース」は有期契約や無期契約の社員を正規社員に、あるいは有期契約から無期契約に転換した場合に助成されるものです。「正規」には地域や職務を限定した社員、短時間正社員といった多様な正社員も含まれます。さらに、派遣社員を「派遣先」が正規社員として直接雇用(有期または無期⇒正規)した場合、1人あたり28.5万円【生産性要件:36万円】が加算されるなど特定の要件を満たせば増額も可能です。
キャリアアップ助成金は注目度も高い助成金制度ですが、労働関係法令や社会保険法令を遵守していない、あるいは支給要件を満たしていない事業主からの申請も多いとの指摘もあります。法令遵守はもちろんのこと、支給要件も事前にしっかり確認してから申請しましょう。
・厚生労働省:キャリアアップ助成金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は人材育成を目的として職業訓練を実施した事業主を対象に、訓練経費や訓練期間中の賃金について一部を助成するものです。2018年度は、より活用しやすい助成金制度となるように助成金メニューの整理統合が行われ、中小企業限定の「教育訓練休暇付与コース」が新設されました。教育訓練休暇付与コースは教育訓練休暇制度を新規に導入(就業規則等に規定)し、実際に制度を適用した場合に助成対象となります。助成額は30万円【生産性要件:36万円】の定額助成です。
また、正社員への転換等を目的としてOJTとOFF-JTを組み合せて職業訓練を行った場合には「特別育成訓練コース 有期実習型訓練」を利用できる可能性があります。
・厚生労働省:人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇付与コース、特別育成訓練コース)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
人材確保対策や設備投資・賃金アップに活用したい助成金
人材確保等支援助成金
人材確保等支援助成金のうち、「雇用管理制度助成コース」は評価制度や研修制度などの雇用管理制度を導入し、離職率を低下させることができた事業主に57万円【生産性要件:72万円】を助成する制度です。従来は制度を導入するだけで助成を受けられるしくみでしたが、2018年度以降は一定期間のうちに目標とした離職率低下を達成できた場合に助成される制度に変わりました。
また、「人事評価改善等助成コース」は生産性向上に役立つとされる能力評価を含む人事評価制度や賃金制度を整備した場合、50万円を受け取れる制度です。さらに、制度整備を通じて生産性を向上させ、賃金の引き上げや離職率の低下を実現した場合は助成額が80万円に増額となります。
・厚生労働省:人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース、介護福祉機器助成コース、介護・保育労働者雇用管理制度助成コース)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199292.html
【拡充】業務改善助成金
業務改善助成金は最低賃金額が1,000円未満の事業場において生産性向上のために設備投資等を行い、最低賃金を30円以上アップさせた場合に設備投資等の費用を一部助成する助成金制度です。
助成率は設備投資等に要した費用の7/10【生産性要件:3/4】ですが、企業全体で常時使用する従業員が30人以下の場合、助成率は3/4【4/5】となります。なお、事業場内最低賃金の引き上げ額と引き上げた従業員の人数により、助成額の上限や助成対象となる事業場が異なるので支給要件をしっかり確認しましょう。
・厚生労働省:業務改善助成金
【受給額上の上限変更】雇用調整助成金
景気の変動などにより経営が悪化すると事業を縮小せざるを得ないこともあります。「雇用調整助成金」は事業を縮小した事業主が従業員を一時的に休業させたり、教育訓練や出向をさせたりして雇用維持を図った場合、事業主の負担額に対して2/3(中小企業の場合)を助成するものです。対象労働者1人・1日あたりの受給額上限は、2018年8月から「8,250円」に引き上げられました。
また、教育訓練をさせた場合に限り、1,200円(1人・1日あたり)が加算されます。
・厚生労働省:雇用の維持を図る事業主を支援します 雇用調整助成金
こまめにチェック!地域限定の助成金や無料の専門家派遣
自治体や団体が実施する助成金
国が実施する助成金のほかに、都道府県や市区町村、商工会議所等の団体が実施する助成金制度も多数あります。たとえば、経営課題解決のために専門家からアドバイスを受ける費用の一部助成、あるいは育児休業や介護休業を取得する際、引継期間における代替要員の給与助成など助成内容はさまざまです。
助成金制度は年度ごとに施策や予算などの関係で新設や廃止、支給要件の変更などが行われるため、こまめにチェックして使えそうな助成金を探しましょう。
・中小企業庁:ミラサポ
https://map.mirasapo.jp/area/141003/lists/
・足立区専門家派遣助成金
https://map.mirasapo.jp/subsidy/23506.html
・千代田区引継期間代替要員給与助成金
働き方改革推進支援センターによる専門家派遣
働き方改革推進支援センターは全国の都道府県に設置され、働き方改革に関する事業者の悩みに対応するワンストップ相談窓口です。働き方改革推進支援センターではセンター内での相談対応をはじめ、社会保険労務士や中小企業診断士による企業訪問、助成金の活用等をテーマとしたセミナー開催などを無料で行っています。
・厚生労働省:働き方改革推進支援センターのご案内
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000198331.html
まとめ
助成金の中には中小企業に限定したものや大企業より助成額を高めに設定してあるものなど、事業規模が小さいからこそ助成率が高い助成金制度もあるので上手に活用したいものです。助成金の申請では支給要件をていねいに確認し、指定された申請書の必要事項を適切に記入して必要書類をきちんとそろえて提出することが不可欠です。
しかし、「そうはいっても助成金の支給要件は複雑でわかりにくい」「申請の準備が面倒で諦めた」など慣れない申請書の準備に負担を感じたという声は少なくありません。よりスムーズに助成金を受け取るためには専門家に依頼するのも1つの方法です。「専門家に依頼したことがないので不安」という方は無料や費用の一部負担で利用できる専門家派遣などを通して、まずは専門家の支援を受ける機会をつくってみませんか。