源泉所得税を毎月納付している事業主の皆さまの中には、毎月の納付額の計算や納付期限に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。今回は、こうした手間を削減し、納付をまとめて実施することができる特例についてご紹介します。
源泉所得税とは
概要
源泉所得税とは、事業主が従業員に対する給与や賞与、外注先への報酬などを支払うときに、そこから所得税分を事前に差し引いて、従業員本人の代わりに国に納める税金のことです。事業主は所定の方法で所得税額を計算し、納付しなければなりません。これには、納税者と税務署の双方の負担を減らすという意味合いがあります。何故なら、サラリーマン等の給与所得者が、通常の個人事業主と同様にそれぞれ確定申告による所得税の納付を行えば、申告時期に税務署が大変混雑し、処理を行う側への負荷も大きくなってしまうからです。
税額の計算方法
源泉所得税の税額は、誰に対してどのようなお金を支払ったかによって求め方が異なります。
従業員に対する給与や賞与であれば、国税庁が毎年発行している「給与所得の源泉徴収税額表」(月額表と日額表が存在します)または「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を参照し、社会保険料を控除した給与の額と、扶養親族の人数に応じて税額を求めます。給与等についての源泉所得税は、このような簡略的な形で月ごとに算出して納付するため、その合計額が年間を通じた正式な所得税額と齟齬をきたすことがあります。そのような際には、年末調整を行って誤差を修正します。
次に、外注先への報酬や料金についての源泉所得税額の求め方は、支払い額が100万円を超えるかどうかで、以下のように計算式が異なります。
報酬・料金の支払い額 | 源泉徴収税額 |
---|---|
100万円以下 | 支払い額×10.21% |
100万円超 | (支払い額-100万円)×20.42%+102,100円 |
ただし、外注であっても、司法書士や外交員に対して支払う報酬・料金、広告宣伝のコンペの賞金など、上記の計算式とは異なるものもあるのでご注意ください。
また、源泉所得税の納付が遅れると、不納付加算税と延滞税が発生し、元々の納付予定の金額とあわせて納付することになります。
納付の時期と方法
源泉所得税の納付時期は、原則として対象となる支払いが生じた月の翌月の10日までとなっています。ただし、10日が土日祝日に当たる場合は、休日明けの平日が納付期限となります。源泉所得税の納付方法としては、主に次の3つが挙げられます。
・窓口納付
源泉所得税を納付するための用紙、「所得税徴収高計算書」を最寄りの税務署で入手して記入します。その後、金融機関や管轄の税務署の窓口で現金による納付を行います。
・電子納税(ダイレクト納付)
国税電子申告・納付システムe-Taxを利用し、徴収高計算書データを送信した後、あらかじめ届出をしてある預貯金口座から納税額が引き落とされます。即日の納付も、期日の指定も可能となっています。
・電子納税(インターネットバンキング等)
こちらもe-Taxを利用して、納付情報データを送信し登録します。登録後に付与される納付区分番号を用いて、インターネットバンキング等から納税します。これはスマホやパソコンなどで手軽に支払いを行える点が強みです。しかし、上記のダイレクト納付も同様ですが、電子納税を行う際はウィルス等へのセキュリティ対策に十分注意する必要があります。
源泉所得税の納期の特例
特例の内容
原則として毎月納付を行う源泉所得税ですが、源泉徴収した所得税を半年ごとにまとめて納付する特例制度があります。この特例を受ければ、1月~6月の所得税は7月10日までに、7月~12月の所得税は翌年の1月20日までにと、年2回に分けて納付することができます。「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出して認可を受けた事業主は、提出日の翌月に支払う給与等からこの特例が適用されます。
対象の条件
この特例を受けるためには、給与を支給する従業員が常時9人以下であることが必須の条件になります。対象となる源泉所得税は、従業員への給与や退職金、あるいは弁護士や税理士などへの報酬について源泉徴収を行ったものに限られます。これら以外の源泉所得税は、通常通り所得が発生した翌月の10日までに納付する必要があります。
なお、特例を受けている間に常時雇用する従業員が10人以上になり、適用要件を満たさなくなった場合には、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を税務署に提出しなくてはなりません。
特例のメリット
源泉所得税の納期の特例を活用することで、以下のようなメリットが得られます。
・事務負担を軽減
通常の納期の場合、毎月源泉所得税を納付する必要があるため、膨大な事務処理が必要になります。しかし、特例の適用を受ければ、納期を年2回に分けることができるため、事務処理を大幅に削減することが期待できます。
・納付遅れのリスク低減
納付の回数が少なくなる分だけ、うっかり納付を忘れて延滞税等を課せられる可能性も減ります。
・資金繰りの容易化
月々の給与等から徴収される所得税は預り金として事業主の手元にプールされるため、これを資金繰りに運用することが可能となります。
住民税の納期の特例
事業主は、所得税だけでなく住民税についても、従業員の給与から差し引いて本人に代わって都道府県および市区町村に納める義務があり、毎月の給与より徴収した住民税を翌月10日までに納付します。この事務負担を軽減するために、住民税でも納期の特例が認められています。この場合、6~11月の住民税を12月10日までに、12月~翌年5月までの住民税を6月10日までに納付するという形になります。
手続き概要
この特例を受けるためには、源泉所得税と同様、給与を支給する従業員が常時9人以下であることが必須の条件になります。事業主は、事前に「特別徴収税額の納期の特例に関する申請書」を市役所に提出し、承認を得る必要があります。
特例を受けている間に常時雇用する従業員が10人以上になり、適用要件を満たさなくなった場合には、「特例徴収税額の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を市役所に提出しなくてはなりません。
源泉所得税との違い
上述の源泉所得税とよく似たこの住民税の特別徴収ですが、両者の間には以下のような細かな違いがありますので注意しましょう。
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- 住民税は所得税と違い、市区町村が前年の所得を基に毎月の納付額を計算して納付書を送ってくれますので、納税額を自分で求める必要はありません。
- 国税である所得税は税務署に納め、地方税である住民税は市役所に納めます。
- 納期の特例を受けると納付が年2回になる点は同じですが、源泉所得税の方は納付期限が7月10日と1月20日であり、住民税の納付よりも1ヶ月ほど遅くなっています。
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まとめ
源泉所得税や住民税の納期の特例を受けることで、毎月の納税という大きな事務負担を減らし、資金繰りを改善することが可能になります。適用の要件を満たす事業主の方は、ぜひともこの制度を大いに活用しましょう。