最近の働き方改革の影響に加えて人手不足の影響もあり、従業員の方の給与や手当の体系を見直している企業も多いようです。しかし、手当の種類によっては、通常の給与とは異なる取扱いをされることがあります。残業代にも影響を与えますので、制度を導入する前によく確認しましょう。
手当の名目により大違い!所得税が非課税となる手当とは
通勤手当は非課税!ただし上限アリ!
給与に加えて通勤手当が支給されたとしても、通勤手当分に対しては所得税がかかりません。しかし、非課税となる範囲には一定の条件があります。
まず、非課税となる通勤手当は150,000円以下です。どのような内容であれ150,000円を超える通勤手当は、超えた金額について所得税が課されます。
以前は通勤手当の最高限度が100,000円でしたが、平成28年1月1日以後に支給される通勤手当からは150,000円に改正されました。必要に応じて社内の通勤手当規則を改正しておきましょう。
(1)公共交通機関のみを利用している場合
公共交通機関のみを利用している場合には、自宅と勤務地を往復するための最も合理的な経路を利用する限り、原則として運賃の全額が非課税となります。定期券を支給する場合も同様です。
(2)自動車や自転車などの交通用具を利用している場合
自動車や自転車などの交通用具を利用して通勤している場合には、その距離に応じて法令により定められた金額が非課税となります。
(3)公共交通機関と交通用具を併用している場合
公共交通機関と交通用具を併用している場合には以下の①と②の合計額が非課税となります。
①公共交通機関を利用する区間については、自宅と勤務地を往復するための最も合理的な経路を利用する限り、原則として運賃の全額
②交通用具を利用する区間については、その距離に応じて法令により定められた金額
宿直手当・日直手当は非課税!ただし業務時間外に限る
最近は少なくなりましたが、なにか緊急の連絡や突発的なトラブルがあった場合に備えて勤務先に交代で泊まることがあります。その場合に、いくらか手当を支給することがあります。
これを宿直手当や日直手当といいますが、1回の宿直あたり4,000円までの手当が非課税とされています。
ただし、あくまで日中に通常の仕事をする前後に宿直することが前提ですから、夜間・休日の留守番のために雇用された方やもともと夜勤の方、代休が与えられる方は対象外となっています。
出張旅費も非課税!ただし出張旅費規程が必要
出張に伴う必要経費を賄う、いわゆる出張旅費も非課税となっています。節税効果が高い手当ですから、ぜひ導入することをお勧めしますが、賞与その他の臨時給与であると指摘されやすいため、出張旅費規程を作成してそのとおりに支出することをお勧めします。
また、あまりに高額な出張旅費は非課税とはなりません。非課税となる上限が厳密に定義されているわけではありませんが、あくまで常識の範囲内で支給しましょう。
出張旅費が非課税となっている本来の意義は、旅先での細々とした交通費や身の回り品の購入など、いちいち領収書を受け取って経費精算するのになじまない支出を概算で支給することを認めるためです。
したがって、1日あたり数千円が一般的な支給額となるでしょう。もちろん、出張にあたり業務上の必要に基づいて支出した具体的な費用についてはこの限りではありませんので、領収書などと引き換えに実費を支給しても課税されません。
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社会保険がかかる給与、かからない給与
出張旅費など、臨時に受け取るものは社会保険料がかからない!
出張旅費や大入袋など、従業員が臨時に受け取る金銭には社会保険料がかかりません。正確には、標準報酬月額の計算に含まれませんので、その金銭を受け取ったとしても社会保険料が増額されません。
標準報酬月額の計算に含まれない臨時給与の例として、日本年金機構は以下のようなものを例示しています。
<標準報酬月額の計算に含まれないもの>
・大入袋
・見舞金
・解雇予告手当
・退職手当
・出張旅費
・交際費
・慶弔費
・傷病手当金
・労災保険の休業補償給付
・年3回以下の賞与(後で解説しますが、給与とは別に社会保険料が徴収されます)
・現物支給の制服・作業服
・見舞い品
・本人が2/3以上の費用を負担する食事
なお、通勤手当は所得税が非課税ですが、標準報酬月額の計算には含まれますので注意しましょう。
年間3回まで支給される賞与にも労働保険料と社会保険料がかかる!
年間3回まで支給される賞与には労働保険料や社会保険料がかからないという誤解がありますが、事実ではありません。たしかに毎月の給与として計算される標準報酬月額には含まれませんが、賞与の額に応じて別途労働保険料や社会保険料が徴収されます。
また、高齢の役員や従業員の方の場合には年金にも影響します。給与と老齢厚生年金を合計した額が一定額以上となる方は老齢厚生年金が減額されたり、受け取ることができなかったりします。
よく、「給与を減額し、その分賞与として受け取れば年金を受け取れるようになりますよ」というアドバイスをする人もいるのですが、賞与も総報酬月額相当額として計算され、標準報酬月額に上乗せされて計算されますから、制度をよく理解して給与体系を変更しないと手間ばかりかけて効果がなかったということにもなりかねません。
割増賃金の対象となる手当、ならない手当
従業員に残業や休日出勤をお願いした場合には賃金に一定率を上乗せした残業代を支払わなければいけません。その際の賃金には給与だけではなく、原則としてすべての手当も含まれますが、法令により一定の例外があります。
なお、この例外は例として挙げられているのではなく、法令によりこれらの手当だけは特別に割増賃金の対象外とするよう定められていますから「この手当も似たようなものだから、割増賃金の対象外にしよう」などと会社が勝手に決めることはできません。仮に就業規則等で定められていても無効です。
<「割増賃金の基礎となる賃金」の例外となる手当など>
・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
上記の手当については、名目が家族手当や通勤手当となっているのみならず、実態があることが必要です。
例えば、家族手当の場合には、「扶養義務のある家族1人毎に毎月1万円支給する」という規定になっていれば割増賃金の対象とはなりません。しかし、「扶養義務のある家族がいる・いないにかかわらず、一律に毎月3万円支給する」という規定となっている場合には、その実態は給与であって家族手当とはいえません。
そのような場合には、割増賃金に関する例外は適用されず、家族手当として支払っている金額についても割増賃金を支払わなければいけませんから、注意しましょう。
まとめ
最近はサイコロ給やペットの扶養手当など個性的な手当を支給する企業が増えてきています。とてもおもしろい制度で積極的に取り入れていただきたいのですが、税や社会保険の面でどのような取り扱いをうけるのか、事前に専門家に確認することをお勧めします。