個人事業主として開業し仕事をしていくと、相手先から請求書の発行を求められることもあるかと思います。では、請求書は必ず発行しなければならないものなのでしょうか。税金にはどのような影響があるのでしょうか。ここでは、個人事業主が請求書で注意すべき点や税金との関係などを解説します。
個人事業主でも請求書の作成や保存が必要!
請求書の作成はなぜ必要?
結論からいうと、個人事業主であっても請求書の作成や保存が必要です。しかし、請求書は何かの法律で作成が義務付けられているわけではありません。昔からの商慣習により、作成している場合が多くなっています。では、なぜ請求書の作成や保存が必要なのでしょうか。ここではその理由について見ていきます。
まず、請求書とそれ以外の書類の違いを確認しましょう。請求書と同じく取引先との間で作成する書類に、契約書や見積書があります。契約書はその名のとおり、相手との契約締結時に契約内容をお互いに証明するために作成する書類です。工事などのように取引ごとに契約を結ぶ場合もあれば、これから取引をしていくことを契約するものもあります。
見積書は、仕事をする前に作成する書類です。この取引にはこれぐらいの金額がかかることを相手に知らせるために作成します。見積書の発行時点ではまだ取引の契約は行われていません。
これに対し、請求書は契約締結後に仕事の対価を請求するための書類です。仕事が完了してから発行する場合もありますが、仕事をする前の手付金や、仕事を進行している間の中間金などの請求の場合にも請求書を使います。
請求書は、契約を締結後に入金をしてもらうために発行するものです。請求書を発行することには次のメリットがあります。
①入金処理のスムーズ化
請求書には、どの仕事に対して、いくらの金額をいつまでに、どの口座に振り込むのか等入金処理をどうするかの詳細が記載されています。
そのため、請求側も請求される側も入金処理について共通の認識を持つことができ、スムーズに入金処理が進みます。
②トラブル予防
取引先とのトラブルで多いものが、仕事を終わってから、相互間での契約金額などに認識のずれが生じることです。金銭面でトラブルになると、最終的に裁判になるなど解決に多くの労力や期間がかかります。取引先とのトラブルを予防するためにも請求書を発行・保存することで、金額や仕事内容などの証拠を残しておきます。
請求書の保存期間と保存方法
今までは、仕事上で請求書の発行や保存が必要なことを見てきました。では、税金と請求書の関係はどうなっているのでしょうか。
個人事業では、日々の取引を帳簿付けし、その帳面等から確定申告書を作成します。
確定申告では、確定申告書の提出を求められていますが、その基となった帳面や書類の提出は求められていません。その代わりに、自宅や会社で保存することやその保存期間を税法で義務付けています。請求書の保存期間は青色申告・白色申告共に5年間です。
また、請求書の保存方法については、税法では特に決められていません。取引先ごとにファイルを作ってとじ込んだり、封筒などに入れて保存するのが一般的です。
請求書の記載内容と注意点
請求書には何を記載する必要があるのか
請求書は作成する必要があり、保存も必要です。請求書の書式についても法律で決まっているものはありません。取引先によってはその取引先のフォーマットで請求書を作成します。取引先のフォーマットがない場合は、市販の請求書を購入して使ったり、表計算ソフトなどで自分で作成します。
自分で作成する場合は次の事項を記載する必要があります。
①請求書番号
自社で請求書を管理するために、請求書に番号をふるのが一般的です。
②発行日
実際に請求書を作成した日ではなく、取引先の締め日を記載します。
③宛先
取引先の会社名や担当者がいる場合は担当者名も記載します。
④請求内容
どの仕事の請求なのかをはっきりするために、仕事内容を記載します。
⑤合計請求金額
請求金額を記載します。税抜金額なのか税込金額なのかや消費税の金額も記載する必要があります。
⑥振込先情報
入金してもらう銀行名や口座番号、口座名、支払期日などを記載します。
⑦発行者
発行者の名前を記載します。屋号がある場合は屋号も記載します。
請求書作成時の注意点
では、請求書作成時の注意点を見ていきましょう。
①印鑑は必要?
請求書の作成時に悩むのが、発行者名のところに印鑑を押す必要があるかどうかということです。実は、請求書に印鑑を押すかどうかは決まっていません。特に印鑑を押さなくても、請求書として通用します。しかし一般的には、印鑑を押す場合が多いです。使う印鑑は実印でなくとも構わず、通常の丸印で問題ありません。
②源泉徴収
自分(個人事業主)の仕事が、ライターや外交員などの一定の職業の場合は、請求金額から10.21%(仕事内容や請求金額により税率が変わる場合あり)の所得税及び復興特別所得税を差し引かれて入金されます。
これは、一定の職業に対する請求については、相手先が代金支払い時に源泉徴収し、支払先に代わって税務署に納める義務(源泉徴収義務)があるためです。
そのため、自分(個人事業主)の仕事が、ライターや外交員などの一定の職業の場合は、請求書に請求金額、源泉徴収の金額、差引請求金額を記載する必要があります。
例えば、請求金額が10万円の場合、源泉徴収の金額は10万円×10.21%=10,210円、差引請求金額は10万円-10,210円=89,790円となります。
対象となる職業等は、国税庁のHPを参照してください。
請求書と消費税の関係に気を付けよう
免税事業者も消費税を請求できる
個人事業主には、2年前の売上高等により消費税を納める義務のある課税事業者と納める義務のない免税事業者に分かれます。
では、免税事業者は消費税を請求できないのかというとそうではありません。消費税の免税事業者だからといって、物を購入したり、サービスを受けたりする場合には消費税の付いた代金を支払っています。そのため、売上に関しても請求するときに消費税を付けて請求することが可能です。
消費税が10%になった場合の注意点
2019年10月1日から消費税率が10%になる予定です。では、その場合に請求書にどのような注意点があるのかを見ていきましょう。
①軽減税率の導入
消費税率が10%になった場合、すべての商品が10%になるわけではありません。飲食料品や新聞など一部の商品については8%の軽減税率が導入されます。
軽減税率の対象となる商品を販売する場合、請求書にはその旨を記載する必要があります。10%と8%の商品を販売した場合には、税率ごとに請求金額を区分して記載する必要があるため、その分労力が増えることになります。
②適格請求書保存方式
消費税率が10%になった場合、2023年10月1日から始まるのが「適格請求書等保存方式」です。適格請求書等保存方式では、これまでの請求書と違い、適格請求書発行事業者の氏名や登録番号、税率ごとに合計した税抜または税込金額とその税率などが記載された適格請求書を発行することになります。個人事業主にとって、この制度には以下のような問題点があります。
1)適格請求書を発行できるのが、税務署長に申請して登録を受けた「適格請求書発行事業者」であること
2)適格請求書発行事業者になれるのは消費税の課税事業者のみであること
3)適格請求書がないと、取引先はその支払い額を消費税の経費にできないこと
つまり免税事業者への支払いは、消費税の経費にならないということです。このことで、免税事業者の個人事業主は、仕事の減少などが起こる可能性があります。
まとめ
請求書は、法律で必ず発行を義務付けられているものではありません。しかし日本の商取引においては、請求書の発行が商慣習となっており、取引先に請求書の提出を求められることも少なくありません。その場合は、記載事項をきちんと記載した請求書を作成しましょう。また、消費税率10%の増税時には請求書についていろいろな問題が出てきます。今後、法律などが改正されることが出てくるかもしれません。消費税増税についても普段から注意しておくようにしましょう。