フリーランスへの転向を少しでも考えているのであれば、フリーランスの場合にかかる税金について知っておきましょう。サラリーマン時代の年収水準を落とすことなくフリーランスとして活躍したい人向けに、フリーランスにおける年収の考え方と節税方法を解説します。
フリーランスが払う税金の種類
一般に「フリーランス」とは、会社には所属せずに自らの技能によって単独で収入を得る人々のことですが、税金の観点から見れば大抵の場合は「個人事業主」に相当します。税務上、フリーランスの人が自らの事業を通じて得た収益は「事業所得」と区分され、サラリーマンの「給与所得」とは扱いが異なります。なお、フリーランスであっても個人事業主でない場合とは、独立後に自分で法人を立ち上げた場合などに限られます。
フリーランスとして新たな事業を始める際には、税務署に「開業届」を出します。開業届の提出は所得税法に明記された義務であり、提出者には所得税の節税効果が高い青色申告の申請権が与えられます。
フリーランスに転じた際に関係してくる主な税金の種類は、以下の通りです。
所得税
所得税は、サラリーマンでもフリーランスでも、一定額以上の収入を得ている人すべてに課せられる税金です。サラリーマンの場合は毎月の給与から源泉徴収されるため、基本的に本人が手続きを行う必要はありません。しかし個人事業主として開業する人の場合、所得税の納付に際して、確定申告を自分で行わなくてはなりません。確定申告には白色申告と青色申告の2種類の方式があり、青色申告の方が複雑な帳簿を作成する必要がありますが、その代わり様々な優遇措置を受けることができます。
住民税
住民税は、日本に住む人には均等に課される税金で、市町村民税と道府県民税を合算したものを住民税と呼びます。前年の12ヶ月の所得の合計に課される所得割と、定額が一律に課される均等割の合計金額を、1月1日時点の居住地の市区町村に対して支払うことになります。
国民健康保険税(料)
国民健康保険税は、病院にかかった時などに医療費の自己負担額を低減してくれる国民健康保険の運営を目的に、世帯主が市区町村に対して納めます。自治体によって保険税または保険料という異なる呼称を用いますが、実質的には同じものです。保険料の計算方法は市区町村ごとに異なりますが、注目すべきは年齢によっても納める額が異なっているという点です。40歳以上65歳未満の人は、通常の保険料に加えて「介護分保険料」という区分の料金を支払います。なお、65歳を超えてからは、介護保険料は国保から切り離され、別個で納めることになります。
国民年金保険料
国民年金保険料は、20~60歳の40年間に毎月決められた額を納め続けると、65歳から1年あたりおよそ80万円の年金をもらうことができます。未納期間があれば少しずつ支給額が減って行きます。フリーランスになったらこのような手続きも自己責任となりますので、注意しましょう。なお、国民年金保険料は年度ごとに決められ、2018年度は月額16,340円となっています。
個人事業税
個人事業税は、サラリーマンには課されず、個人事業主のみに課される税です。70の法定業種が対象になっており、業種の区分によって税率が異なるので、自分の事業がどの区分に当てはまるのかを確認しておきましょう。
消費税
消費税は、商品・サービスの取引に関して一律8%が課せられる税金です。値段に上乗せして支払われる消費税は、事業者が一時的に預かって納税するという形を取ります。消費税の納付は全ての事業者に義務付けられているわけではなく、個人事業主の場合は、基準期間となる前々年の消費税抜きの課税売上高が1,000万円を超える者が対象となります。納付税額は原則として、売り上げにかかる消費税額から仕入等にかかる消費税額を差し引くことで求められ、1年間の消費税は翌年の3月末日までに税務署に申告と納付を行います。2019年10月には、消費税率の10%への引き上げが予定されています。
サラリーマンと比較した税金の違い
以上を整理すると、個人事業税を唯一の例外として、基本的にはサラリーマンもフリーランスも課せられる税金の種類に大きな違いはないということになります。
では、個人事業税の分だけフリーランスの方が不利になるのでしょうか。必ずしもそうとは限りません。所得税や住民税、そして個人事業税も含めて、多くの税金の税額は、年間を通じた収入金額ではなく、そこから必要経費や各種控除を差し引いた課税所得額を基に算出されるからです。サラリーマンの場合、収入額に応じて設定された給与所得控除が差し引かれます。他方のフリーランスの場合は、同様の控除がない代わりに必要経費が収入から差し引かれるため、自分のマネジメント次第で大きく節税することが可能となっています。以下では、フリーランスの税金計算の仕組みについて解説していきます。
手取りを落とさずにフリーランスに転向する方法
せっかくフリーランスになったものの、納めなくてはならない税金が増えて、手元に残るお金が大幅に減ってしまっては元も子もありません。年に大体どのくらい稼ぐことができれば、サラリーマンだった時から手取りを落とさずにフリーランスとして生活できるかを考えてみましょう。
フリーランスの事業所得計算式
前述の通り、フリーランスで得た収益は事業所得に区分されます。その計算方法は次の通りです。
このうち、総収入金額の内訳は以下の通りです。
- それぞれの事業から生じる売上額
- 金銭以外の物や権利その他の経済的利益の価額
- 商品を自家用に消費・贈与した場合のその商品の価額
- 商品などの棚卸資産について損失を受けたことにより支払を受ける保険金や損害賠償金等
- 空箱や作業くずなどの売却代金
- 仕入割引やリベート収入
また、必要経費には以下のものが含まれます。
- 売上原価
- 給与、賃金
- 地代、家賃
- 減価償却費
こうして事業所得を求めた後には、そこからさらに各種控除を差し引いた額に税率を掛けることで、税額が算出されます。そのため、必要経費をなるべく多くして事業所得を減らすことができれば税金を抑えることができるということです。
経費の活用
以上のことから、フリーランスで働く際には、どのような支出を必要経費とすることができるのかを、正確に把握しておくことが非常に重要です。国税庁の定義によれば、必要経費に含むことのできる費用は次の2つです。
- 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
- その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
これらに該当するものをすべて必要経費として処理すれば、課税の対象となる所得を減らすことができます。
年収のシミュレーション
フリーランスの個人事業主が、年間の給与所得が400万円のサラリーマンと同等以上の手取り額を得るためには、どれほどの事業所得があればいいのでしょうか。ここでは計算の簡易化のため、独身のまま東京23区に住み続けており、本業の他には収入手段を持たない40歳未満の人物を想定して考えてみましょう。なお、フリーランスの個人事業主は青色申告を行っているものとし、個人事業税率は対象となる事業が最も多い5%を適用します。
まず、この条件で年収が400万円のサラリーマンは、所得税・住民税と社会保険料が引かれると、手取りとしていくら残るかを計算しましょう。所得税・住民税から控除される社会保険料から求めていきます。
=201,960円+373,320円+12,000円
=587,280円
次に、住民税の額を求めましょう。東京都の場合、都民税と市区町村民税あわせて、均等割の合計額は5,000円で、所得割の税率は10%となっています。給与所得が400万円あるので、これに20%をかけて54万円を足した134万円が給与所得控除として引かれます。なお、所得控除額を差し引いた課税所得額は、1,000円未満の端数が切り捨てられます。
=5,000円+(400万円-33万円-134万円-587,280円)×10%-2,500円
≒176,700円
最後に、所得税額を求めます。給与所得控除は、住民税の所得割と同額になります。
=400万円-38万円-134万円-587,280円
≒1,692,000円(1,000円未満端数切り捨て)
課税所得金額に、所得税率5%をかけた額84,600円に、復興特別所得税分として2.1%を足して100円未満の端数を切り捨てると、所得税および復興特別所得税として86,300円が求められます。
以上から、年収400万円のサラリーマンの手取りは、おおよそ315万円ということになります。したがって、フリーランスの個人事業主がこれと同等以上の儲けを得るために、求めるべき計算式は以下のものとなります。
事業所得額をAとして、控除の関係から、カッコ内の後ろの項目から求めていきましょう。
国民年金保険料=16,340円×12ヶ月
国民健康保険料=基礎分+支援分
=(均等割額39,000円+(A-基礎控除33万円)×7.32%)+(均等割額12,000円+(A-基礎控除33万円)×2.22%)
住民税額=均等割額5,000円+(A-基礎控除33万円-青色申告控除65万円-国民健康保険料-国民年金保険料-個人事業税額)×10%-調整控除2,500円
所得税額=(A-基礎控除38万円-青色申告特別控除65万円-国民健康保険料-国民年金保険料-個人事業税額)×所得税率-控除額
復興特別所得税額=所得税額×2.1%
以上を、上記の不等式に代入し展開すると、次のようになります。
A≧4,261,889.0211円
したがって、事業所得がおおよそ425万円を超えれば、サラリーマンと同等以上の手取りが手元に残ると概算されます。なお、これは事業所得ですので、必要経費を差し引いた金額であることに注意してください。つまり、損得だけで考えると、もともとサラリーマンとして400万円の給与所得をもらっていた人であれば、自分の能力だけで425万円に必要経費をプラスした額以上を稼ぐ自信があるなら、フリーランスへの転向を検討する価値があるということになります。
まとめ
フリーランスになるということは、煩雑な会計業務や税務も自分で全て処理しなくてはならないことを意味します。さらに、サラリーマン時代よりも残るお金を増やすためには、単に事業の売り上げを増やすだけでなく、全体的な収支のマネジメントが求められます。覚えること、やるべきことは非常に多岐にわたりますが、ひとつひとつを着実にこなしていきましょう。