商品を安く買って高く売るという「せどり」。せどりで大きな利益を得る人も多くなってきています。個人事業主としてせどりをしている場合、次に考えるのが「法人化したほうが良いのか」ということでしょう。ここでは、せどりで利益が出ている場合の法人化のメリットと税金について詳しく解説します。
せどりのもうけの計算方法
せどりのもうけの計算方法
せどりをしている個人事業主が、法人化したほうが良いかを考えるためには、まず、せどりのもうけをどのように求めるのかを理解する必要があります。
せどりは、売上=もうけになるわけではありません。商品を安く買って高く売るのが基本になります。そこで、せどりのもうけは以下の計算式で求めます。
せどりのもうけは、売上から、販売する商品の購入費である仕入と、それ以外の諸経費を差し引いた金額になります。
所得税と法人税の計算方法
せどりのもうけの計算方法が理解できたら、次に個人事業主の場合の所得税と、法人化した場合の法人税、それぞれの計算方法を確認してみましょう。
所得税も法人税も原則、もうけに税率を乗じて税額を求めます。しかし、それぞれで税率などが異なるため、同じもうけの金額でも税金の額が違ってきます。具体例で比較してみましょう。
例)せどりの1年間の売上1,000万円、仕入600万円、諸経費100万円の場合
【所得税】
①もうけの計算
具体例の場合のもうけは、次のようになります。
個人事業主の場合で忘れてはいけないのが、青色申告特別控除額です。青色申告をしている場合は、最大65万円の青色申告特別控除をもうけから差し引くことができます。そのため青色申告をしている場合のもうけは、300万円-65万円=235万円となります。
②税率
所得税の税率は、もうけ(所得)の金額に応じて、次のように定められています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
③税金の計算
所得税の計算は、次の計算式により求めます。
具体例の場合は、もうけ(所得)の金額が235万円のため、「税率10%-控除額9万7,500円」となります。
※平成49年までは、所得税とは別に所得税額の2.1%の復興特別所得税がかかります。
【法人税】
①もうけの計算
具体例の場合のもうけは、次のようになります。
法人の場合は、個人事業主のように青色申告特別控除額はありません。そのためこの金額がそのまま、もうけの金額となります。
②税率
法人税の税率は、もうけ(所得)の金額に応じて、次のように定められています。
〈中小法人、2018.4.1以後 開始事業年度の場合〉
課税される所得金額 | 税率 |
---|---|
800万円以下の部分 | 19%(15%)※1 |
800万円超の部分 | 23.2% |
※1 2019年3月31日までの間に開始する事業年度は、15%
③税金の計算
法人税の計算は、次の計算式により求めます。
具体例の場合は、もうけ(所得)の金額が300万円のため、「税率15%」となります。
このように同じもうけでも、所得税と法人税では税金の金額が違ってくることがわかります。
※実際には、法人、個人ともに、国税だけでなく、地方税(都道府県民税、市区町村民税)も支払う必要があります。
せどりで法人化する場合のメリットとデメリット
せどりで法人化する場合のメリット
せどりを始めて事業の規模が大きくなっていくと、法人化を考えるのが一般的です。そこには、法人化するメリットがあるからです。
法人化のメリットとしては、経費にできる範囲が広いことや利益が大きいときは節税になること、対外的な信用が高いことが挙げられます。詳しく見ていきましょう。
①本人や家族の給料、社会保険料などが経費にできる
上述した税金の計算では、あくまで経費の金額が同じとして所得税と法人税を計算しました。しかし、実際は、個人事業主に比べて法人の方が経費の範囲が広いです。個人で経費にできずに、法人で経費にできるものには、例えば次のようなものがあります。
- 本人(代表者)や家族への給料
- 本人の社会保険料や生命保険料
個人事業主の場合、本人(代表者)への給料は経費にできません。また、家族への給料についても、青色申告専従者として認められた場合を除いては、経費にできません。
一方、法人の場合は代表者やその家族の給料や社会保険料は経費にすることができます。そのため法人は、経費の範囲が広いといえます。
②利益が出れば、法人のほうが節税になる
先に確認した通り、所得税と法人税では税率が異なります。法人税は、ある程度一定(もうけが800万円を超えた部分は、いくら超えても23.2%)の税率ですが、所得税の場合はもうけ(所得)が出れば出るほど、税率が高く(最高45%)なります。そのため、せどりで利益が大きくなった場合は、法人のほうが税金が安くなる傾向があります。
③対外的な信用
法人と個人でどちらが対外的な信用があるかというと、断然法人の方です。法人には資本金があるからです。つまり、それだけのお金を調達する能力があるということを示しています。今後、事業拡大などで、金融機関から融資を受けることを考えている場合は、法人の方が有利となります。
せどりで法人化する場合のデメリット
次にせどりで法人化する場合のデメリットを見ていきましょう。法人化する場合のデメリットは、法人化にお金がかかることと、利益が小さい場合は個人の方が税金が低いということです。
①法人化にお金がかかる
法人化するためには、法務局で設立登記を行うなど多くの支出を伴います。一般的には20万円~30万円程度かかる場合が多くなっています。
②利益が小さい場合は個人の方が節税になる
メリットのところで、利益が大きい場合は、法人のほうが税金が安いということを説明しましたが、逆に、利益が小さい場合は個人の方が節税になります。
これは、法人税はもうけが800万円以下の場合、19%(15%)と税率が一定なのに対し、所得税は、最低5%の税率で済むためです。
せどりで法人化するための流れ
せどりで法人化するためのおおまかな流れ
法人化には多くのメリットがあります。法人化を希望する場合に気になるのが、どのように法人を設立すれば良いかということでしょう。法人設立のおおまかな流れは次のようになります。
- ① 定款の作成と公証人役場での認証(株式会社の場合)
- ② 出資金の払い込み
- ③ 設立登記(法務局)
- ④ 所轄税務署や都道府県の県税事務所、市区町村役場への設立届の提出
定款は法人の名前や目的、取締役に関する事項などのルールを定めたものです。簡単にいうと、定款により会社のルールを定めて資本金を出資し、設立の事実を法務局で登記して、公に法人として認められます。法務局で、法人として認められたら、その事実を税務署などに届け出ることになります。
せどりで法人化するための注意点
せどりで法人化する場合に注意しなければならないことは、ずばり古物商許可の取得です。個人でせどりを行っている場合は、古物商許可を取得していない場合があるかもしれませんが、法人の場合は原則、古物商許可が必要です(本来は個人事業であっても必要)。これはインターネットオークションでも同じです。
古物商許可は警察署などに申請を行いますが、古物商許可申請書や住民票、URL使用権限を証明する資料など多くの書類が必要となり、申請手続きは少し複雑です。そのため、法人化する場合は、あらかじめ税理士や行政書士などの専門家に相談した方がよいでしょう。
まとめ
せどりでもうけが大きくなってきた場合や事業を大きくしようと考えている場合は、法人化をした方が良いです。それは法人化することで節税に繋がったり、対外的な信用を得られるなど、多くのメリットがあるためです。しかし、法人化には費用がかかったり、古物商許可が必要であったりと、手間や労力もかかります。せどりで法人化を考えている場合は、あらかじめ税理士などの専門家に相談するようにしましょう。