2019年の消費税増税が目前に迫ってきました。消費税増税に関しては、中小企業や小規模事業者等のために軽減税率対策補助金が用意されています。この8月、本制度の申請について中小企業庁から注意喚起が行なわれました。制度利用にあたっては、制度内容ともに今回の注意喚起についても十分理解しておく必要があります。
軽減税率対策補助金とは
概要
軽減税率対策補助金は正式には「中小企業・小規模事業者等消費税軽減税率対策補助金」という名称で、本稿では以下、補助金と呼びます。中小企業庁が支給するこの補助金により、消費税増税に伴って実施が予定されている軽減税率制度に対処する中小企業や小規模事業者向けに、対応レジや受発注システムの導入・調整に際して、その経費の一部が補填されます。
軽減税率制度とは、2019年10月1日より消費税が10%に引き上げられることから、生活必需品の高騰に耐えられない低所得者を考慮して、飲食料品やテイクアウト・宅配品などの商品については消費税を8%に据え置くというもので、これにより2種類の消費税率が併存するようになります。対象商品を扱う事業者などは対応を迫られることになりますので、システム移行を円滑に進めるための支援措置として、中小企業庁は補助金の利用を広く呼びかけています。
補助金の種類には大きくA型とB型の2種類があり、後述のようにいずれの受給にも同意事項を確認した上での申請が必要となります。
- A型
A型はレジの導入・改修が補助対象となり、4種類に分けられます。A‐1型の対象は複数税率対応でありPOS機能の無いレジの導入費用、A‐2型は複数税率非対応レジの対応レジへの改修費用、A‐3型は複数税率対応可能なレジ機能を備えたPC・スマートフォン等や付属機器を用いた電子デバイスのレジとしての導入費用、A‐4型はPOS機能のあるレジの対応レジへの改修・導入費用です。 - B型
B型は受発注システムの改修・入替が補助対象となり、2種類に分けられます。B-1型の対象はシステムの改修・入替の委託費用について発注・実施した指定事業者による代理申請を通したもの、B-2型は導入するサービス、パッケージ製品の購入費用です。
同意事項の内容
同意事項は全12項からなります。申請者は虚偽や補助の対象外の事柄を申し立てないこと、軽減税率対策補助金事務局(以下、事務局)による事業の変更の公表時は即時承認したとみなされること、個人情報の適切な保護を図ること等が取り決められています。特に気を付けるべき内容としては、次の2点があります。
- 補助の対象となる事業の完了後に申請に偽りがあることが判明した場合、民事・刑事上の法的責任が生じ、かつ補助金の返還を求められる可能性がある
- 現地調査(電話での問合せ、追加書類の提出、調査員の立ち入り等)への協力が必要になる場合があり、その際、事務局の認可無く協力が得られないならば、補助金とその年利95%の割合の加算金を合算した分の納付を求めることがある
活用のメリット
- 節約できる
軽減税率対策を講じるのは費用がかかり、特にそれは中小規模の企業にとって重い負担となりえます。しかしこの制度を利用すれば、半分程度かそれ以下のコストでの対応が可能になります。 - 新しい機器を導入できる
軽減税率対策補助金を機に、本来ならば手が届かなかったであろう高額かつ高性能な機器やシステムなどを新たに導入することも可能になります。
活用の事例
- それまでのシステムに代わり、軽減税率対策補助金で指定された新型POSシステムを新たに導入する
- 刷新の遅れていたシステム等を、軽減税率対策補助金を使うことで、クラウド等を利用したハイスペックな型に改修する
中小企業庁からの注意喚起
概要
中小企業庁は2018年8月13日付けで「軽減税率対策補助金の申請等に当たっての注意喚起」という文書を公表しました。その趣旨は、虚偽または対象外の申請案件が頻出して事業の運営に支障を来しているため、そのような行為を控えるよう呼びかけるとともに、現地調査を実行中であり、不正な案件は承認しないことを改めて通知するものでした。文書中には悪質な申請の例が取り上げられており、以下でもいくつか触れます。
補助金の目的
そもそも補助金は、軽減税率に対処する際の事業者側の負担を軽減するための援助であって、当然ながら不適当な公金の交付を想定したものではありません。対応レジと対応システムを対象とするのは、軽減税率の導入に伴い、仕入税額控除の処理や商品の値付け、売上げ計算等に新たな手間が生じるために、その過程で使用するこれらの機器を事業者側で調整する必要があるからです。中小企業庁の運営が滞らないためにも、適切な申請を行うことが求められます。
不適切とされる申請の事例
- 理美容院、エステ、クリーニング店や楽器店などで、米、水、チョコレートなどの飲食料品を仕入れた証拠書類を提出して補助金を申請したが、現地調査の結果、軽減税率対象商品の販売をしていないことが判明した。
- 飲食店で、メニューの一部の持ち帰り(軽減税率対象商品)が出来るという掲示の証拠写真を添付して補助金の申請をしたが、現地調査の結果、申請後にはその掲示が外されており、持ち帰りも受け付けていないという実態が明らかになった。
- 軽減税率の対応レジとして使用するため申請したレジ(はかりレジ)が、実際にはレジとして使用されず、計量やラベル印刷のみの機能で使われていた。
- 事業者が軽減税率対象商品を販売していないにもかかわらず、販売店等から「飲食料品を販売すれば補助金がもらえる」として、レジ等を売りつけられるケースがあった。
申請の方法とポイント
補助金の申請は、基本として申請書類数枚と、領収書の明細など証明となる書類を事務局まで郵送して行います。
ポイントの解説
申請上わかりづらい点について解説していきます。大別して「A型とB型の相違点」と「A型・B‐2型とB‐1型の相違点」がある他、型毎に指定・条件・限度額等が異なるため、申請に際しての詳細は事務局ウェブサイトを必ず確認して下さい。
- A型とB‐2型は事後申請を1度行うだけですが、B‐1型のみは購入等に先立つ事前申請1度と、事後の完了報告1度の計2度の申請が必要です。
- A型とB‐2型は自己申請ですが(A‐4型は代理申請か共同申請を選択)、B‐1型は業務を委託された業者が代理で申請をすべて行います。
- リース契約はA型B型共に可能ですが、公表されている指定業者のリストから選択する必要があります。リース契約に関する詳細は下記も参照して下さい。
- 代理申請はA型でも可能ですが、公表されている指定代理店のリストから選択する必要があります。
- 交付は1円単位、小数点以下の端数切り捨てです。
補助対象期間
レジやシステムの対応を開始してから終了して支払いを完了するまでの期間が、2016年3月29日~2019年9月30日の内であることが必要です。リース契約の場合は、リース契約日とリース開始日の双方がこの期間内でなくてはなりません。なお、交付決定前に導入に着手してしまうと補助金は受けられません。
補助金交付申請受付期間
- A型、B‐2型
申請書類の提出は、2016年4月1日~2019年12月16日の受付期間内に行わなければなりません(消印有効)。 - B‐1型
申請書類の提出は、2016年4月1日~2019年6月28日の受付期間内に行わなければなりません(消印有効)。その際、補助期間内に作業が完了することを予測した上で提出することになります。事業が予定の実施期間から2週間を超えて遅延すると見込まれる場合は、事業遅延承認申請を提出します。
リース契約の有無について
- 注意点
リース契約の場合、補助金はリース企業に交付され、リース額を減額することで導入企業に還元されます。この際、リース企業は申請共同者となり、事務局への補助金申請はリース企業側が負担します。 - 補助対象期間
リース契約の有無にかかわらず同一です。ただし、先述のようにリース契約の場合は、リース契約日とリース開始日の双方がこの期間内であることとなります。 - 補助金交付受付申請期間
リース契約の有無にかかわらず同一です。ただしリース契約の場合は、リース契約の開始日以降に申請します。
不適切な申請をした場合
不適切な申請や不正が疑われる申請に対しては、以下のような措置が取られる場合があります。
申請の不受理
同意事項や交付規程に従わない場合、申請の受理が取り消され、以後も当該事業者の申請は受け付けられなくなります。また、場合によっては法的責任が生じます。
補助金の返還
規程違反、虚偽申請などの不正、交付決定の内容や目的に反した補助金の利用などを理由に取消しを受けた際に、既に補助金を受給している場合はその返還を求められます。この時も、年10.95%の割合で加算金が生じます。
注意事項
上記において、事務局が指定する期限までに返還金と加算金を納付しなかった場合は、未納額について更に年10.95%の延滞金が生じます。つまり最大で返還金、加算金、延滞金の3種類を納付する可能性があります。
まとめ
有り難い一方、複雑な軽減税率対策補助金制度ですが、メリットが多く、ほぼ損が無いことは事実です。対象となる事業者の方でまだ利用していない方がいらっしゃれば、補助対象期間のうちに一度検討してみると良いでしょう。