平成30年度の税制改正で、コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)が創設されました。IoT投資を促進することを目的とした制度であり、特別償却や税額控除があります。ここではIoT税制の内容と活用例について解説します。
コネクテッド・インダストリーズ税制とは
近年、情報技術の分野におけるビッグデータやAIなどの急速なイノベーションにより暮らしが変化し、国家の産業構造や国際的な競争力に多大な影響を及ぼしています。その一方で、国内では少子高齢化が進行し、働き手である労働人口が減少しています。生産性や収益性を高めることによって競争力の維持・発展を図ることは、喫緊の課題となっています。そんな中、政府は生産性向上特別措置法を制定し、国家産業の生産性を飛躍的に高める「生産性革命」を世界に先駆けて実現することを目指しています。
その柱の1つとして創設されたのが、コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)です。これは、サイバーセキュリティ対策が講じられているデータ連携・利活用によって生産性を向上させる取組に対して、それに必要となるシステムや、センサー・ロボットなどの導入を支援するという税制措置です。IoT税制より、認定を受けた事業計画に供するソフトウェアや、それに付随する器具や装置等への設備投資について、30%の特別償却または3%の税額控除を受けることができます。この税制措置の適用期限は、平成32年度末までとなっています。
適用のために
必要要件
対象となる事業者は青色申告事業者で、業種や資本規模に関する制限はありません。ただし、申請が可能となるのは設備投資の合計額が5,000万円以上の場合で、さらに以下の要件を満たす必要があります。
- データ連携・利活用の内容
1.社外データやこれまでに取得したことのないデータを社内データと連携
2. 企業の競争力における重要データをグループ企業間や事業所間で連携 - セキュリティ面
必要なセキュリティ対策が講じられていることをセキュリティの専門家が担保 - 生産性向上目標
投資年度から一定期間において、以下のいずれも達成見込みがあること
1. 労働生産性:年平均伸率2%以上
2. 投資利益率:年平均15%以上
手続き概要
制度利用を考えている事業者は、まず事業計画案として「革新的データ産業活用計画の認定申請書」を策定します。その際、外部や内部のセキュリティの専門家に依頼や相談を行い、セキュリティ面での要件を満たしているかどうかの確認を受け、署名をもらう必要があります。その上で経済産業大臣、総務大臣、事業所管大臣宛に、経済産業局あるいは総合通信局を通して申請を行い、計画の認定を受けます。その後、計画を開始して取組を実行し、事業所の地域を管轄する税務署に対して税務申告を実施します。なお、制度の利用後は、事業計画の履行状況を経済産業局や総合通信局に対して定期的に報告することが義務付けられます。
注意点
IoT税制の利用にあたっては、いくつかの点に注意が必要です。データ連携・利活用の内容の要件についてはすでに触れましたが、事業計画の中で実施が予定されているデータの収集および活用は、以下の3類型のうち1つ以上を含むものでなくてはなりません。
- 他の法人もしくは個人が収集もしくは保有するデータを、既存の内部データと合わせて連携し、利活用すること
- 自らセンサーを利用して新たに取得するデータを、既存の内部データと合わせて連携し、利活用すること
- 同一の企業グループに属する異なる法人間、または同一の法人の異なる事業所間において、漏えいや毀損をした場合に競争上不利益が生ずるおそれのあるデータを、外部ネットワークを通じて連携し、利活用すること
また、これほど大規模な設備投資であれば、セキュリティ面に関して専門家へ依頼するなど外部との折衝が必要となるほか、企業の内部でも複数の部署が関わることになります。そのため、事業計画案の策定に際しては、制度の要件を正確に理解した上で、関係各所の間での入念な打ち合わせが求められます。
中小企業におけるIoTの活用
中小企業の間では人手不足がとりわけ深刻化しており、経営者の高齢化という問題とも相まって、廃業を選択せざるをえない企業が後を絶ちません。厳しい人手不足の中で収益性と生産性を上げるため、IoT投資は中小企業においてこそ有効な打開策だと言えます。その意味で次のIoT活用の事例は、非常に示唆に富むものとなっています。
廃棄物リサイクル業におけるIoTの導入
産業廃棄物処理の過程における選別作業は、手作業で行うと危険も大きく、経験豊富な従業員のみが行えるものでした。埼玉県のシタラ興産はこの工程にAI やロボットを導入し、コンベアを流れる廃棄物のデータを分析してロボットハンドが自動で危険物を種類ごとに分別して取り除くシステムを構築しました。これにより、労災が発生する可能性を限りなく縮減すると同時に、人員数を約55%削減、処理量を約6倍増加させて、12.7倍もの労働生産性向上を達成しました。
認定された計画
以下では、IoT税制の利用例として、すでに認定を受けた事業計画をいくつか紹介します。
- 株式会社ジェーシービー
平成30年7月13日に認定を受けました。カード会員のネット上での行動データを蓄積することで、メール等の情報発信対象者を選定し、自動的に情報を発信していくシステムを導入します。顧客の嗜好に適合したマーケティング展開の自動化による収益向上が期待されます。 - 株式会社アルファパーチェス
平成30年7月19日に認定を受けました。一般消費者向け取引とは異なるBtoBビジネスの間接材・サービスの取引において、顧客側と供給側の双方のデータを蓄積することで、どちらにとってもより有意義な取引機会を提供します。これにより、企業向け間接材・サービス市場の活性化及び効率化を目指します。 - 株式会社日伝
平成30年7月27日に認定を受けました。納品書データや注文データを蓄積・分析する新基幹システムを導入することにより、業務の効率化と営業支援の強化を図ります。
まとめ
労働力不足と人件費高騰という厳しい状況下で、IoTの導入は企業の生産性を上げる有効な手立てです。IoT税制はこの動きをサポートするための制度ですが、最低投資額が5,000万円と、制度の利用にはなおも大きな決断が必要です。そのため、綿密な現状の分析と入念な計画の策定が肝心であると言えるでしょう。