個人事業では、必ず毎年、黒字が続くかというと必ずしもそうではありません。中には赤字になる年もあるでしょう。では、個人事業が黒字の時と赤字の時では、確定申告の方法は同じなのでしょうか。実は、個人事業で赤字が出た場合は、確定申告などの処理方法が異なります。ここでは、赤字が出た場合の処理方法を解説します。
所得には赤字が出るものと出ないものがある
赤字が出る所得と出ない所得
日本では、個人が1年間に得たもうけに対して、所得税を課しています。しかし、個人にはサラリーマンもいれば、お店を経営している人、所有している不動産や株式を売却して利益を得た人がいるなど、その収入の種類はさまざまです。そこで、所得税では収入の種類によって給与所得や事業所得、譲渡所得など10の所得に区分して所得金額などを計算することとなっています。
実は、この所得の中には、赤字が出る所得と出ない所得があります。例えば、給与所得などは、仕事の対価として給料をもらっているため、赤字が出ることはありません。まずは、自分の所得がそもそも赤字が出るものなのかどうかを判断する必要があります。赤字が出る所得は、原則、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つに限られます。それぞれの所得の内容を見ていきましょう。
①不動産所得
不動産所得とは、不動産の貸付による所得のことです。例えば、アパートや駐車場などを賃貸して収入を得た場合は、そのもうけは不動産所得となります。事業としての不動産の販売については不動産所得にならず、事業所得となるので注意が必要です。
②事業所得
事業所得とは、事業から生じる所得のことです。具体的には、建設業や製造業、卸売業や小売業などが該当します。通常、個人事業主といえば、不動産所得や事業所得がある人のことをいいます。
③山林所得
山林所得とは、山林の伐採または譲渡による所得のことです。山林を取得して5年超経過している場合に該当します、5年以内に伐採または譲渡により生じた所得は、事業所得や雑所得になります。
④譲渡所得
譲渡所得とは資産を譲渡したことにより生ずる所得のことです。具体的には土地や建物、宝石、貴重品、骨董品などの譲渡をいいます。譲渡所得は、さらに土地や建物等を譲渡した場合の分離課税方式によるものと、宝石、貴重品、骨董品などを譲渡した場合の総合課税方式によるものに分かれます。このうち、赤字が出る譲渡所得とは、総合譲渡所得となります。
所得金額は原則、「収入-経費」で計算します。収入より経費の金額が大きい場合は赤字となります。雑多な収入である雑所得の金額も収入-経費で計算しますが、雑所得では、収入より経費の金額が大きい場合は赤字とならず、所得金額0円として計算します。
税金の計算で必要な損益通算とは
個人事業主が事業を行い、赤字が出た場合は支払う税金はありません。では、事業以外に他の所得がある場合はどうなるのでしょうか。実は、事業所得などの赤字と他の所得の黒字がある場合には、それを相殺して税金を計算します。これを損益通算と呼びます。
例えば、事業の所得が10万円の赤字、その他に給与所得が50万円ある場合は、相殺した40万円に税金がかかることになります。3つ以上の所得がある場合には、事業所得などの赤字を他のどの所得の黒字と相殺するか、順番が決まっています。相殺する順番は少し複雑なため、3つ以上の所得がある場合には、税理士などの専門家に相談しましょう。
事業で赤字が出た場合の処理方法
事業で赤字が出た場合の処理手順
事業で赤字が出た場合で、他の所得の黒字がある場合には、損益通算を行います。では、損益通算してもなお、赤字が残る場合や、そもそも他の所得がない場合はどうなるのでしょうか。その場合は、青色申告をしていることを条件に、翌年以降3年間赤字を繰り越すことが可能です。事業で赤字が出た場合の処理手順は次のようになります。
①事業所得の金額を計算する
②他の所得がある場合は、他の所得金額を計算する
③①と②の損益通算を行う
④確定申告書 第四表を作成する
翌年以降に赤字を繰り越す場合には、必ず第四表(一)と(二)を提出する必要があります。赤字が出た年は、第四表(二)の72番「青色申告者の損失の金額」欄に赤字の金額を記載します。例えば、繰り越す赤字が100万円の場合は、100万円と記載します。第四表(一)には記載する必要はありません。
この場合、税務署に提出する書類は、確定申告書第一表、第二表、第四表(一)(二)です。申告書のそれぞれの表は以下からダウンロードできます。
http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/h29/shinkokusyo_b.pdf
第四表(一)(二)
http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/h28/04.pdf
赤字が出た年の翌年の処理方法
では、事業で赤字が出た年の翌年の処理方法について見ていきましょう。
繰り越した赤字は、翌年の黒字と相殺します。ただし、翌年の黒字と相殺してもまだ赤字が残る場合と、翌年の黒字で繰り越した赤字がなくなる場合で処理方法が異なります。
それぞれについて見ていきましょう。
①翌年の黒字と相殺してもまだ赤字が残る場合
この場合は、確定申告書第一表、第二表のほかに、第四表(一)(二)が必要です。
例)前年から繰り越した赤字100万円、事業の黒字70万円、さらに30万円の赤字を翌年に繰り越す場合
- 第四表(一)の59番、71番に今年の黒字の金額70万円を記載します。
- 第四表(二)「4 繰越損失を差し引く計算」にある年分の項目「C前年ー純損失ー青色の場合ー山林以外の所得の損失」の「A前年分までに引ききれなかった損失額」に100万円、「B本年分で差し引く損失額」に70万円、「C翌年分以降に繰り越して差し引かれる損失額」に30万円を記載します。
②翌年の黒字で繰り越した赤字がなくなる場合
この場合は、確定申告書第一表、第二表のみ必要です。第四表は必要ありません。
例)前年から繰り越した赤字100万円、事業の黒字120万円の場合
第一表54番「本年分で差し引く繰越損失額」に、前年から繰り越した赤字100万円を記載します。
また、第一表1番「所得金額」の「営業等」には、今年の黒字120万円を、9番の「合計」には、事業の黒字120万円と繰り越した赤字100万円を相殺した後の黒字である「20万円」を記載します。
事業以外の所得で赤字が出た場合の処理はどうなる?
上場株式の売買で赤字が出た場合
赤字が出る所得は、事業や不動産など限られた所得のみでした。しかし、それ以外にも例外的に赤字が出るものがあります。その1つが上場株式の売買による赤字です。
上場株式の売買による赤字がある場合は、他の所得と損益通算することはできませんが、上場株式の配当所得とのみ相殺することが可能です。上場株式の売買による赤字と上場株式の配当所得を相殺して、さらに赤字が残る場合は、翌年以降3年間繰り越し、翌年以降の上場株式の売買による黒字や上場株式の配当所得と相殺することができます。
上場株式の売買による赤字を翌年以降に繰り越すためには、確定申告書付表の提出が必要など、一定の条件があります。
マイホームの売却で赤字が出た場合
例外的に赤字が出るものに、マイホームの売却があります。通常の土地や建物の売却による赤字は、なかったものとして取り扱われますが、マイホームについては、生活に密接するもののため、その赤字を事業所得など他の所得の黒字と損益通算することが可能です。
また、損益通算しても赤字が残る場合には、翌年以降3年間、赤字を繰り越すことが可能です。
住宅ローンが残っている場合や、マイホームの買い替えがある場合など状況によって、マイホームの売却で赤字が出た場合の処理や提出書類などが異なります。書類を集める必要がある場合もあるので、マイホームの売却で赤字が出た場合は、できるだけ早く税理士などの専門家に相談しましょう。
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まとめ
個人事業主で赤字が出た場合には、黒字の場合と処理方法が異なります。損益通算を行ったり、第四表を作成したりする必要があるなど、処理が複雑です。しかし、きちんと処理を行えば、赤字を繰り越して翌年の黒字と相殺できるなど、節税につながります。納める税金を安くするためにも、事業所得で赤字が出た場合は、正しい処理を行いましょう。