非常勤講師は個人事業主? 所得分類ごとの税金と節税対策について解説 | MONEYIZM
 

非常勤講師は個人事業主?
所得分類ごとの税金と節税対策について解説

雇用契約以外の非常勤講師なら税金の計算方法は個人事業主と同じです。しかし、事業所得または雑所得によって節税対策の幅が違ってきます。しかも、そもそも雇用契約かどうかは勤務先との契約書の内容と税務当局の見解は必ずしも一致しない場合があります。そこで、非常勤講師の所得分類と節税対策について解説します。

非常勤講師の税金の概要

非常勤講師といっても、置かれている立場により税金の計算方法が異なります。そこで、立場ごとの税金について解説します。

パターン別の税金の計算方法

非常勤講師は勤務先との契約形態によって計算方法のパターンが分類されます。

(1)雇用契約の場合

サラリーマンと同じように給与所得に該当します。そのため、次のいずれかの方法により税金の計算をします。

  • 年末調整により年間所得税を勤務先で計算してもらう
  • 勤務先からの源泉徴収票をもとに自分で確定申告をする
(2)雇用契約以外の場合

事業所得または雑所得に該当し、自分で確定申告をします。個人事業主なら事業所得、副業なら雑所得になるのが一般的です。

実際、非常勤講師は何所得?

非常勤講師は該当する所得が分かりづらいのが特徴です。昭和48年10月8日の国税不服審判所の裁決でも「大学教授が他大学から受ける非常勤講師報酬は雑所得ではなく給与所得である」という事例があります。

 

このように非常勤講師は、勤務先の契約形態が雇用契約以外の形式を採っても、実際は雇用契約と認定されるケースがあります。

http://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0204010000.html

非常勤講師の所得分類

前述の国税不服審判所の裁決が示すように、所得分類の境界線はあいまいなのが特徴です。そこで、所得分類の分岐点について説明します。

事業所得と雑所得の分岐点

雇用契約以外の場合における事業所得と雑所得の分岐点は次の基準を総合したものになります。

(1)自己の危険と計算において独立して行う業務か

自己の危険とは、事業収入で生計を立てているなど事業に対するリスクを背負っているかどうかを意味します。一方、独立とは自分の裁量で業務を行っていることを意味します。非常勤講師なら雇用されず、自ら勤務先までの交通費など経費を負担し、労力を費やす業務かどうかで決まってきます。たとえば、雇用契約以外の非常勤講師の業務がメインなら事業所得、雇用契約の業務がメインなら雑所得になる可能性が高くなります。

(2)営利性と有償性を有しているか

営利性とはもうけの追求、有償性とは実際にお金などの対価を得ているかどうかを意味します。そのため、実際に報酬を得て、所得を獲得している非常勤講師はこの基準に該当します。

(3)反復継続して遂行されて営まれているか

反復継続とは、業務が継続的に行われていることを意味します。たとえば、非常勤講師の仕事を大学のように年間を通じて授業を実施している場合はこの基準に該当します。一方、講義が単発の場合は反復継続しているとは認められないでしょう。

(4)社会的地位が客観的に認められているか

周囲から「大学講師など非常勤講師の仕事をしている」と認知されていればこの基準に該当します。一方、たとえば給与収入で生活ができる場合は、非常勤講師として社会的地位を得ていると認められない可能性が高くなります。

事業所得・雑所得と給与所得の分岐点

勤務先との契約形態が雇用契約かどうかにより、「事業所得・雑所得」と「給与所得」に分類されます。具体的には以下の基準をもとに総合的に判断し、基準を満たすほど給与所得になる可能性が高くなります。

(1)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか

非常勤講師など別の人と交代できるかどうかで判断します。たとえば、国語の塾講師が欠席した場合、代わりに教える人がいればこの基準に該当します。

(2)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか

サラリーマンのように会社(上司)から勤務時間や仕事の進め方などの指示を受けていれば、この基準に該当します。前述の国税不服審判所の裁決を例にすると、「大学の定めたカリキュラムに従い、特定の学科を担当し、一定期間継続して労務を提供する」の場合が当てはまります。一方、講義の日程だけが定められ、教える内容について自分の裁量が認められる場合はこの基準から外れる可能性が高くなります。

(3)仕事が未完了でも、個人が権利として途中まで完了した仕事に対する報酬の請求ができるかどうか

非常勤講師の場合、たとえ講義を一回休んでも年俸制により報酬が保証されていれば、この基準に該当します。一方、たとえば1講義ごとの報酬体系なら未完了の仕事にたいして報酬の請求はできず、この基準から外れる可能性が高くなります。

(4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか

サラリーマンのようにパソコンからプロジェクターまで会社が用意する場合はこの基準に該当します。一方、セミナー講師がパソコンやPowerPoint代などを自己負担していれば、この基準から外れる可能性が高くなります。

事業所得・雑所得の節税対策

事業所得と雑所得は自分の裁量で節税がしやすく、工夫する余地があります。それぞれの所得の節税対策について見ていきましょう。

必要経費を計上する

事業所得と雑所得に共通する節税対策であり、必要経費に計上すれば所得金額の圧縮が図れます。具体的には、事業関連費用の項目を拾い出すのがポイントになります。会場へ移動する交通費や教える分野の書籍代など非常勤講師の業務に対する直接費用はもちろん、自宅家賃自家用車などプライベートとの共通費用の一部も必要経費に計上することができます。たとえば、年間120万円の自宅家賃で事業割合(全体のうち仕事用に使用した割合)が30%の場合、「自宅家賃120万円×事業割合30%=36万円」の計上が可能です。

事業所得は青色申告の特典を利用する

事業所得はたとえ同額の支出でも雑所得より多く必要経費に計上することができます。それが青色申告の特典であり、おもな項目は次の通りです。

(1)青色申告特別控除

事業所得に該当する非常勤講師なら原則65万円の所得控除が認められます。ただし、確定申告の期限までに間に合わなかったり、帳簿の不備があったりする場合、青色申告特別控除額は10万円に減額されてしまいます。

(2)少額減価償却資産の特例

パソコンなど備品の購入費用を必要経費に一括計上できるのは10万円未満ですが、青色申告の場合は一括計上の範囲が30万円未満までに拡充されます。

給与所得者の節税対策

給与所得者の非常勤講師は収入金額によって給与所得控除という経費の額が自動的に決まるため、節税対策が難しいというのが一般的です。しかし、特定支出控除を利用すれば、給与所得者でも経費に計上することは可能です。

経費に計上できる特定支出控除とは

特定支出控除とは、実際に負担した費用の一部を給与所得控除に上乗せ計上できる制度であり、負担した費用のうち給与所得控除額の2分の1を超える部分が経費として認められます。

また、特定支出の範囲は非常勤講師の業務に関係する費用であり、次の2つに区分されます。

(1)無制限に計上できる項目

通勤費、転居費、研修費、資格取得費、単身赴任者などの帰宅費用

(2)65万円まで計上できる項目

図書費、衣服費、交際費や贈答費用など

ただし、負担した費用が給与所得控除額の2分の1以下なら特定支出控除は認められません。

特定支出控除が認められるための手続

特定支出控除として認められるためには、証明書を交付してもらう必要があり、費目ごとに区分されます。

  • 給与等の支払者(勤務先)の証明書:通勤費、転居費、研修費、資格取得費、図書費、衣服費、交際費や贈答費用など
  • 交通機関や自動車運送業者などの事業者:単身赴任者などの帰宅費用

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まとめ

非常勤講師は所得分類によって税金の計算に影響します。しかも、契約形態は契約書の形式と税務当局の見解が異なる場合があります。この記事を参考にして、勤務先の契約形態や勤務実態から自分に該当する所得を把握しましょう。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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