フリーランスとしてひとりで独立して働き始めるにあたって、必須とされる手続きは特にありません。しかし、所定の開業の手続きをして個人事業種になっておくと、しない場合には得られないメリットがあります。ここでは、税務署に開業届を提出し、個人事業主として登録する場合のメリットを紹介します。
フリーランスと個人事業主
そもそもフリーランスとは、会社や団体と雇用関係を結ぶことなくどこにも属しないまま、案件ごとに受注するという働き方の形態を指す言葉です。ひとりで独立して働く人ならば誰でもフリーランスと見なすことができるため、フリーランスを名乗るのに所定の手続きは要りません。
フリーランスとして働くにあたって法人を立ち上げるケースもありますが、そうでない場合は個人で事業を営むということになり、自分で税金計算などを行って確定申告をします。このような人は税務署へ開業届を提出することで、税法上に定められている個人事業主という区分に該当する事業者として登録することができます。とはいえ開業届を出さずとも確定申告はできるので、フリーランスとして働くために必ずしも開業届を提出して個人事業主になる必要があるわけではありません。
個人事業主になる方がオトク?
上述のように、フリーランスとして働くためには必ずしも個人事業主である必要はありませんが、個人事業主になることで得られる恩恵がいくつか存在します。
青色申告ができる
確定申告は申告の種類によりできることが異なります。通常の白色申告と比べ、青色申告を申請した場合にはさまざまな特典が得られます。例えば、個人事業主であるかどうかにかかわらず、いかに所得税額を抑えられるかというのは常に働く人の悩みの種ですが、青色申告の場合、規定の条件下であれば65万円を所得から控除することができ、大きな節税効果を得ることができます。
社会的信用をより得やすい
個人事業主となれば屋号を名乗ることができるため、個人名のみの場合よりも信用を得やすくなります。しかしながら、フリーランスにせよ個人事業主にせよ、社会的信用という点では、企業の後ろ盾がある会社員と比べればどうしても不利にならざるを得ません。自らの能力で稼ぐことを選ぶならば、長い時間をかけて信用を築いていくことを覚悟する必要があるでしょう。
家族への給料を経費にできる
個人事業主は家族を被雇用者として扱い給与を支払う形にすることで、利益から給与分を差し引くことができ、節税に繋がります。なお、青色申告であれば常識の範囲内の給与全額を経費とすることができますが、白色申告の場合は控除の上限額が設定されています。
赤字を繰越せる
事業がもし年間を通じて赤字となれば税金は発生しないので、その年の確定申告を行う必要はありません。この場合、青色申告の確定申告を行えば、その損失分を3年の間繰越し、翌年以降の黒字分の利益と相殺することが可能です。つまり、本来なら生じた黒字を過去の赤字で打消すことによって利益の出ていない状況とし、課税の対象となる所得額を減らすことができます。
屋号で銀行口座が持てる
個人名義の口座を使用する場合、私的な収入・支出と事業での収入・支出を混同してしまう可能性が高まります。また、振込先が個人名義であると顧客からの信頼を得にくいということも考えられます。しかし、屋号を取得し公的な名義の口座を開設すれば、お金の流れが混ざることもなく、信頼性も向上します。
個人事業主になるには
個人事業主になるための手続き
個人事業主となるには、確定申告と開業届の2つの書類を提出します。この際に、屋号、職業、事業内容などを決定します。なお、確定申告は利益が38万円以下の場合は提出する必要はありません。また、開業届は提出せずとも罰金などが生じるわけではありませんが、原則提出するよう規定されています。
必要書類
開業届
税務署長に自らが開業したことを届出るための書類で、正式には「個人事業の開業届出・廃業届出」という名称です。手数料はなく、原則開業から1ヵ月以内に提出します。
確定申告
毎年2月16日から3月15日までの間に、前年の所得額と、それに課税される所得税の額を決定するために税務署へ提出する書類です。すでに何度も言及しているように、確定申告には青色申告と白色申告とがあり、青色申告を申請していない場合は自動的に白色申告となります。白色申告は手続きが簡便な一方、控除や節税のできる範囲が限られるのに対して、青色申告は煩雑ではあっても節税効果は高いという違いがあります。青色申告を行うには、「青色申告承認申請書」を予め提出しておく必要があります。こちらも手数料はかからず、事業開始時から2カ月以内、また事業開始がその年の1月15日以前ならばその年の3月15日までに申請書類を揃えて税務署長に提出します。
個人事業主の注意点
メリットの多い個人事業主ですが、デメリットも存在します。
青色申告が複雑
上記のように青色申告には利用可能な特典が多数ありますが、その分だけ申請の手続きも多く存在し、毎度提出するのは手間のかかる作業です。制度の更新に伴う情報収集や、簿記等の知識の修得なども提出時のハードルとなり、また、ある制度の特典を受けるためには先に申請すべきことがあるなど、こうした煩雑さは避けることのできない青色申告の側面となっています。
申告は廃業まで続ける必要がある
開業届と異なり、確定申告を滞らせると脱税とみなされ、延滞税など罰金が課されます。一般に38万円以下の所得ならば申告しなくても良いですが、青色事業者で赤字繰越しなどが見込める場合は提出しておいた方が確実なため、結局のところ毎年提出することになる可能性が高いといえます。
まとめ
個人事業主として登録するには税務署への届け出が必要ですが、一度個人事業主となると確定申告が滞った際の罰則などデメリットもあるため、躊躇してしまうかもしれません。しかし青色申告をできる個人事業主となれば受けられる恩恵は大きく、節税したい等の目的がある場合は、個人事業主としての開業に踏み切ることもひとつの手です。