所得税とは異なり、消費税を課税されない個人事業者も多いことから、消費税に意識を向けていない人がまだまだ多いようです。しかし、消費税に関する手続きは取り返しがつかないミスを生じる恐れがあるため、実は常に注意を欠かすことができません。
この記事では、個人事業者向けに消費税の概要をわかりやすく解説します。
消費税の納税が必要なのはどんな人?
1年の売上が1,000万円を超えたら2年後に納税が必要
一部の例外を除き、消費税は開業してから3年目以降でなければ課税されません。また、3年目以降であっても課税されない人も多いので、個人事業者同士で税金の話題になったとしてもあまり消費税の話にはならず、意識していない個人事業者の方も多いのではないでしょうか。
簡単に言うと、年始から年末の間に1,000万円を超える消費税が課税される売上(これを課税売上高といいます)が発生した場合に、その2年後に消費税を納税する義務が生じます。
ある年の2年前の年の年始から年末までの期間、つまりその1年の課税売上高によって2年後に課税事業者になるかどうか決まる期間を、消費税の用語では「基準期間」と言います。
法人の場合には複雑な検討が必要となるのですが、個人事業者の場合には基準期間は「2年前」と覚えておけば良いでしょう。したがって、開業初年度とその翌年は基準期間そのものがありませんから、原則として消費税の納税義務はありません。
基準期間の課税売上高が1,000万円を超え、2年後に課税事業者となることが決まった場合には、速やかに「課税事業者届出書」を提出する必要があります。万一提出が遅くなったとしても罰則はありませんが、この届出書を提出することで税務署から消費税の申告書や納付書が送られてきますので、忘れずに提出しましょう。
逆に言うと、確定申告前に税務署から消費税に関する申告書や納付書が送られてきた場合には、一般的にはその確定申告では消費税の納税義務があるということになります。確定申告の際に消費税の納税義務があるのかどうか失念してしまっていることが多いものですが、税理士は消費税に関する書類が送られてきたかどうかを参考に判断することが多いのです。もちろん、最終的な判断は2年前の会計帳簿により行ってください。
なお、基準期間の課税売上高が1,000万円以下だったとしても、基準期間の翌年の1~6月(これを特定期間といいます)の課税売上高が1,000万円を超えていた場合には、やはり特定期間の翌年は課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。
特定期間の課税売上高により納税義務者となることは滅多にありません。しかし、不動産や車両などの高額な資産を1~6月に売却した場合には、その影響で納税義務者となることがあります。特定期間による納税義務の発生は税理士であってもつい見落としがちですので、十分に注意しましょう。
多くの会計ソフトでは、会計帳簿の入力の際に消費税に関する事項を入力すると、自動的に消費税に関する帳簿を作成してくれることはもちろん、納税義務の判定を行ってくれます。消費税の計算は手間がかかりますし、手計算では煩雑となりミスも多くなります。
これまでエクセルなどで会計処理を行っていた人は、消費税の課税事業者となる機会に会計ソフトを導入することを強くお勧めします。
自分で課税事業者となることを選択できる
基準期間、特定期間の課税売上高が1,000万円以下だったとしても、事前に手続きをすることによりあえて消費税の課税事業者となることができます。わざわざ課税事業者となる必要があるのかと疑問に思う人も多いでしょうが、消費税は必ずしも納税するばかりではありません。
消費税の確定申告の際、お客様から預かった消費税から自分が支払った消費税を差し引いた金額を申告・納税します。一方、預かった消費税よりも支払った消費税の方が大きい場合には、逆に還付を受けることができます。
しかし、消費税の免税事業者の場合には還付を受けることができませんから、大きな仕入を行う予定がある場合など、還付を受けることができる見込みがある場合には、忘れずに課税事業者となることを選択しましょう。ただし、課税事業者を選択した場合には、一定期間は免税事業者に戻ることができませんので、併せて注意が必要です。
簡易課税制度を忘れずに検討しよう
本則課税と簡易課税ではどっちが有利?
基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合には、事前に手続きをすることで通常の消費税の計算方法(これを本則課税といいます)とは異なる簡易な計算方法(これを簡易課税といいます)によって申告することができます。
売上が少なく、税務に時間を割くことができない事業者に簡易な計算方法を認めるための制度という建前ですが、最近は会計ソフトにて消費税の計算をするのが一般的ですので、どちらも計算の手間はあまり変わりません。それぞれの事業者の状況に応じて、本則課税と簡易課税のどちらか税額の少ないほうを採用するのが一般的です。
一般的には簡易課税制度を採用したほうが有利になることが多いとされていますので、まずは簡易課税制度を採用して様子を見ると良いでしょう。
簡易課税には還付がないことに注意!
既出の通り、預かった消費税より支払った消費税の方が多い場合には、消費税の還付を受けることが可能です。しかし、簡易課税を選択している場合には、本則課税とは異なり還付を受けることができません。
大きな仕入を予定しており、還付を受けることができる見込みがある場合には、簡易課税の選択は慎重に検討したほうが良いでしょう。
消費税にまつわる注意点
選択を辞める場合には事前の届出が必要
本来は免税事業者の人が課税事業者を選択した場合や簡易課税制度により消費税の計算をすることを届け出た場合には、その届出を取り消す手続きをするまでは届出の効力が継続します。
つまり、例えば課税事業者を一度選択した場合には、その選択を取り消す手続きをしない限りずっと課税事業者となるのです。
取り消す手続きをうっかり失念してしまい、翌年も課税事業者になってしまうケースがとても多いです。プロの税理士であってもこのようなミスをしてしまい、損害賠償の請求を受けてしまう事例が頻発しています。
また、稀にしか課税事業者にならない人の場合には、簡易課税制度により消費税の計算をする届出をしたことをすっかり失念してしまい、数年後・数十年後に本則課税で申告したら否認されてしまったという事例を耳にする機会も多くあります。
消費税はこのような手続きミスにより大きな損害を被ってしまうことが多いので、十分な注意が必要です。
売上が1,000万円に近くなったら課税売上高を確認しよう
消費税の会計帳簿は課税事業者になってから作成するものだと誤解されている人が多いのですが、それでは基準期間の課税売上高が1,000万円を超えたかどうか確認する方法がありません。
特に、大家業を営んでいたり、有価証券や保険を取り扱っている人、福祉関係の事業を営んでいる人など、消費税が非課税となる売上がある人の場合には、決算書の売上高を確認しても課税売上高を確認できません。
また、事業用の備品、特に車両や不動産、工作機械などの高額な資産を売却した場合には、営業外収益・費用として売却損益が計上されるのみで、売上高には反映されません。
これらの場合には決算書だけでは課税事業者となっているかどうかの判断がつきにくいので、毎年必ず会計ソフトで消費税の課税売上高を確認しましょう。
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まとめ
税理士がミスをしてしまい、損害賠償請求を受ける事例の半分以上が消費税、特に選択適用が認められている制度に関する届出書の出し忘れや判断ミスだと言われています。
プロの税理士でさえミスを起こしやすい消費税ですので、まして個人事業者の方は十分に注意をして処理する必要があります。また、ほぼ毎年のように消費税の課税事業者となる場合には、顧問税理士をお願いする時期かもしれません。
消費税についての悩みが生じた場合には、心当たりの税理士に消費税の相談をしながら、顧問契約を検討しても良いでしょう。