子供が幼いときに取得するのが育児休業です。一般的に、育児休業中には雇用保険から育児休業給付金が支給されますが、勤め先から給料は支払われません。
では、育児休業中で勤め先から給料が支払われてない状況で、年末調整は必要なのでしょうか。ここでは、育児休業と年末調整や確定申告との関係について解説します。
育児休業中でも年末調整は必要
実は、年末調整には、年末調整をしなければならないケースとしなくてもよいケースがあります。年末調整をしなければならないケースは、次のとおりです。
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12月に年末調整をしなければならないケース
次のいずれかに該当する場合は、12月に年末調整をしなければいけません。- 会社に1年を通じて勤務している人
- 年の途中で就職し年末まで勤務している人
※1年間の給料の総額が2,000万円を超えている人、災害減免法の規定により、所得税及び復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人を除く
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年の途中で年末調整をしなければならないケース
次のいずれかに該当する場合は、年の途中に年末調整をしなければいけません。- 海外支店等に転勤したことにより非居住者となった人
- 死亡によって退職した人
- 著しい心身の障害のために退職した人(退職後に再就職等をし、給与を受け取る見込みがある場合を除く)
- 12月に支給されるべき給与等の支払を受けた後に退職した人
- パートタイマーなどとして働いている人が退職した場合で、1年間の給与の総額が103万円以下である人(退職後に再就職等をし、給与を受け取る見込みがある場合を除く)
年末調整をしなくてもよいケースは、上記の1・2に当てはまらない人です。
では、育児休業中の場合はどうなるのかを見ていきましょう。育児休業中の場合であっても、勤務先を退職したわけではありません。上述した「12月に年末調整をしなければならないケース」の「会社に1年を通じて勤務している人」に該当します。そのため、育児休業中の場合であっても、年末調整を行う必要があります。
年収が0円でも年末調整は必要?
育児休業中の場合であっても年末調整を行いますが、育児休業中の人の中には、勤務先からの給料が年間を通して0円という場合もあるでしょう。収入がない場合、年末調整はどうなるのでしょうか。結論からいうと、年末調整は必要です。
ただし、給料が0円であるため、年末調整で行う源泉徴収税の再計算や清算をすることはありません。実務的には、給料が0円であることを証明するための源泉徴収票を発行する手続きになります。
ただし、通常の年末調整と同じように、年末調整に必要な書類を勤務先に提出する必要があります。一般的には、次の3つの書類を勤務先に提出します。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
特に、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、翌年度に年末調整を受けるために必要な書類です。忘れずに提出しましょう。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 育児休業中は会社からの連絡に気付くことが遅くなりがちです。
会社へ年末調整書類を提出する期限が定められていることが多いので、忘れないようにしましょう。 - 河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛
育児休業中での年末調整、確定申告の注意点
ここまでは、育児休業中であっても年末調整が必要であることを見てきました。しかし、育児休業中の年末調整では、注意しなければならないこともあります。また、状況によっては、確定申告を検討すべきケースもでてきます。
そこで、ここからは育児休業中での年末調整、確定申告の注意点について見ていきましょう。
年収によっては配偶者の扶養控除が受けられる
育児休業中の会社員にとって、注意が必要となるのは自分の年末調整だけではありません。配偶者の年末調整についても注意する必要があります。実は、育児休業中の会社員の年収によっては、配偶者の扶養控除を受けられる可能性があるのです。
配偶者の扶養控除とは、「配偶者控除」もしくは「配偶者特別控除」のことです。配偶者が「配偶者控除」もしくは「配偶者特別控除」を受けることで、配偶者の税金を減らすことができます。
配偶者の税金が減れば家計にもゆとりが生まれます。育児には何かとお金がかかるものですから、利用したい制度です。配偶者控除・配偶者扶養控除を受けるには要件がありますので、確認しておきましょう。以下の要件を満たす必要があります。
- 法律上の配偶者であること
- 給与所得者と生計を一つにしていること
- その年に青色申告者の事業専従者として給与が支払われていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと
- 合計所得金額が一定金額以下であること
事業専従者とは、青色申告や白色申告をしている事業主の元で働く家族従業員のことを指します。青色申告者の事業専従者で給与をもらっていたり、白色申告者の事業専従者だったりする場合、対象にならない点に注意してください。ただし確定申告を行う際、条件を満たせば給与は経費として扱えます。上記の条件を満たし、育児休業中の会社員の合計所得金額が48万円以下であれば配偶者控除を、48万円超133万円以下の場合は配偶者特別控除を受けることができます。なお、上記の条件に加えて控除を受ける給与所得者の所得が1,000万円以下でなければなりません。
例えば、育児休業中で給料が0円であれば、夫の給与から配偶者控除を受けることができるわけです。
この場合、夫は勤め先の年末調整で配偶者控除を受けます。年末調整に間に合わない場合は、夫が確定申告をして配偶者控除を受けることになります。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 年収がたとえ103万円以下であったとしても、青色専従者として給与支給を受けていたり、白色申告者の事業専従者(実際の給与支給は問わない)だったりすると、配偶者控除の対象にはなりませんので注意が必要です。
- 河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛
出産手当金、出産育児一時金などの取り扱い
子どもを出産した場合、出産育児一時金や出産手当金が受け取れます。また、育児休業中の場合は育児休業給付金も支給されます。それぞれ内容を確認しておきましょう。
【出産育児一時金】
出産育児一時金とは、健康保険の被保険者やその被扶養者が出産する際に、健康保険から支払われる給付金です。従来は子ども1人につき42万円でしたが、2023年4月から50万円に増額されています。
【出産手当金】
出産する被保険者に、健康保険から支払われる給付金が出産手当金です。出産日までの42日間(双子以上の場合は98日間)、出産の翌日から56日間のうち、給与が支払われなかった期間について支給されます。
【育児休業給付金】
育児休業給付金とは、復職を前提に雇用保険から支払われる給付金です。要件を満たす雇用保険の被保険者が、1歳か1歳2カ月、保育園に預けられない場合は1歳6カ月か2歳未満の子どもの育児休業を取得する場合に受け取ることができます。
出産育児一時金や出産手当金、育児休業給付金は、勤め先から支給されるものではないため年末調整には関係しません。また全て所得税が非課税と定められていますから、確定申告も不要です。
これらの給付金の支給をうけても、年末調整や確定申告に影響を与えることはありません。
生命保険料控除など各種所得控除の取り扱い
育児休業中であっても、生命保険料や地震保険料などを支払っていれば、年末調整で生命保険料控除や地震保険料控除などの所得控除を受けることができます。しかし、これらの控除は所得がある場合に控除を受けられるものです。育児休業中で所得がない場合などでは、控除を受けることはできません。
ただし、生命保険料控除は、契約者が誰であるかは要件とされていません。本人以外に配偶者も生命保険料控除の対象者として認められています。そのため、配偶者の年末調整で生命保険料控除を受けることも考えましょう。
住宅ローン控除における注意点
住宅ローン控除は、納める所得税の金額を直接減額できる税額控除のひとつです。そのため、育児休業中でそもそも納める税金がない場合は、住宅ローン控除を使うことはできません。
また、住宅ローン控除は、住宅ローンの契約者が受けられる控除のため、生命保険料控除のように、配偶者が代わりに使うことができない点に、注意が必要です。
ひとつの住宅に、夫と妻、それぞれで住宅ローンを組むことも可能です。もし、今後、住宅を購入し、住宅ローン控除を受ける場合は、配偶者との割合を決める際に、税額をシミュレーションしてみることも考えておく必要があります。
- 記事監修者からのワンポイントアドバイス
- 住宅ローンを夫婦それぞれで組む「ペアローン」をされる方も増えてきました。
夫婦それぞれで住宅ローン控除を受けられますが、例えば、その後夫が個人事業主になり、妻が専従者になったケースでは専従者給与の金額によっては妻側で住宅ローン控除額が余ってしまう場合もあります。 - 河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛
育児休業中で確定申告が必要な場合
出産育児一時金や出産手当金、育児休業給付金は所得税が非課税のため、確定申告の必要はありません。ただし、育児休業中であっても、確定申告が必要な場合もあります。それは、育児休業中に副業をして収入を得ている場合です。
育児休業中で、勤め先からの給料収入が年間0円である場合であっても、副業で収入を得て、税金の支払いが発生する場合は、確定申告が必要です。ただし原則、納税者には48万円の基礎控除があるため、給料収入が年間0円である場合、所得(もうけ)が48万円までの場合は、副業をしていても、所得税は発生しません。
所得(もうけ)が48万円を超えた場合で、他に控除などがない場合は、所得税が発生します。この場合は、確定申告をする必要があるので注意しましょう。
まとめ
育児休業中であっても年末調整は必要です。対象となるのは、年末調整をしなければならない人に該当する、源泉徴収票の発行を受けなければならないなどの理由に当てはまる場合です。
育児休業中は、配偶者の控除の対象となる可能性があったり、副業を行う場合は確定申告のことを考えなければいけないなど、育児休業をとる前と異なることも多くあります。育児休業をとる前との違いをしっかりと把握し、正しい処理を行いましょう。
▼参照サイト
記事監修者 河鍋税理士からのワンポイントアドバイス
育児休業中でも年末調整という手続き自体は必要ですので、年末調整関連の書類は提出しなければなりません。育児休業中を取得している場合、会社からの連絡は逐一見る方は少ないと思いますが、年末調整の時期は案内が来ていないかチェックしましょう。
もし、副業を開始した方は所得が48万円を超えた場合は翌年3月15日までに確定申告が必要になります。
出産手当金、出産育児一時金などは非課税ですので確定申告には影響しません。
育児休業取得を推奨している企業は年々増えてきており、育児休業を取られる方も多くなってきました。
統計によると令和4年度の育児休業取得率は女性80.2%、男性17.1%となっています。
女性に比べると男性の取得率はまだまだ低いですが年々上昇しており、私の友人も育児休業を取得していますので、今回の記事が当てはまる方は多いのではないかと思います。
是非参考にしてみてください。