従業員を雇用している場合、毎月、給与の金額や社会保険料、源泉徴収税の金額などを計算し、年末には所得税の年末調整をしなければなりません。従業員が多い場合は給与計算にかなりの労力が必要です。そこで、外部に給与計算を依頼する企業も多くあります。ここでは、自社の給与計算の依頼先として、税理士と社労士とでは何が違うか解説します。
税理士と社労士の業務の違い
給与計算を行う4つの方法
まずは、自社の給与計算をどのように行うのか、その方法を確認しましょう。一般的に、給与計算を行う方法には、次の4つの方法があります。
①自社で行う方法
給与計算を行う原則的な方法は、自社で行う方法です。従業員の数が少ない場合は、出勤簿や源泉徴収税額表や社会保険料の資料を確認しながら、給与金額や社会保険料、所得税の金額などを確定させていきます。従業員が多い場合は、給与計算ソフトを導入して、給与計算を行います。ただし、給与計算を手計算で行う場合は、計算間違いなどのリスクを伴うため、従業員の数が少ない場合でも、給与計算ソフトを導入している会社も多くあります。
②代行業者に依頼する方法
世の中には、さまざまな代行業者がありますが、給与計算を請け負う代行業者も存在します。代行業者への依頼は、税理士や社労士などに依頼するよりも価格が低い傾向にあり、コスト面でメリットがあります。ただし、代行業者にどれだけの専門知識があるのかが分からないため、法令順守や正確性の担保の不確実さというデメリットもあります。
③社会保険労務士(社労士)に依頼する方法
社労士は社会保険業務の専門家です。給与計算では社会保険料の計算だけでなく、従業員の雇用時や退職時の雇用保険と社会保険の手続きなども必要となります。そこで、社会保険の手続きも含めて、社労士に給与計算を依頼する会社も多いようです。
④税理士に依頼する方法
税理士は税務業務の専門家です。給与計算では所得税などの計算だけでなく、毎年、年末になると年末調整を行ったり、税務署などへの提出書類の作成手続きなども必要となります。そこで、年末調整などの手続きも含めて、税理士に給与計算を依頼する会社も多いです。
税理士と社労士の業務の違い
給与計算には4つの方法がありますが、手間や正確性のことを考えると、税理士または社労士に依頼するケースが多くなります。そこで、ここでは税理士や社労士はどう違うのか、その業務の違いについて見ていきましょう。
①税理士の業務
税理士には税理士法で税理士だけが行うことができる業務(独占業務)が定められています。そのため、独占業務を税理士以外が行うと法律違反になります。これは社労士などの別の専門家も行うことはできません。
税理士の独占業務は、「税務代理」「税務書類の作成代理」「税務相談」の3つです。それぞれの内容を簡単に説明すると、税務代理は、税務に関する申告書の提出や税金の納付を依頼者に代わって行うことです。税務書類の作成代理は、税務書類を本人に代わって作成すること、税務相談は依頼者独自が持っている税務の問題や節税の方法について相談にのることです(一般的な内容は除く)。その他、会計業務やコンサルティング業務なども行います。
②社労士の業務
税理士と同じく社労士にも独占業務があります。社労士の独占業務は、「提出代行」「社会保険関係書類の作成代理」「事務代理」の3つです。
それぞれの内容を簡単に説明すると、提出代行は、社会保険に関する申告書の提出を依頼者に代わって行うことです。社会保険関係書類の作成代理は、社会保険関係の書類を本人に代わって作成すること、事務代理は行政官庁等の調査や処分に依頼者に代わって、主張したり陳述を行うことです。その他、社会保険の相談業務やコンサルティング業務なども行います。
給与計算を税理士と社労士に依頼するメリットとデメリット
税理士と社労士にはそれぞれの独占業務があり、明確に行える業務が分かれています。
では、それぞれに給与計算を依頼するメリットとデメリットは何かを見ていきましょう。
給与計算を税理士に依頼するメリットとデメリット
①メリット
給与計算を税理士に依頼するメリットは、毎月の給与計算だけでなく、年末調整の計算も依頼できるということです。年末調整では、1年間の給与金額や源泉徴収税の集計だけでなく、保険料などの控除の計算、源泉徴収税の過不足額の計算などを行う必要があります。
また、法定調書や合計表など税務署に提出する書類の作成も必須です。これらを正確に行うためにも税理士に依頼します。
②デメリット
給与計算を税理士に依頼するデメリットは、社労士の独占業務ができないことです。そこで社会保険の手続きについては自社で行うか、社労士に依頼する必要があります。
給与計算を社労士に依頼するメリットとデメリット
①メリット
給与計算を社労士に依頼するメリットは、社会保険関係の手続きを一括して依頼することができることです。毎月の給与計算だけでなく、毎年6月~7月にある労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎の手続きや、従業員の雇用時や退職時の手続きなどを一括で任せることができるので、手続きの漏れなどがなく安心です。
②デメリット
給与計算を社労士に依頼するデメリットは、税理士の独占業務ができないことです。そこで年末調整の手続きなどについては自社で行うか、税理士に依頼する必要があります。
給与計算は誰に依頼すべき?
ここまでは、税理士や社労士の業務内容や、それぞれに給与計算を依頼するメリット・デメリットを確認しました。では、給与計算は誰に依頼すべきなのでしょうか。一般的に、中小企業では、給与計算は税理士に依頼している会社が多いようです。それは、そもそも税務申告のために、普段から税理士と顧問契約を結んでいる会社が多いということが原因です。既に、税理士と顧問契約を結び、信頼関係が築けていることや、年末調整などの税務申告も税理士に依頼していること、新たに社労士を探すことの手間などから、給与計算も税理士に依頼している場合が多いです。
ただし、従業員数が数百人いる場合など、従業員数が多い場合には、社労士に依頼した方が良いでしょう。それは、多い人数の場合は、そもそも顧問税理士が給与計算の代行を受けない場合があることや、多い従業員数で正確性を保つには、社会保険などの専門知識のある社労士に依頼したほうが良いからです。社労士と連携している税理士も多いので、顧問税理士がいる場合は、まずは、税理士に給与計算の代行について相談してみましょう。
まとめ
自社の給与計算は、税理士や社労士に依頼している会社が多いです。ただし、税理士、社労士それぞれに独占業務があるため、すべての業務をどちらか一方に依頼することはできません。税理士または社労士に依頼するメリット・デメリットを考え、どちらに依頼するのかを決めましょう。また、顧問税理士がいる場合は、まずは、税理士に給与計算の代行について相談してみましょう。