「記帳代行」「丸投げ」というキーワードで検索すると、さまざまな業者がヒットします。しかも、情報量が多く、サービス内容も多岐にわたるため、税理士に依頼するときのポイントも分かりづらいのではないでしょうか。そこで、記帳代行と丸投げの違いを説明しなら、依頼するポイントについて解説します。
記帳代行と丸投げについて解説
記帳代行と丸投げともに基本は帳簿作成の代行
記帳代行と丸投げの業務範囲はさまざまですが、帳簿作成の代行が一般的です。具体的には次の業務フローに従います。
(1)証票書類の送付
レシート、領収書、通帳コピーなどの証票書類を郵送またはスキャン後に税理士事務所へ送付します。
(2)税理士事務所でデータ入力をする
証票書類を参照して会計ソフトへの手入力または会計ソフトの自動仕訳機能による自動読み込みをします。
(3)帳簿などを作成する
データ入力後に会計ソフトが自動的に帳簿・試算表・決算書まで自動作成します。そのため、上記(2)が経営資料に役立つ試算表・決算書を作成するカギを握り、送付する上記(1)の証票書類がきちんと整理されているかどうかがポイントです。
経理業務の丸投げもある
税理士に依頼する業務の中に経理業務の丸投げが存在します。丸投げする経理業務は請求書等を発行する売上業務、仕入先の銀行口座に振り込む支払業務、従業員の給与計算・銀行口座に振り込む給与業務に区分できます。
税理士からの節税アドバイスが受けられる
記帳代行の請負先には税理士がいるため、独占業務にあたる節税のアドバイスが受けられます。たとえば、70万円以上のソフトウェアを購入したことが会計ソフトへの入力段階で税理士が把握できれば、優遇税制の特別償却についてのアドバイスが受けられます。
記帳代行を依頼するメリット
記帳代行のメリットを訴える税理士がいる一方、記帳代行を引き受けない税理士も存在します。そこで、改めて記帳代行を依頼するメリットについて説明します。
本業に専念できる
そもそも帳簿の作成はすべての事業者に義務付けられており、特に青色申告では厳密な帳簿が求められます。そのため、経理担当者がいない場合、本業を犠牲にしてでも帳簿を作成しなければなりません。しかし、記帳代行を税理士に依頼することで、本業に時間を集中させることができます。
特に 前々年度の課税売上高が1,000万円を超えるなどにより、消費税の課税事業者となった場合、より厳密な帳簿作成が求められます。そのため、本業が忙しくなるのにもかかわらず、本業に費やす時間を犠牲にせざるを得ない事態に陥りかねません。
経理業務の負担が減る
記帳代行を税理士に依頼することで、経理部門が会計ソフトへの入力業務や書類整理の一部を肩代わりしてもらうことができます。その結果、経理スタッフを減らすことができれば、一人当たり10万円単位の人件費削減につながり、記帳代行の月額料金よりもコストダウンできる可能性が大きくなります。
税理士報酬の見直しができる
たとえば、税理士に税務顧問を依頼し、帳簿記帳を自社で行っている個人事業主や法人が経理スタッフの退職をきっかけに記帳代行の依頼を検討するとします。顧問税理士以外の別の税理士に記帳代行の見積を取り、税理士報酬の見直しをすることが可能です。今までの税理士報酬が高い場合には、値下げ要求をしたり、顧問税理士を変更したりしてコストダウンを図ることができます。
節税のアドバイスが受けられる
前出の通り、節税のアドバイスは税理士の独占業務であり、記帳代行とセットになっている傾向にあります。たとえば、税制改正に伴う新しい節税方法のアドバイスを受けられたり、契約書などの原始証憑のチェックを通じてより精度の高い節税のアドバイスが受けられたりします。
記帳代行のデメリット
自社で会計ソフトに入力する自計化と比較した場合における記帳代行のデメリットについて説明します。
試算表の作成が遅い
年度途中の業績を示す試算表の作成スピードは税理士によってさまざまですが、一般的に自計化している会社より遅い傾向にあります。通帳コピーや領収書などの原始証憑をまとめて税理士に送付するといった試算表作成の工程が自計化よりも多いためです。
決算書が読めるようになりづらい
自計化をしている会社は自分で決算書や試算表を作成しているため、財務数値の背景などを把握している傾向にあります。しかし、記帳代行を依頼すると決算書や試算表を自分で作成しないため、財務数値を見なくても済んでしまいます。そのため、決算書を見る機会が自計化よりも乏しくなる傾向にあり、決算書を読めるようになりづらくなる可能性があります。
経理スタッフの育成で不利
そもそも記帳代行を依頼することは、経理業務の一部を外部に委託することを意味します。そのため、特に事業拡大に際して経理スタッフを育成するのに、不利になる可能性があります。たとえば、消費税の仕入税額控除は会計ソフトに入力する段階で計上しますが、記帳代行を依頼すると経理スタッフが仕入税額控除に計上できる項目を覚えなくても業務に支障をきたすことはありません。
税理士に記帳代行を依頼するポイント
記帳代行の依頼は間接部門のコスト削減につながる
記帳代行の依頼により経理業務の一部から解放されるため、たとえば経理スタッフの一部を販売部門に配置転換できるなど、間接部門の時間短縮につながります。また、会計や税法に詳しい専門スタッフを確保する必要がなく、求人募集費用などの採用コストも削減可能です。そのため、記帳代行の依頼は間接部門のコスト削減に優れているといえます。
業務拡大を見据えるなら出口戦略も考える
部門別や店舗別の業績管理など、「たとえば経費をどの部門で支出したのか」というような会社の内部事情を知らないと会計ソフトに入力できないケースがあります。このケースの場合、社外の立場にある税理士に記帳代行を依頼すると、経費を部門別に区分できず、業績管理で不利になる傾向にあります。そのため、事業拡大により精度の高い業績管理を見据えるなら、自計化に対応できる体制づくりの出口戦略を考える必要があります。たとえば、小口現金だけを自計化するなど、徐々に記帳代行の依頼を減らし、高度な専門知識を生かした税務顧問業務に専念してもらうのも一つの手です。
【2月26日追記】
記帳業務の意味・重要性
会社にとっての記帳業務をする意味や重要性について説明します。
法律で義務付けられている記帳業務
そもそも会社は法律で記帳業務が義務付けられています。法人に対しては会社法432条と法人税法150条の2、個人事業主に対しては所得税法第148条(青色申告者の帳簿書類)と232条(事業所得等を有する者の帳簿書類の備付け等=白色申告者)により帳簿の保存義務が定められています。
青色申告の特典が利用できる
一定水準の帳簿を作成した場合には青色申告で確定申告をすることができ、税制上の特典を利用できます。たとえば、繰越欠損金や純損失の繰越しにより赤字分を翌年度以降の所得から控除できたり、消耗品の購入金額を一括経費に計上できる範囲が10万円未満から30万円未満まで拡大されたりします。そのため、帳簿作成が節税対策に必須といえます。
確実に経費で落とす
個人事業主と法人の支出額を経費で落とす条件のひとつに「事業目的の有無」が挙げられます。たとえば、ある居酒屋の領収書があるとします。経費で落とすためには領収書を保存しているだけでは不十分であり、記帳業務により「●●社との打ち合わせ」など事業遂行に必要だったことを帳簿書類に記載する必要があります。
また、法人の場合には「損金経理要件」により、帳簿に費用計上の記録をすることが経費で落とす条件になっている項目があります。たとえば、パソコンの購入金額を一括で経費計上すためには、費用計上することが必須です。費用計上をしないと損金(経費)に計上できません。
円滑に銀行融資を受ける
銀行融資を受けるためには、融資を受ける直近の試算表(貸借対照表と損益計算書)を銀行に提出するのが一般的です。試算表の基となる帳簿作成が滞らないことが円滑な銀行融資につながります。
経営管理・節税対策に活かす
帳簿をもとに作成した試算表から売上高や利益、現金預金や借入金残高などの経営管理や節税対策に欠かせない数値を把握することができます。
たとえば、業績が良い場合には広告宣伝費に投入したり、売上高が下降気味なら経費削減を図ったりする意思決定には最新の試算表が必要になるでしょう。一方、節税対策に必要な利益の事前予測に試算表は欠かせません。
記帳業務の義務化について
もともと会社は記帳業務が義務付けられていますが、その範囲が拡大してきています。それだけ事業遂行をする上で帳簿作成が重視されている証拠ともいえます。そこで、会社の記帳業務の義務化について説明します。
白色申告者の記帳義務
平成26年からすべての白色申告者に対して記帳業務が義務化されました。以前なら前々年分または前年分の事業所得、不動産所得及び山林所得の金額の合計額が300万円以下の白色申告者は売上高や経費などの金額を集計するだけでした。この税制改正により記帳業務の義務化において会社の規模を問われなくなりました。
雑所得の記帳義務
令和2年度税制改正大綱の中に雑所得の記帳業務に関する項目が盛り込まれています。令和4年から適用される予定であり、具体的には収入金額に応じて次のように区分されます。
(1)前々年分の雑所得にかかる収入金額が300万円以下
基本的に雑所得にかかる収入金額および必要経費は発生主義が原則ですが、現金主義での計算が認められるようになる予定です。たとえば、本来は納品にかかる売上高を計上するところ、入金されるまで収入金額に計上しないことが可能になります。この「現金主義による所得計算の特例」はもともと青色申告者に対して所得金額の計算を簡単にする特例ですが、雑所得にも適用範囲が拡大される予定です。そのため、「現金主義による所得計算の特例」を青色申告者と同じように適用するためには、現金出納帳や預金出納帳などの現金式簡易帳簿を作成する必要があります。
(2)前々年分の雑所得にかかる収入金額が300万円超1,000万円以下
現金出納帳などの雑所得にかかる現金預金取引等関係書類を作成する義務があり、5年間保存しなければなりません。
(3)前々年分の雑所得にかかる収入金額が1,000万円超
雑所得にかかる収入金額および必要経費の内容を記載した書類を確定申告書に添付しなければなりません。そのため、収入金額および必要経費の計算根拠を示すために、白色申告者と同じ水準の記帳業務が要求されることになるでしょう。
あくまでも雑所得にかかる収入金額が基準であるため、たとえばネットショップの売上が300万円を超えたら利益や損失に関係なく、上記(2)の記帳業務が要求されます。
どんな時にどんな人が活用するか、また活用したらいいのか
ますます記帳業務が重要となっているため、税理士の記帳代行を活用すべき人や活用するタイミングについて説明します。
経理スタッフが不在の会社
会計や税金の知識のある経理スタッフが不在なら記帳代行を活用すべきでしょう。たとえば、従業員にかかる人件費の削減や経理スタッフが育つまでの間のつなぎとして税理士に依頼する価値があります。
創業したての会社
創業したての会社であればコストを掛けないために経理スタッフを雇う代わりに、税理士事務所の創業サービスなどで記帳代行を依頼することをおすすめします。創業サービスは税理士報酬が安価な傾向にあるのが特徴です。たとえば、事業を軌道に乗せるために記帳業務にまで手が回らない人や会計や税務の知識に不安がある人は記帳代行を税理士に依頼する価値があります。
副業をしている会社員
副業で忙しい会社員も記帳代行を視野に入れるべきでしょう。令和4年の所得税申告(令和5年に確定申告書を提出)から実施される雑所得にかかる記帳業務の義務化に備えるためです。特に副業が順調な会社員なら独立前に税理士に記帳代行を依頼する価値があります。
確定申告直前で記帳業務が滞っている会社
確定申告直前にかかわらず記帳業務が滞っている理由は経理スタッフが不在だったり、経営者自身が帳簿の作成にまで手が回らなかったりするなどが挙げられます。確定申告書の提出期限を過ぎるデメリットを被る前に記帳代行を税理士に依頼することをおすすめします。
【2020/7/22追記】
記帳代行に関するよくあるご質問
記帳代行についてよくある質問をまとめました。参考にしてください。
Q.個人事業主でも記帳代行を請け負ってもらえますか?
A.もちろん個人事業主でも依頼することができます。継続して事業をやっていける見込みが立ち、経理に時間を取られず本業に専念したいのであれば、料金を支払っても依頼するメリットがあるでしょう。
Q.法人と個人では料金は変わりますか?
A. 記帳代行の料金は、基本的には仕訳数によって決まりますが、一般的に法人より個人の方が安い設定になっていることが多いようです。ただし、実際にかかる金額は、状況により異なってきます。詳細な料金は、税理士や記帳代行サービスの会社に見積りを依頼することをおすすめします。
Q.記帳代行サービスを利用する上で注意した方がいいことはありますか?
A. 上記にもあるように、料金は仕訳数で決まります。激安な価格を提示しているところもありますが、それは最低料金です。見積りはかならず取りましょう。
また契約後に、依頼したいサービスが含まれていなかったなどということもあります。いずれにせよ、事前の確認を怠らないようにしましょう。
Q.記帳代行サービスの料金感、相場感はどれくらいでしょうか?
A. 1仕訳40円~100円程度が相場になります。従量制の他に、定額制、定額制+従量制などのプランがあり、状況に応じて選択することができます。
まとめ
雑所得にも記帳業務を求められるようになり、帳簿作成の重要性がますます高まることでしょう。そのため、記帳代行や経理の丸投げを依頼する意味があります。特に初めて依頼する場合、税理士に対する敷居が高いかもしれませんが、まずは税理士紹介サイトなどを利用して気軽に見積依頼をすることをおすすめします。