節税対策にも用いられる不動産賃貸業は経営形態もバリエーションが豊富であり、経営形態によって税金の計算が違います。しかも、節税対策が税務署に否認されるリスクがあり、オーナーにとって税金の知識は必須といえるでしょう。そこで、不動産賃貸業の税金について徹底解説します。
不動産賃貸業の税金のアウトライン
不動産賃貸業の経営形態はさまざまであり、税金の計算にも影響します。
賃貸収入にかかる所得金額に対する税金
個人と法人の賃貸収入にかかる所得金額に対する税金は次の通りです。
(1)個人
所得税5%~45%、個人住民税10%、個人事業税5%、復興特別所得税が所得税の2.1%課税されます。
(2)法人
法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税が課税され、すべての税目の税率は約30%です。
賃貸収入自体にかかる税金
賃貸収入自体にかかる税金は次の通りです。
(1)消費税
賃貸収入は原則、課税されますが、政策目的で非課税のものが存在します。非課税売上の賃貸収入はおもに次の通りです。
- 貸付期間が1ヵ月以上の住居用建物の貸付け(契約時において住宅用であることが明らかなものに限る)
- 貸付期間が1ヵ月以上の土地、地上権、土地の賃借権、地役権、永小作権などの貸付け
また、非課税売上は消費税の納税額に影響します。具体的には、全体の売上高のうち課税売上高の占める割合を示す課税売上割合が低くなり、仕入税額控除の計上額も低く抑えられてしまいます。
(2)印紙税
賃貸契約書にかかる消費税は次の種類に応じて課税・非課税に区分されます。
- 建物の賃貸借契約書:非課税
- 土地の賃貸借契約書:課税
- 一定期間据置き後、割賦償還する保証金など:課税
所有不動産に課税される税金
所有不動産(家屋、土地)には「固定資産評価額×1.4%」の固定資産税が課税されます。家屋、土地の固定資産評価額は3年に1度評価替えが実施され、2019年、2020年の分は2018年の価格が据え置かれます。
不動産賃貸業の節税対策は?
不動産賃貸業の節税対策は次の経営形態によって、賃貸収入にかかる所得金額の金額が異なります。
- 個人経営
- 管理委託方式
- サブリース方式
- 会社所有方式
管理委託方式による節税対策
不動産賃貸業の管理委託方式による節税対策について説明します。
管理委託方式とは
個人経営の不動産賃貸業のオーナーが不動産管理会社に業務管理を委託する方式であり、オーナーが不動産管理会社に業務委託料を支払います。
節税スキーム
オーナー自身が不動産管理会社を設立することで、発生する業務委託料を用いて所得金額を個人と法人に分散できます。その結果、所得税率のコントロールが可能になり、節税につながります。しかし、不動産管理会社が名目だけであったり、業務委託料が相場とかけ離れていたりすれば、租税回避行為(税金逃れの行為)であると税務署から否認されるリスクがあります。
節税対策ですべきこと
節税対策ですべきことは次の通りです。
- 業務委託料を賃貸収入の5%~10%に設定する
- オーナーと不動産管理会社との間で建物賃貸借契約の締結・契約書を作成する
- 不動産管理会社の事業目的に不動産賃貸業・不動産管理業などのキーワードを盛り込む
- 管理費用の負担先をオーナーと不動産管理会社のいずれかに決める
管理業務の範囲
不動産管理会社が名目と誤解されないためにも、管理会社の範囲を知っておく必要があります。具体的には、次の通りです。
入居者管理 | 建物管理 | 自らの資金管理 | |
---|---|---|---|
日常的にやるべきこと | 賃料の管理 苦情などの対応 契約違反への対応 |
建物の清掃やメンテナンス
設備の修理 |
賃料や委託費などの収支管理 納税のための準備 |
更新時・退去時にやるべきこと | ○更新の場合 更新手続き ○退去の場合 退去時の立ち会い 修繕箇所の確認、入居者との調整 賃料や敷金その他の費用等の精算 新たな入居者募集 |
退去後のクリーニングや修繕 | 敷金の精算などに伴う預り金の管理 更新や退去に伴う収支の管理 |
長期的にやるべきこと | 室内のリフォーム 設備の更新 建物の修繕 |
長期的修繕にかかる費用の積み立て |
(参照元:公益社団法人全日本不動産協会)
サブリース方式
管理委託方式のほかにも、サブリース方式により不動産管理会社を用いる節税対策が存在します。
サブリース方式とは
サブリース方式とはオーナーの所有不動産を不動産管理会社が一括借り上げ、賃借人と直接契約をし、オーナーが不動産管理会社に管理料を支払います。
節税スキーム
オーナーが不動産管理会社に支払う管理料を用いて賃貸収入にかかる所得金額を個人と法人に分散することができます。しかし、管理委託方式と同じように管理料が税務署から否認されるリスクがあります。
節税対策ですべきこと
節税対策ですべきことは次の通りです。
- 業務委託料を賃貸収入の15%~20%に設定する
- オーナーと不動産管理会社との間で建物賃貸借契約の締結・契約書を作成する
- 不動産管理会社の事業目的に不動産賃貸業・不動産管理業などのキーワードを盛り込む
- 管理費用の負担先をオーナーと不動産管理会社のいずれかに決める
賃借人との不動産賃貸借契約の契約主体を不動産管理会社にする - オーナー・不動産管理会社がそれぞれの名義の銀行口座に入出金を記録し、保管する
会社所有方式
不動産管理会社を用いる代わりに、会社所有方式による節税対策が存在します。
会社所有方式とは
会社所有方式とは文字通り、会社が不動産を所有し、賃貸収入を得る方式です。そのため、所有不動産はオーナーから法人に移転します。
節税スキーム
節税スキームは次の通りです。
(1)不動産管理会社を用いるよりも節税対策がしやすい
賃貸収入を法人名義にできるため、所得金額も法人名義にしやすくなります。その結果、個人より法人の低い税率を適用することができます。
(2)オーナーにかかる相続税の節税につながる
所有不動産を法人に移転するため、オーナーの相続財産(所有不動産)が減り、法人株式を配偶者などオーナー以外の人が保有すれば、相続税の節税につながります。
移転の手続きが大変
不動産の移転は個人から法人へ建物を売却することを意味し、上記の管理委託方式やサブリース方式よりも手続きが大変です。具体的には、不動産移転登記や不動産取得税の納付など会社所有方式独自の手続きが存在します。
まとめ
不動産賃貸業の経営形態は①個人経営、②管理委託方式、③サブリース方式、④会社所有方式です。節税対策に有効な順番は「④→③→②→①」であり、手続きの大変さも「④→③→②→①」です。節税対策と手続きの兼ね合いから不動産賃貸業の経営形態を選択してはいかがでしょうか。