フリーランスの方の中には、自身の生活や仕事に合った適切な保険に加入しておらず、結果として損をしているケースが見られます。今回は、フリーランスの方向けの保険の種類や、保険料を抑える方法を解説します。
フリーランスには保険が必要
会社員の社会保障の手厚さと比べると、フリーランスの社会保障は手薄と言わざるを得ません。病気やケガをしたときの医療費の負担を軽減する健康保険の保険料は、会社員では労使折半なのに対し、フリーランスは全額自己負担です。そして健康保険制度のメリットは、医療費が安くなるという点だけに限られません。会社員の加入している健康保険では、業務外の病気やケガが原因で働けなくなったときに、傷病手当金として給与の2/3を1年6ヶ月受け取ることができますが、国民健康保険の加入者は対象外です。
年金についても、フリーランスは基礎部分の国民年金しかありませんが、会社員は国民年金に上乗せされる厚生年金があり、将来受け取れる年金額は大幅に増えます。その他にも、法定福利厚生として会社員には雇用保険や労災保険がありますが、フリーランスには適用されないため、万一仕事中にケガをしても補償がありません。さらに会社によっては、人間ドック受診や住宅ローン補助、スキルアップのための各種資格取得支援制度などのバラエティーに富んだ法定外の福利厚生を充実させているところもあります。
会社員と比べた際に明らかになるこうした保障面での手薄さは、フリーランスの方が人生設計を考える際の不安要素となっています。しかし、病気やケガに備えて、豊かな老後の生活のために自分に合った保険に入れば、その不安が解消されて業務に専念することができます。
フリーランスが入れる健康保険
高額な医療費の負担を軽減してくれる健康保険制度。ここではフリーランスが入れる健康保険をご紹介します。
国民健康保険
国民健康保険は、市町村が運営する公的な医療保険制度です。日本ではすべての国民が何らかの公的医療保険制度に加入する必要があり、会社の健康保険や船員保険などの健康保険組合に加入していない人は、国民健康保険に加入しなければなりません。保険料は各市町村や年収によって異なります。
国民健康保険に加入するには、前職の健康保険の資格喪失後14日以内に各市町村の窓口で手続きをします。手続きには以下のものが必要です。
- 健康保険の資格喪失証明書
前職の会社で発行してもらえます。 - 本人確認書類
- 顔写真付きのマイナンバーカードがあればそれだけで確認できますが、なければ通知カードと運転免許証、パスポートなどの顔写真付きの証明書が必要です。
任意継続
任意継続とは、勤めていた会社を辞めた後の2年間は、健康保険に引き続き加入できる制度のことをいいます。任意継続は退職後20日以内に手続きをする必要があり、20日を超えてしまうと任意継続は利用できません。また、任意継続を利用するには、退職日までに継続して2ヵ月以上の被保険者期間がなければなりません。
気になる保険料ですが、労使折半であった健康保険料が自己負担となるため、約2倍になると見積もっておきましょう。保険料の正確な額は、各健康保険組合に確認してください。なお、任意継続は退職日以前に継続して1年以上会社の健康保険に加入し、すでに傷病手当金を受けている人以外は、新たに傷病手当金を受け取ることはできません。
任意継続をするには「任意継続被保険者資格取得申出書」が必要です。また、被扶養者がいる場合は以下の書類もあわせて用意しておく必要があります。
- 被扶養者の収入を証明する所得証明書や課税証明書など
- 同居が確認できる住民票
国民健康保険組合
国民健康保険組合は、同じ事業や業務に従事している人で構成・運営されています。国民健康保険は市町村に住んでいることが加入条件であるのに対し、国民健康保険組合は職種や業務内容によって加入条件が決められています。ただし、場合によっては加入できる地域が限定されていたり、紹介者がいなければ加入が認められなかったりしますので、各国民健康保険組合に確認しておく必要があります。
国民健康保険は、上限はあるものの年収によって保険料が変わりますので、年収が上がれば上がるほど負担が大きくなるのがネックでした。しかし国民健康保険組合なら年収に関係なく一定の保険料ですので、高収入のフリーランスの方であれば負担が軽くなります。
ここでは参考までに、文芸美術国民健康保険組合の保険料をご紹介しておきます。
平成30年度の保険料 | |
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組合員 | ひとり月額19,600円 |
家族 | ひとり月額10,300円 |
介護保険料 (満40~64歳の被保険者) |
ひとり月額4,000円 |
国民健康保険組合に加入を検討している人は、国民健康保険料と比較してどちらの負担が少ないかを試算しておくことをおすすめします。なお、国民健康保険組合は「医師」「歯科医」「建設業」「その他一般業」の4つの組合に分かれており、合計135組合があります。前述のとおり、地域や職種によって加入できる条件が決められており、加入には一定の条件がありますので、まずは加入資格があるかどうかを確認しておきましょう。
目的別! 保険の種類
以上で見てきた国民健康保険や任意継続、国民健康保険組合のいずれかに加入することは基本的に強制されていますが、保障面に不安が残るならば、生命保険や医療保険などの保険に任意で加入して備えておくこともできます。以下では、病気やケガで働けなくなったときの保障や、厚生年金の代わりになる年金保険をご紹介します。
病気やケガの補償
公的な国民健康保険や国民健康保険組合では治療費の負担を軽減してくれますが、病気やケガが原因で働けなくなったときの保障がなく、傷病手当金もありません。こうしたリスクには、医療保険や所得補償保険によって備えておくことができます。
- 医療保険
医療保険は、加入する保険の内容に応じて、入院や手術、通院などの際に給付金を受け取ることができます。公的な健康保険制度では、入院中の差額ベッド代や食事代は保障されず自己負担となります。医療保険に入っておくと、治療費以外の出費に備えておくことができます。また、がんに備えるがん保険や生活習慣病に備える保険もあります。 - 所得補償保険
所得補償保険は、病気やケガで働けなくなったときの治療費以外の生活費をサポートする目的で作られた保険です。加入するには、月々の手取り収入をベースに、受け取りたい月額金額を計算し保険会社と契約します。フリーランスには傷病手当金がありませんので、万一治療が長引いた場合でも安心して生活できるよう、できれば長期間備えられる保険を選んでおきましょう。
厚生年金の代わりになる上乗せ年金
フリーランスが加入できる年金保険には、厚生年金の代わりともいえる国民年金基金があります。これにより、国民年金だけでは到底賄えない老後の生活費を補うことができるようになります。
厚生労働省の平成30年1月時点のデータによると、妻が専業主婦、夫の月収(賞与を含む平均月収)42.8万円で40年間保険に加入していた場合の給付水準では、厚生年金は月額221,277円が支給されます。一方の国民年金は、満額でも779,292円、月額にして64,941円となり、国民年金のみと厚生年金を含む年金額とを比較すると、毎月156,336円もの差が出ることになります。この差を解消するために設けられたのが国民年金基金です。
国民年金基金は、その掛け金が全額所得控除となり所得税や住民税が軽減されます。また、将来受け取りたい年金額に合わせて加入口数を決めることができ、掛け金は加入後でも変更が可能です。
この他にも、国民年金に月額400円の保険料を追加で納めることで、将来もらえる年金額が「200円×納付月数」だけ増やせる付加年金の制度もあります。
保険料を抑える方法
老後の生活に不安があったり、病気やケガが原因で働けなくなったりした場合の保障をすべて保険で賄おうとすると、毎月の保険料だけでもかなりの負担となってしまいます。毎月の保険料を抑えるには、次の点に注意をすることが大切です。
- 加入する健康保険を退職前に決めておく
会社を退職してフリーランスに転身したばかりの人は、上述の任意継続と国民健康保険とで、どちらがより保険料を抑えられるかを比較しておくと良いでしょう。また、職種さえ合えば、国民健康保険組合への加入も合わせて検討しましょう。 - 確定申告で生命保険料控除を利用する
生命保険や医療保険に加入している場合は、1年間に支払った保険料の金額に応じて、一定額を限度に所得控除を受けることができ、所得税や住民税が軽減されます。 - 青色申告の特別控除を利用する
青色申告の特別控除は、青色申告をおこなう年の3月15日までに税務署へ青色申告承認申請書を提出しておけば、確定申告時に最高65万円の青色申告特別控除が受けられます。他にも赤字を3年繰り越せたり、30万円未満の一括償却ができたりといった特典があります。ただし、青色申告で65万円の特別控除を受けるには、複式簿記で記帳しておかなければなりません。日常的な取引や決算仕訳を会計ソフトに入力するには、やはり仕訳の知識が必要になってきます。
まとめ
会社員に比べると社会保障の面で不安が残るフリーランスですが、保険を上手に利用することでそうした不安を軽減することができます。自分の生活や仕事内容に合った保険を活用し、将来へ充分に備えましょう。