「損金」にできる役員報酬「事前確定届出給与」で 注意すべきこと | MONEYIZM
 

「損金」にできる役員報酬「事前確定届出給与」で
注意すべきこと

従業員の給与やボーナスは、法人税を計算する際に、「費用」として利益から差し引く(=「損金」に算入する)ことができます。ところが、税法上、会社役員に対する役員報酬が損金にできるのは、3つある条件のどれかを満たした場合のみ。今回は、それらのうち、扱いを間違うと、納税で不利になるばかりでなく、社内トラブルの火種にもなりかねない「事前確定届出給与」について解説します。

損金にできる3つの受け取り方法とは?

もし役員報酬損金にならなかったら、そのぶん法人税計算のベースになる利益が膨らみます。会社は、報酬を支払ったうえに、高い法人税を課せられることに。中小・零細企業にとっては、痛手以外の何ものでもありません。それだけに、確実に損金算入するために万全を尽くすとともに、万が一「支払いが予定通りにいかなかった」場合のリスクについても、十分認識しておく必要があります。
 
では、具体的にみていくことにしましょう。法人税法は、役員報酬が損金に算入される条件として、次の3つを定めています。
 
①「定期同額給与」=毎月、一定額で支払う。
②「事前確定届出給与」=「いつ、いくら支給する」と、事前に税務署に届け出たうえで支払う。
③「利益連動給与」=利益などに連動し、報酬額が自動的に決まる。
 
実は、このうち③は、普通の未上場・中小企業が使うことはできません。この条件は、「同族会社でない会社」が対象とされているからです。中小企業は、株主が社長1人だったり、他に株を持っていても奥さんや親族などの「特殊関係人」、という同族会社である場合がほとんどです。「損金算入の方法は3条件」と言いましたが、実際には①か②の2つということになります。

「事前確定届出給与」の条件を満たすには?

「損金にできるかどうか」の大きなポイントは、支払額などの「予定と実際」にあります。①では、途中で役員報酬額を増減させることができません。②でも、税務署に届け出た内容の変更はご法度です。守られなかった場合には、報酬の損金算入は、基本的に認められなくなってしまうのです。
 

中でも扱いに注意したいのが、②「事前確定届出給与」です。どこが問題になりやすいのか、順を追って説明します。
 

そもそもこの支払方法が使われるのは、1つは役員の「ボーナス」として、というケースで、多くは①と“併用”されます。ちなみにこの場合、①と②どちらかに問題が起こって損金算入ができなくなったとしても、もう1つの方までそれを否認されるようなことはありません。
 

②は、非常勤役員などの報酬を支払う場合にも使われます。①にすると、「年間を通して会社に来るわけではない」という勤務実態とズレが生じるし、月々の支払金額が少なすぎる。そこで、1年に1回とか半期に1度ずつ、といった支払方法が選択されるわけです。それも損金にすることができます。
 

ただし、それは、先に述べたように「事前に税務署に届けを出して、届け出た金額を届け出た日に支払う」のが大前提です。もし、それが満たせなかったら、「原則として、その全額が損金不算入となる」(法人税法基本通達9-2-14)というのが国税当局の見解ですから、注意が必要なのです。
 

税務署への届け出は、「株主総会の決議の日から1ヵ月以内」「決算から4か月以内」のいずれか早い日が期限になります。書類の作成、税務署への届け出が必要なぶん、「定期同額給与」よりも手続きに手間がかかると言えるでしょう。
 

それにしても、国税庁は、どうしてこれほど厳しく役員報酬のこの支払方法に「縛り」をかけるのでしょうか? 期末も迫ってくる中、計画以上に会社の利益が伸びていたとします。素直に喜びたいところですが、それは「高い法人税を払わなくてはならなくなる」ことも意味します。なんとか今から利益を圧縮できないか? そうだ、役員報酬を上乗せして、損金を膨らませばいい――。それが許されれば、法人税を支払う人間はいなくなるかもしれません。「税逃れのための役員報酬の“操作”は認めない」。国税当局の意思がそこにあるのを理解しておくことは、無意味ではないでしょう。

報酬が多かった=×、少なかった=×、払わなかった=〇。しかし、残るリスク

あらためて、役員報酬の支払いが届け出通りに行われなかった場合にどうなるのかをみておきます。
 

a)届け出金額よりも多く支給したら=増額した差額分だけでなく、報酬の「全額」が損金不算入になってしまいます。「100万円を支払う」と届け出ていて、実際には150万円の報酬額だったら、150万円が丸々損金と認められません。「想像以上に利益が出たから、もらっておこう」というのは、やめたほうがいいでしょう。
b)届け出金額より少なく支給したら=やはり、原則として減額して支給した「全額」が、損金不算入です。
では、c)「100万円を支払う」と届け出たのに、1円も支払わなかった場合――は、どうでしょう? 支払額0円ですから、そもそも損金にはなりえません。このケースでは、「不算入だと法人税が嵩む」という問題は、起こらないことになります。
 

では、「役員報酬なし」のリスクはゼロなのでしょうか? 実は、別の問題が生じる可能性を頭に入れておく必要があります。考慮すべきことは、2つあります。
 

第1に、役員には「報酬請求権」がある、ということです。会社が事前確定届出書を税務署に提出すると、その中身は会社の意思決定だけでは取り消せません。もし、「業績が思わしくないので、今度の役員報酬はなしにします」と会社が決めたとしても、役員側の「もらう権利」まで消滅はしないのです。
 

報酬請求を消滅させるためには、役員の同意が不可欠。同族会社の場合、そのような状況になっても、「まあ、仕方ない」で片付くことが実際には多いと思いますが、世の中は何が起こるかわかりません。特に「同族」以外の役員が名を連ねているような場合には、トラブルの可能性、なきにしもあらず。「いざという時には、役員報酬ゼロでしのげばいい」といった安易な考えで金額を決定するのは、避けるべきでしょう。
 

第2のリスクは、報酬が支払われなかった役員に、源泉所得税が課せられるかもしれないことです。実際に支払いがないのに所得税というのは理不尽な感じがしますけど、税務上は「支給日の到来前に辞退の意思を表示しない場合は、その支給の有無に関わらず原則源泉所得税を課税する」(所得税法基本通達29-10の反対解釈)というルールが存在するのです。
 

では、どうしたらいいのか? やむなく事前確定届出給与を支給しないことにした場合には、支給日の前に取締役会で、支給しないということと、役員が報酬を辞退したことを決議して、取締役会議事録に残すのがベストです。そうしておけば、2つのリスクは回避することができるはずです。報酬を受け取れない役員をきちんと納得させることが前提になるのは、言うまでもありません。

まとめ

役員報酬を損金算入できなかったら、経営には打撃です。業績などを見据えた、適切な金額設定が必要になります。「事前確定届出給与」を採用する場合には、この分野に詳しい税理士に相談してみることをお勧めします。

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