「4~6月は残業しない方が良い」はウソ? 社会保険料と年金受給額の比較 | MONEYIZM
 

「4~6月は残業しない方が良い」はウソ?
社会保険料と年金受給額の比較

「社会保険料が高くなってしまうため4~6月には残業をしないほうが良い」という話を聞いたことはありませんか? 今回は、本当にそうなのかを検討します。

社会保険料の決め方

社会保険料というコスト

基本的に社会保険料は、大抵の企業にとって払わずには通れない出費です。従業員ひとりにつき、月単位で換算してその人の月収の1~2割程度の額を企業側で納める必要があり、これが全従業員分となるとかなり高額になります。この先少子高齢化が進む中、一般的な企業にとって社会保険料は、抑えられるなら抑えたい負担と言えます。

社会保険の種類

社会保険は、いくつかの保険をまとめた総称です。広義には、厚生年金保険、雇用保険、医療保険、介護保険、労災保険の5つを指し、狭義には厚生年金保険、雇用保険、健康保険の3つを指します(この場合、雇用保険と労災保険は、社会保険と区別され労働保険と称されることもあります)。また、健康保険のみで社会保険を意味することもあります。この記事では以下、狭義の3つをまとめて社会保険と呼んでいきます。

  • 厚生年金保険
    主に企業に勤める人が加入するもので、65歳から支給される老齢年金のほか、亡くなったり傷病により障害が残ったりした場合にもお金を受け取ることができます。なお、これと似たものに国民年金がありますが、こちらは国民全員が対象となり支払うもので、厚生年金保険は国民年金に上乗せされて受け取ることになります。
  • 雇用保険
    失業中の生活保障、育児や介護と就業の両立といった、雇用全般をサポートする保険です。企業に勤める人が「1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上雇用される見込みである」という条件を満たす場合、雇用保険への加入は義務となります。
  • 健康保険
    医療制度利用のための保険で、加入者は医療的なサービスを受ける際の負担額などが軽減されます。大手企業などでは自前の健康保険組合があり、ない場合は全国健康保険協会(協会けんぽ)を利用することになります。主に企業に勤める人を対象とするのがこちらで、自営業の人などは代わりに国民健康保険に加入します。

保険料の計算方法

  • 厚生年金保険
    企業と従業員で半分ずつ支払う労使折半であるため、企業の出費は「標準報酬月額(後述)×厚生年金保険料率×1/2」で求められます。厚生年金保険料率は、2004年以降段階的に引き上げられていましたが、2017年9月から3%に固定されました。
  • 雇用保険
    企業と従業員で支払う額が異なり、それぞれの率は業種と年度により変動し、雇用保険料率として毎年公表されます。企業の出費は「毎月の給与×雇用保険料率」で求められます。
  • 健康保険
    厚生年金保険と同様、企業と従業員で半分ずつ支払う労使折半であるため、企業の出費は「標準報酬月額×健康保険料率×1/2」で求められます。健康保険料率は、所属する組合や協会の指定により異なります。

標準報酬月額とは

計算方法

上記の計算式で登場した標準報酬月額とは、社会保険料以外にも適用される、特定の方法で算出された報酬の値です。具体的には、まず個々の従業員への報酬の支払いについて、3か月分を平均して報酬月額を算出します。この報酬月額を、金額によって段階的に等級分けされた表と照らし合わせ、当てはまる等級に振り分けられた値が、その人の標準報酬月額となります。標準報酬月額は、原則として4~6月の3か月(支払いの基礎となる日が17日未満の月は除く)の報酬の平均によって決まり、その年の9月から翌年8月まで適用されます。それゆえ、4~6月に報酬として支払う金額が高くなるほど、その年全ての保険料も高額になってしまうために損だと言われてきました。

「報酬」の対象

注意点として、ここで言う報酬には、給与のみでなく、各種手当など、働きに対して年4回以上支給されたお金や物も含まれます。また、標準報酬月額の算出における例外として、繁忙期などを理由に4~6月の報酬月額が、年間を通して計算した報酬月額と大きく乖離する際は、通常の計算での報酬月額と、前年7月~当年6月で計算した報酬月額に2等級以上の差があり、これが業務上毎年発生する場合、被保険者の同意を条件に、年間平均で算出した報酬月額を適用することができます。

健康保険の標準報酬月額

東京都の健康保険の標準報酬月額は以下の通りです。下の表を見て等級を調べます。例えば報酬月額が26万円の方は等級が20で、標準報酬月額は26万円になります。この標準報酬月額を使って健康保険料と厚生年金保険料を算出するわけです。
 

等級 報酬月額 標準報酬月額
1 0 ~ 63,000 58,000
2 63,000 ~ 73,000 68,000
3 73,000 ~ 83,000 78,000
4 83,000 ~ 93,000 88,000
5 93,000 ~ 101,000 98,000
6 101,000 ~ 107,000 104,000
7 107,000 ~ 114,000 110,000
8 114,000 ~ 122,000 118,000
9 122,000 ~ 130,000 126,000
10 130,000 ~ 138,000 134,000
11 138,000 ~ 146,000 142,000
12 146,000 ~ 155,000 150,000
13 155,000 ~ 165,000 160,000
14 165,000 ~ 175,000 170,000
15 175,000 ~ 185,000 180,000
16 185,000 ~ 195,000 190,000
17 195,000 ~ 210,000 200,000
18 210,000 ~ 230,000 220,000
19 230,000 ~ 250,000 240,000
20 250,000 ~ 270,000 260,000
21 270,000 ~ 290,000 280,000
22 290,000 ~ 310,000 300,000
23 310,000 ~ 330,000 320,000
24 330,000 ~ 350,000 340,000
25 350,000 ~ 370,000 360,000
26 370,000 ~ 395,000 380,000
27 395,000 ~ 425,000 410,000
28 425,000 ~ 455,000 440,000
29 455,000 ~ 485,000 470,000
30 485,000 ~ 515,000 500,000
40 810,000 ~ 855,000 830,000
41 855,000 ~ 905,000 880,000
42 905,000 ~ 955,000 930,000
43 955,000 ~ 1,005,000 980,000
44 1,005,000 ~ 1,055,000 1,030,000
45 1,055,000 ~ 1,115,000 1,090,000
46 1,115,000 ~ 1,175,000 1,150,000
47 1,175,000 ~ 1,235,000 1,210,000
48 1,235,000 ~ 1,295,000 1,270,000
49 1,295,000 ~ 1,355,000 1,330,000
50 1,355,000 ~ 1,390,000

標準報酬月額決定のタイミングは?

標準報酬月額の決定は3つのタイミングで行なわれます。

資格取得時に決定する

標準報酬月額は従業員を雇用して、社会保険の被保険者資格を取得した時に行なわれます。しかし入社入試した時点では報酬は支払われていないため、1カ月あたりの報酬の見込み額を届け出ます。
 

その年の8月までは届け出た標準報酬月額を使い、9月以降は定時決定を行ないます。ただし6月1日以降に資格を取得し、随時改定にも該当しない場合は、翌年の8月まで資格取得時の標準報酬月額が使われます。
 

定時決定

定時決定はその年の4月から6月までの実際の報酬月額を基準にして、7月に毎年行います。
7月に行われた標準報酬月額の結果は9月から翌年8月まで適用されます。正社員の場合は、4月~6月で17日以上勤務があった月の平均を使います。
 

随時改定

随時改定は基本給が大きく変わったときに、行なわれます。たとえば昇給があった場合は、3カ月査定期間があり、月平均額が2等級以上変動した場合に行なわれます。

4~6月の残業は本当に損なのか?

厚生年金保険の場合

厚生年金保険の標準報酬月額は31の等級に分かれており、始めの1等級は報酬月額が93,000円未満、31等級は605,000円以上がそれぞれ該当します。もし通常の報酬が月605,000円をすでに超えているのであれば、どんなに残業を増やしても標準報酬月額は報酬月額の範囲の上限である62万円から変わりません。それ以外の場合でも、通常の報酬に適用される等級から外れない範囲内でなら残業を増やしても損にはならず、むしろ報酬に対する保険料の割合は低下します。一方、残業して通常の報酬の等級よりも上の等級になってしまうと、4~6月に働けば働くほど、本来の報酬から乖離してその1年間の保険料が高くなるので、損になります。したがって、厚生年金保険に関して言えば、4~6月の残業で損になるかどうかは、通常の報酬額と残業による増額の程度次第で決まります。
 
ただし、従業員の立場から見れば、厚生年金保険料を多く払えば将来的に貰える金額も増えるので、短期的な観点と長期的な観点とでは、損得のありようも自ずと変わってくるでしょう。厚生年金受給額の計算は大変複雑ですが、「標準報酬月額×加入月数×0.55%」という式で簡易的に概算を出すことができます。ここでは仮に、通常の報酬は30万円ほどの従業員が、残業代の影響により、標準報酬月額が通常よりも2等級上の34万円になったというケースを想定してみましょう。この場合、厚生年金保険料は27,450円から31,110円となり、年間で43,920円の差となります。先ほどの式を用いて、この1年間だけを考慮した厚生年金受給額を計算すると、標準報酬月額30万円では19,800円、34万円では22,440円と、年額でおよそ2,500円の差が出ることになります。これを損とするか得とするかは、老齢年金をどれくらいの期間受給し続けられるかによるでしょう。なお、ここでの計算はあくまで厚生年金保険だけを検討したもので、健康保険や雇用保険は考慮に入れていない点に注意してください。

標準報酬月額が増えると受給額も増えるもの

社会保険により受給できるお金のなかで、厚生年金保険と同様、標準報酬月額が適用され、かつ支払った額に応じて受給額も増えるものが他にもいくつかあります。以下、その代表例を取りあげます(上限額や期間など詳細は別途確認してください)。

  • 遺族厚生年金
    支給年額は、「(平均標準報酬月額×125/1,000×平成15年3月までの加入月数+平均標準報酬額×5.481/1,000×平成15年4月以降の加入月数)×3/4」で求められます。式中の平均標準報酬月額とは、被保険者であった期間中の標準報酬月額の平均値のことで、平均標準報酬額は、期間中の標準報酬月額と賞与の合計額の平均値を指します。標準報酬月額が増えれば支給年額も増えるので、その分保障も手厚くなります。
  • 傷病手当
    支給日額は、「支給開始以前の12か月間の各月の標準報酬月額の平均×1/30×2/3」で求められます。こちらも式の通り、標準報酬月額が増えれば支給日額も増えます。
  • 出産手当
    支給日額は、「支給開始以前の12か月間の各月の標準報酬月額の平均×1/30×2/3」で求められます。こちらも同様に、標準報酬月額が増えれば支給日額が増えます。
  • 育児休業給付金
    支給日額は、6か月まで「休業開始時賃金日額×67/100」、6か月以降は「休業開始時賃金日額×50/100」で求められます。式中の休業開始時賃金日額とは、育児休業開始前6か月間の総支給額を180で除した値のことです。標準報酬月額と同様、賞与を除く残業代などの各種手当も考慮されるので、通常のケースでは標準報酬月額が増えれば支給日額も増えます。

本当に損なのか

結論として一概に損とは言えず、出費にどのような価値を見出すかにより結論も変わります。払うべき社会保険料が増えても、その代わりに貰える手当なども増えれば損していないと見ることもできます。逆に、特に手当などを貰う予定がなければ、等級を上げて社会保険料を多く払う事は損だと捉えることもできます。この際に大切であるのは、損か否かよりむしろ、どのようにコストとリターンを調整するか、将来的にどのような価値を期待するかと言えるでしょう。

 

☆ヒント
このように、4~6月に残業すると社会保険料が増えるからと言って、標準報酬月額が適用される各種手当等を考慮すれば、必ずしも損であるとは言えません。こうした実情は、生半可な知識で損得勘定を行うと手間が掛かったり誤った言説に踊らされたりする可能性が高いです。社会保険のような複雑な制度に関しては、その道に精通した税理士に依頼する方が迅速かつ精度の高い情報を得ることができます。ビスカスでは優秀な税理士を多数ご紹介しておりますので、この機会に是非ご利用をご検討ください。

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4月~6月は残業しないほうが税金が安くなると聞くけど本当?【フリーランスの税金】|3分でわかる!税金チャンネル

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まとめ

4~6月に残業すると損するというのは、社会保険の一面しか見ていない意見です。本来の目的や総合的な利益を見失わないように、社会保険料が増えても残業するのか、今は多く払っても後から多く貰うのかなど、多面的に判断することが重要と言えます。

清水瑛介
東京大学卒。現、同大学院所属。
不動産投資に長らく関わっており、不動産に関する税制や相続が得意分野。
税理士事務所でアルバイトとして従事。
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