従業員がケガや病気などで入院することがあります。そんなときに法人が保険に加入していると、保険会社から入院給付金を受け取ることができます。では、この受け取った入院給付金は、会計上どのような取り扱いになるのでしょうか。ここでは、受け取った入院給付金や、従業員に渡した見舞金の処理方法と税金について解説します。
法人が入院給付金を受け取った時の処理方法
受け取った入院給付金は収益になる
法人が従業員のために医療保険に加入している場合、従業員がケガや病気などで入院すると、保険会社から入院給付金を受け取ります。受け取った入院給付金は法人にとっては収益となるため、収益科目で処理をする必要があります。入院給付金は本業の収益ではありません。そこで、一般的には勘定科目「雑収入」を使って処理します。
例)従業員が入院したため、保険会社から入院給付金10万円が普通預金に入金された。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 10万円 | 雑収入 | 10万円 | 入院給付金 |
入院給付金を従業員が直接受け取った場合の処理方法
法人が保険会社と契約する際、保険金の受取人を指定します。受取人を法人にすることもできますし、従業員本人やその家族にすることも可能です。入院給付金の受取人を従業員本人にしている場合、従業員が入院すると入院給付金は従業員本人の口座に振り込まれます。
では、この場合の法人の処理はどうなるのでしょうか。このケースでは、法人は全く取引に関与していません。あくまで保険会社と従業員の間のやり取りです。そのため、法人では何も処理をする必要はありません。もちろん仕訳も不要です。
従業員に見舞金を支払った場合の処理方法
従業員に支払った見舞金は経費になる
従業員が入院し、法人が保険会社から入院給付金を受け取った場合、入院した従業員に見舞金を支払うという法人も少なくないでしょう。では支払った見舞金は、どのような取り扱いになるのでしょうか。原則、従業員に支払った見舞金は経費になります。一般的に、従業員に支払った見舞金は「福利厚生費」の勘定科目で処理をします。
例)従業員が入院したので、見舞金5万円を普通預金から支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
福利厚生費 | 5万円 | 普通預金 | 5万円 | 見舞金の支払い |
見舞金が多額だと、従業員の給与になることも
見舞金は法人の経費になります。では、経費になるなら、節税のために多額の見舞金を支払おうと考える法人も現れるかもしれません。入院したのが法人の役員であるなら、なおさらです。
しかし、これでは見舞金の本来の意味が損なわれてしまいます。そこで、見舞金が多額になる場合は、給料にすることになっています。見舞金が給料とみなされた場合の仕訳は次のようになります。
例)従業員が入院したので、見舞金50万円を普通預金から支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
給料手当 | 50万円 | 普通預金 | 50万円 | 見舞金の支払い |
※実際は、後述する社会通念上相当とされる金額を超えた部分が、給料扱いになります。
給料手当であっても会社の経費になります。ただし、給料手当になる場合は、従業員に所得税などが課されることになり、見舞金としての効果は薄くなります。また、通常は年末調整で見舞金部分を調整し、差額分の所得税を徴収(または還付額の減少)することになります。
ここで、注意したいのが役員への見舞金です。役員であっても見舞金の金額が適切であれば、もちろん会社の経費になります。では、役員への見舞金が多額の場合はどうなるのでしょうか。役員への見舞金が多額の場合は、従業員と同じように役員への給料(役員報酬)になります。ただし、役員の臨時の給料は一定のものを除き、会社の経費になりません。そのため、役員への見舞金が多額の場合は、会社の経費になりません。しかし、役員の給料には違いないので、所得税などは課されます。この場合は、いったん役員報酬で処理し、法人税の計算時に否認します。
例)従業員が入院したので、見舞金50万円を普通預金から支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
役員報酬 | 50万円 | 普通預金 | 50万円 | 見舞金の支払い |
※後述する社会通念上相当とされる金額を超えた部分が、経費として否認されます。
見舞金を給与にしないために 入院給付金の注意点
では、見舞金を給料にしないためには、どのようにすべきなのでしょうか。見舞金を給料にしないための注意点として、「慶弔見舞金規定」と「社会通念上相当とされる金額」があります。それぞれを見ていきましょう。
慶弔見舞金規定を作成しよう
見舞金は、絶対に法人が従業員に支払わなければならないものではありません。そのため、法人は特別な人だけに見舞金を支払うということができます。しかし、法人税では特定の人のみに支給されるものは、福利厚生費にはなりません。そこで、特別な人のみに支給することを防ぐためにも、慶弔見舞金規定を作成し、一定の支給条件を定めておく必要があります。慶弔見舞金規定は特別なフォーマットに則る必要はありません。ただし、見舞金を給料とみなされないためにも、次のことは記載しておきましょう。
- 支給対象者(原則、すべての従業員)
- 勤続年数
- 雇用形態
- 支給される金額
- 支給される条件(何日以上の入院など)
社会通念上相当とされる金額の範囲とは
見舞金を給料にしないための注意点のもう1つが、「社会通念上相当とされる金額」です。
たとえ、慶弔見舞金規定で見舞金の支給金額が決まっていても、その金額が多額であれば、見舞金は給料とみなされます。社会通念上相当とされる金額、つまり、一般的な金額であれば、見舞金は経費に認められます。
では、社会通念上相当とされる金額とはいくらなのでしょうか。見舞金の社会通念上相当とされる金額は、法人税法では定められていません。そこで、参考になるのが、平成14年6月13日に裁決された国税不服審判所の判例です。この裁判は、建築工事業を営む同族会社が、取締役会長に支払った役員報酬と役員退職給与が高額かどうかと、入院中に支払った見舞金が福利厚生費にあたるかどうかについて争われています。
このうち、見舞金については、いくつかの類似法人の支給状況を検討し、福利厚生費としての見舞金の上限は、入院1回あたり5万円が相当と認定しました。入院1回あたり5万円の金額を超える部分については、取締役会長に対する給料(賞与)に該当すると判決しています。
法人税法上の規定がないため、今でも、この判決の5万円が、社会通念上相当とされる金額として考えられています。そのため、慶弔見舞金規定に記載する見舞金の金額も5万円以下とし、実際の支払いも5万円以下にしているケースが多いようです。ただし、これはあくまで、通例です。実際には、会社や入院の状況などにより異なることもあります。そのため、慶弔見舞金規定で金額を定める前に一度、税理士などの専門家と相談したほうが良いでしょう。
まとめ
法人が保険に加入していると、保険会社から入院給付金を受け取ります。この受け取った入院給付金は会社の収益となるため、雑収入などの収益科目で処理をする必要があります。また、入院している従業員に見舞金を支払った場合には、金額が多額でなければ福利厚生費として経費にすることができます。
金額が多額の場合は給料となるので、注意が必要です。見舞金を給料とみなされないためには、「慶弔見舞金規定」と「社会通念上相当とされる金額」の2つに注意する必要があります。ぜひ、この記事を参考に、入院給付金や見舞金の適切な処理を行いましょう。
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