美容師は「雇われる方法」と「雇われない方法」を選択することができます。それぞれのメリット・デメリットはさまざまですが、目安の一つとして税金面が挙げられます。雇われない美容師は自分で確定申告をするなど、税金に関する選択肢が複数あります。そこで、今回は税金面で得する方法について徹底解説します。
美容師にかかる税金とは?
美容師にかかる税金について説明します。
フリーランスと雇用契約の美容師にかかる税金
同じ美容師でもフリーランスと雇用契約とではかかる税金等が異なります。それでは、詳しく見ていきましょう。
(1)フリーランス
美容師免許が必要な職種かどうかによって、かかる税金等が少し異なります。
①美容師免許が必要な職種
美容師法第2条に規定するパーマネントウエーブ、結髪、化粧などを施すスタイリストなど美容師(理容師)免許が必要な職種は次の税金等がかかります。
- 所得税(復興特別所得税を含む)
- 個人住民税
- 個人事業税(5%)
- 消費税
- 国民年金
- 国民健康保険
②美容師免許が不要な職種
ネイルサロン、リラクサロンなどの美容師免許を必要としないサロン業は次の税金等がかかります。
- 所得税(復興特別所得税を含む)
- 個人住民税
- 消費税
- 国民年金
- 国民健康保険
美容師免許が必要な職種と違い、個人事業税が課税されないのが特徴です。
(2)雇用契約
雇用契約の美容師は給与所得者であり、次の税金等がかかります。
- 所得税
- 個人住民税
- 厚生年金
- 健康保険
- 雇用保険
なお、美容師にかかる労災保険は雇用主の美容室が全額負担します。
フリーランスの美容師は国民健康保険に加入しない方法もある
フリーランスの美容師は国民健康保険に加入する代わりの選択肢があります。その場合、健康保険料の計算方法などが異なります。
(1)国民健康保険組合
国民健康保険組合とは、国民健康保険に代わる制度です。
(2)健康保険任意継続制度
健康保険任意継続制度とは、美容室に勤務していた時に加入していた健康保険を最長2年間、任意で継続できる制度です。
フリーランスの美容師が税金面で得する方法は?
フリーランスの美容師は雇用契約の場合と違い、税金面で得する方法を自分の意思で実行することができます。おもに「節税対策」と「複数ある健康保険(国民健康保険、国民健康保険組合、健康保険任意継続制度)を上手に選択すること」が挙げられます。
フリーランスの美容師ができる節税対策
フリーランスの美容師ができる節税対策について紹介します。
開業届・青色申告承認申請書を提出する
フリーランスの美容師にとって青色申告の特典を利用することが節税対策の第一歩であり、事前に手続きが必要になります。それでは、手続き方法と青色申告の特典について説明します。
(1)手続き方法
開業届と青色申告承認申請書を提出する必要があり、提出期限は次の通りです。
①開業届
開業届は税務署と各都道府県に提出します。税務署にはフリーランスの美容師を始めた日から1ヵ月以内に提出する必要があります。一方、都道府県の場合、地域ごとで提出期限が異なります。東京都の場合はフリーランスの美容師を始めた日から15日以内に提出しなければなりません。
②青色申告承認申請書
フリーランスの美容師を始めた日に応じて次の提出期限までに、税務署に提出する必要があります。
- 1月1日~15日までに始めた場合:始めた年の3月15日
- 1月16日以降に始めた場合:始めた日から2ヵ月以内
(2)青色申告の特典
青色申告のおもな特典は次の通りです。
①青色申告特別控除
現金支出が伴わないのにもかかわらず、最大65万円の所得控除が受けられます。
②30万円未満の備品を全額必要経費に計上する
備品やパソコンなどを全額経費に計上できる購入代金の範囲は原則10万円未満です。しかし、青色申告の特典により、全額必要経費に計上できる購入代金の範囲が30万円未満までに拡大されます。
できるだけ必要経費を計上する
フリーランスの美容師が必要経費に計上できる、おもな項目は次の通りです。
- 交通費:自己負担した通勤交通費やセミナー会場までの電車代など仕事に関係ある交通費
- セミナー代:スキルアップのセミナーなどの参加費用
- 通信費:インターネットプロバイダー代などのうち、事業割合(全体のうち仕事に使った割合)分
- 税理士報酬:確定申告書の作成代金などで税理士に支払った費用
- 美容室指定のユニフォーム代:客観的に仕事用であることが証明できるユニフォーム代(私服代はたとえ仕事用としても、必要経費として認められない可能性が高い傾向にあります)
- その他自己負担した費用:ハサミ代や顧客への接待費用など
帳簿を付ける
帳簿を付けることは青色申告の要件の一つであり、特典を利用するために必要になります。確実に青色申告の要件を満たす帳簿を作成する方法は、会計ソフトを利用することでしょう。領収書などの証憑書類を参照し、会計ソフトにデータを入力することで、帳簿が自動作成されます。
確定申告書を申告期限(3月15日)までに提出する
最大65万円の青色申告特別控除を受けるための条件の一つに、申告期限までに確定申告書を提出することが挙げられます。提出期限より遅れて提出すると、青色申告特別控除は10万円に減額されてしまいます。
電子申告で確定申告をする
2020年の所得税(2021年の確定申告)から青色申告特別控除は「65万円→55万円」に減額されます。しかし、電子申告(または電子帳簿保存)をしている場合に限り、継続して青色申告特別控除65万円の所得控除が受けることができます。
最も得する健康保険は?~種類ごとの健康保険料の計算方法~
得する健康保険の尺度として、健康保険料の視点から計算方法について説明します。
国民健康保険
国民健康保険の健康保険料は自治体ごとで計算方法が異なりますが、世帯単位の前年所得金額(美容師の仕事のもうけ)をベースに計算する傾向にあります。東京都練馬区の場合、2019年度の39歳以下の加入者の計算式は次の通りです。
※世帯単位の所得金額とは、確定申告をした合計所得金額(収入金額-必要経費)から住民税基礎控除額(33万円)を控除した残額のことを指します。
(例)40歳未満の単身世帯
合計所得金額192万円の場合、健康保険料は次の通りになります。
- 世帯単位の所得金額:合計所得金額192万円-住民税基礎控除33万円=159万円
- 所得割額:世帯単位の所得金額159万円×9.49%=15万891円
- 均等割額:5万2,200円×加入者1人=5万2,200円
- 健康保険料:所得割額15万891円+均等割額5万2,200円=20万3,091円
国民健康保険組合
国民健康保険組合の健康保険料は所得金額に関係なく、毎月定額なのが特徴です。たとえば、東京美容国民健康保険組合の場合、39歳以下の加入者の健康保険料は次の通りです。
事業主組合員(フリーランスの美容師本人)1人当たり月額 | 20,000円(均等制) |
---|---|
同一世帯家族1人当たり月額 | 9,500円(人頭割~組合員・世帯主負担) |
同一世帯家族(未就学児)※義務教育就学前1人当たり月額 | 6,000円(人頭割~組合員・世帯主負担) |
(東京美容国民健康保険組合のHPを参照、筆者加工)
健康保険任意継続制度
健康保険任意継続制度の健康保険料は退職時の標準報酬月額に基づいて計算し、金額は2年間変わりません。また、国民健康保険と国民健康保険組合と違い、加入した扶養家族に対して保険料がかからないのが特徴です。そのため、たとえ家族が増えても保険料は増額されません。
まとめ
フリーランスの美容師は節税対策や加入する健康保険を自分の意思で選択できることが雇用契約の美容師との違いでしょう。そのため、青色申告や健康保険などの制度を活用し、税金面で得する方法を上手に選択しましょう。
▼参考URL
- http://www.tax.metro.tokyo.jp/kazei/kojin_ji.html
- http://www.kokuho-tokyobiyo.or.jp/kanyudattai/index.html
- https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat650/r313
- https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/h32_kojogaku_change.pdf
- https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/nenkinhoken/kokuminkenkohoken/hoken_hokenryo/keisan_example.html
- http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=332AC1000000163