「自分も社会に役立つ活動がしたい」。そんなニーズを持つ人が、若い世代でもシルバー層でも、増えているようです。そういう気持ちを形にする器になりうるのが、「NPO法人」。でも、それがいったいどういうものであるのか、正確に理解している人は少ないのではないでしょうか。今回は、その設立の仕方から、「できること」まで、わかりやすく解説しましょう。
設立にお金はかからない
「NPO」は、「Non-Profit Organization」の略称で、企業のように儲けることを目的とはしない「非営利組織」のこと。民間の「ボランティア団体」などは、広義のNPOと言っていいでしょう。そうした任意団体が法人格を持ったのが、「NPO法人」です。日本では、1998年にできた法律に基づいて「特定非営利活動法人」と呼ばれています。法人化することによって期待できるのは、①社会的な信用力、認知度が高まる、②団体名義での契約が可能になり、事業の受託などがしやすくなる――といったメリットになります。
法人といっても、普通の民間企業とは大きな違いがあります。まず「設立の仕方」。初期費用は、法人の実印製作費、登記の費用などが必要になるだけで、株式会社のように資本金や登録免許税といったものはかかりません。しかし、設立には所轄庁、東京都だったら都の生活文化局の担当課に申請した後、その審査を受ける必要があります。
「決算」にも違いがあります。賃借対照表と損益計算書がメインとなる株式会社に対して、NPO法人の場合は、毎年事業収益計算書や財産目録の提出が求められるのです。こうした厳格な縛りがあるのは、NPO法人には、後で説明するような税制上の優遇措置が認められるから、と考えていいでしょう。
できる活動は20種類
株式会社は、定款に「やりたいこと」を記せば、幅広い事業を展開することが可能。でも、NPO法人は、そうはいきません。法律に「できること」が決められていて、ここから外れる活動は許されないのです。定められた活動は、次の表にある20種類(活動分野としては18種類)になります。
1. | 保健、医療又は福祉の増進を図る活動 |
2. | 社会教育の推進を図る活動 |
3. | まちづくりの推進を図る活動 |
4. | 観光の振興を図る活動 |
5. | 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動 |
6. | 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動 |
7. | 環境の保全を図る活動 |
8. | 災害救援活動 |
9. | 地域安全活動 |
10. | 人権の擁護又は平和の推進を図る活動 |
11. | 国際協力の活動 |
12. | 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動 |
13. | 子どもの健全育成を図る活動 |
14. | 情報化社会の発展を図る活動 |
15. | 科学技術の振興を図る活動 |
16. | 経済活動の活性化を図る活動 |
17. | 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動 |
18. | 消費者の保護を図る活動 |
19. | 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動 |
20. | 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動 |
「ここから外れる活動は許されない」と言いましたが、想定される社会貢献活動は、ほぼこの中に含まれる、と考えることもできます。ちなみに、何度かの法改正を経て、活動内容は時代に合わせて少しずつ拡充されてきました。
「非営利」なのだから、利益を上げるのはNG?
NPO法人に対する誤解でよくあるのが、「『非営利』なのだから、利益を上げてはいけないのだろう」というもの。実は、「儲けることを目的にしていない」と「利益を出してはいけない」は、イコールではないのです。この場合の「非営利」とは、「利益を分配してはいけない」ということ。活動資金などに充てるのならば、事業収入を上げることも認められます。あえて言えば、ある程度の安定した事業収入を確保していかなければ、活動自体を円滑に進めていくことは難しいのではないでしょうか。
また、「スタッフは、みんなボランティアなのだろう」というのも、大いなる誤解です。それでは、やはり永続的な活動を維持するのは困難になってしまうかもしれません。職員に給料を支払うのもOK。それは、「利益の配分」ではなく、経費として扱われるのです。
NPO法人への寄付は課税されない
では、NPO法人の税制上の優遇措置に話を進めましょう。NPO法人の財源は、会費、寄付金、補助金・助成金、そして事業収入の4つあります。このうち、会費、寄付金、補助金には、原則として課税されません。一般の企業が寄付を受けた場合には、法人税の課税対象になるのですが、NPO法人の場合はならないのです。これが、資金面での最大のメリットと言えるでしょう。
一方、事業収入は、課税される場合とそうでない場合があります。活動が、「物品販売業」「不動産販売業」「金銭貸付業」など、法人税法に定められた「収益事業」(34種類あります)に該当すれば、課税。そうでなければ非課税なのです。例えば、やっているのが「保育事業」であれば、税金がかかることはありません。ただ、実際には、活動が収益事業かどうかの線引きは微妙な部分も多く、この分野に詳しい税理士によれば、「非課税でいけるのに税金を払い続けているといったケースも少なくない」そうです。
このような一般のNPO法人に加えて、税制上、さらに優遇される「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)制度」という仕組みがあります。これに認定されると、法人への寄付に課税されないだけではなく、寄付した人も税額控除が受けられるのです。「納める税金が減るのだったら、その分あのNPO法人に寄付して社会貢献しよう」というインセンティブとして働きますから、寄付額は間違いなく増えるはず。このほか、「法人が寄付をした場合には、経費として扱える寄付金の限度額が増える」、「相続人が相続財産を寄付したら、その分の相続税は非課税になる」ことが定められています。
ただし、これだけの優遇が受けられるのですから、認定のハードルは、低くはありません。例えば、特定の法人や親族グループに支配されていないか、役員などに特別な利益を与えていないか、公益のためという目的に反していないか、などの点が厳しくチェックされ、より透明性の高い情報公開も要件とされているのです。なお、設立後5年に満たないNPO法人は、やや要件を緩め、部分的な優遇を受けられる「特例認定NPO法人」の指定を受けることができます。
まとめ
まじめに社会貢献活動をしようという人にとって、税金の優遇が受けられるNPO法人の仕組みは強い味方。認定NPO法人になれれば、さらに活発な活動を展開できる道が開けるでしょう。ただし、実際に運営していくうえでは、一般企業とは違った苦労もあります。知識と実績のある税理士など、専門家のアドバイスを受けてみるのも、いいかもしれません。