仕事先に行ったり、遠方に出かけたりする場合には交通費がかかり、取引先の接待や社内の懇親会に参加すると接待交際費がかかるのは、サラリーマンでも個人事業主でも同じです。では個人事業主の場合、これらの費用は経費になるのでしょうか。
この記事では、交通費・接待交際費と経費の関係や注意点について解説します。
個人事業主とサラリーマンの交通費の取り扱い
交通費は、個人事業主であってもサラリーマンであっても、頻繁に発生する支出です。しかし、個人事業主とサラリーマンでは交通費の取り扱いが異なります。ここでは、それぞれの交通費の取り扱いについて確認します。
個人事業主の交通費の取り扱い
個人事業主は、自ら事業を行い、売上を増やしていきます。もちろん売上を増やすためには、電車や車などで取引先や仕事場などに行く必要があります。時には遠方の場合もあります。これらは、事業を行うために必要不可欠なものです。このように事業を行うために必要な交通費は、個人事業主の経費になります。
個人事業主の所得税の金額は、売上から仕入や交通費などの必要経費を差し引いた利益(所得)に税率を乗じて計算します。交通費が多くなると、利益(所得)が低くなるため、所得税の金額も低くなります。
サラリーマンの交通費の取り扱い
サラリーマンも、個人事業主と同じように、電車や車などで取引先や仕事場などに行く必要があります。時には遠方の場合もあります。では、これらの交通費はサラリーマンの経費になるかというと、そうではありません。
サラリーマンの場合、勤めている会社までの交通費は、定期代などの名目で会社が負担します。また、取引先への交通費も、後で精算などを行い会社が負担するため、実際にサラリーマンが交通費を負担することは、ほとんどありません。そのため、サラリーマンの交通費は、サラリーマンの経費にならず、所得税にも影響しません(会社の経費になります)。
経費にできる交通費とできない交通費
個人事業主が支払った交通費は、経費になります。しかし、支払った交通費がすべて経費になるわけではありません。経費にできない交通費もあります。そこで、ここでは経費にできる交通費とできない交通費について見ていきます。
個人事業主で経費にできる交通費
個人事業主にとって、交通費は、事業を行うために必要不可欠なものです。そのため、事業に関係ある交通費については経費にできます。個人事業主の交通費は、「旅費交通費」という勘定科目で処理します。旅費交通費は事業で必要な旅費と交通費を処理する科目で、例えば、次のようなものが該当します。
- 電車代
- バス代
- タクシー代
- 高速道路通行料
- 飛行機代
- 宿泊代
- パーキングなどの駐車場料金
- 燃料費
個人事業主で経費にできない交通費
個人事業主が経費にできる交通費は、あくまで売上を増やすため、事業を行うために必要なものだけです。プライベートで支出した交通費は、経費にすることはできません。例えば、家族旅行などの旅費や宿泊費、遊びに行くための電車賃やタクシー代などは経費にすることはできません。そのため、旅費交通費の金額が高くなると、税務調査などで指摘を受ける可能性があります。
タクシー代やパーキング料などの領収書は、時間が経ってから見返しても、それが事業のために支出したものなのか、プライベートの支出なのかを区別できない場合も多いようです。
普段から、事業用の交通費とプライベートの交通費の領収書を分けておくなどの対策が必要となるでしょう。
個人事業主における交通費の注意点
ここからは、個人事業主における交通費の注意点を見ていきましょう。
領収書のでない交通費の処理方法
プライベートの交通費は経費にすることができません。そのため、普段から、事業用の交通費とプライベートの交通費の領収書を分けておく必要があります。では、領収書の出ない交通費はどうすればよいのでしょうか。
まず、その交通費が一般的に領収書がでないものかどうかを判断する必要があります。タクシー代などのように、一般的に領収書が出る交通費を経費にするためには領収書が必要となるため、必ず領収書をもらう必要があります。一般的に領収書が出ない交通費とは、電車代やバス代などです。しかし、領収書など、実際に支払った証拠がなければ、交通費として経費にすることはできません。
そこで、電車代やバス代のように、一般的に領収書がでない交通費では、支払いの都度、出金伝票を作成することで、領収書の代わりにします。ただし、出金伝票には領収書と違い、客観的な証明ができないため、次のことを記載します。
-
- 日付
- 金額
- 交通機関
- 区間
- 何のために電車やバスを利用したのか
ここで重要なのが、何のために電車やバスを利用したのかの記載です。取引先に行くためといった抽象的なものではなく、○○株式会社で打合せをするためなど、具体的な理由が必要となります。
領収書なしでも交通費の精算はできる
領収書がない場合でも、交通費の精算は可能です。出金伝票を書くことで、交通費の支払いを確定申告で経費として認められます。出金伝票には「支払日」「金額」「交通機関名」「利用区間」「理由」を記載する必要があります。
これらの項目を満たしていれば、様式は関係ありません。エクセルで入力して印刷することも可能です。
交通費の支払いにICカードを利用している場合は、ICカードの利用明細を領主所の代わりにすることも可能です。利用明細はインターネット上でダウンロード可能です。
クレジットカードの利用明細も領収書の代わりになりますが、経費として計上するのはカードの使用日です。引き落とし日で計上しないように注意しましょう。
レンタルサイクルやLUUPもできるの?
レンタサイクルやLUUP(以降、ループ)を交通費として経費に計上できます。ただしレンタサイクルやループを交通費として計上するためには、業務に関係する場合に限定されます。たとえば、駅から取引先までの移動などがそれに該当します。
このように、レンタサイクルやループを交通費として経費に計上するかどうかは、使用目的によって異なります。もし経費として計上することができる場合でも、正確なルールや条件を確認することが重要です。
交通系ICカードにチャージしただけでは、経費にならない
キャッシュレス社会が進む現代において、電車やバスを利用するときに、切符を購入したり、小銭を用意したりという人は少なくなっています。電車やバスを利用するときに、交通系ICカードを使っている個人事業主も少なくないでしょう。交通系ICカードでは、先に一定の金額をチャージし、そこから電車代やバス代を支払うタイプのものがあります。
交通系ICカードを利用している場合に問題になるのが、チャージをした時、電車やバスを利用した時のどちらで経費になるのかということです。実は、経費になるのはチャージをした時ではなく、電車やバスを利用した時です。帳簿付けは電車やバスを利用した時のみで良いかというと、そうではありません。
交通系ICカードへのチャージを事業用の現金などで行っている場合、帳簿と手許の現金残高を合わせる必要があるため、チャージ時の帳簿付けも必要です。では、一連の仕訳を具体例で確認しましょう。
・チャージ時
交通系ICカードへ事業用現金2,000円をチャージした
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
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前払金 | 2,000円 | 現金 | 2,000円 | チャージ代 |
交通系ICカードへチャージしただけでは、経費にならないため、一旦、前払金で処理します。前払金は貯蔵品などの勘定科目でも問題ありません。
・電車代300円を交通系ICカードから支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
旅費交通費 | 300円 | 前払金 | 300円 | 電車代 |
・事業に必要な雑貨500円を購入し、交通系ICカードから支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
雑費 | 500円 | 前払金 | 500円 | 雑貨代 |
交通系ICカードから支払った場合の処理は、チャージ時の前払金から支払った処理をします。
・プライベートの雑貨500円を購入し、交通系ICカードから支払った
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
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事業主貸 | 500円 | 前払金 | 500円 | 雑貨代 |
交通系ICカードからプライべートの支出をした場合は、事業主貸で処理します。