会社員時代は自分で税金の計算をする必要はありませんが、個人事業主は違います。自分で税金を計算し、税務署に申告しなければなりません。そのため、個人事業主は会社員時代よりも税金の知識が求められます。そこで、初年度の税金と節税対策について徹底解説します。
開業1年目の税金について解説
開業1年目に知っておくべき税金のアウトラインについて解説します。
確定申告とは
個人事業主は申告納税制度に基づき、自分で確定申告をしなければなりません。確定申告とは、1月~12月までの事業活動における売上、仕入、経費、もうけに相当する所得、所得税などを税務署に申告することをいいます。
税金を納める
確定申告で申告した所得税を納付期限までに納付しなければなりません。納付期限までに納付しないと、金利に相当する延滞税などの余分な税金まで課税されてしまいます。
給与所得に対する住民税・国民年金・国民健康保険も自分で納める
給与所得者の場合、住民税、社会保険は給与天引き後に会社が本人に代わって納めてくれます。しかし、退職後の個人事業主は住民税、国民年金、国民健康保険を自分で納めなければなりません。特に国民年金を納め忘れた場合、将来受け取る年金が減額されてしまう可能性がありますので注意が必要です。
翌年に納める税金
確定申告をした後にも住民税、事業税、翌年の所得税の前払いに相当する予定納税額が発生します。
確定申告の方法
確定申告は厳格なルールが定められ、書類の不備などのミスは許されません。そこで、確定申告書を税務署に提出し、納付することをゴールに、確定申告の方法について説明します。
事前準備をする
そもそも、確定申告は確定申告書、生命保険料控除証明書などの添付資料と合わせて税務署に申告をするものです。また、確定申告書の用紙に記入するための資料が帳簿です。そのため、確定申告書の用紙、添付資料、帳簿などの事前準備が必要になってきます。
帳簿を付ける
個人事業主には帳簿を付ける義務があり、所得の計算根拠になります。帳簿とは、売上、仕入、経費などの取引明細を記録するものであり、税法上のルールに則って記入しなければなりません。
確定申告書に記入する
確定申告書に記入する手順は次の通りです。
(1)帳簿をもとに決算書を作成する
決算書は確定申告書に転記するための資料であり、帳簿から集計した売上、仕入、地代家賃などの経費の明細と所得を記入します。
(2)決算書から転記する
決算書で計算した売上(収入金額)と所得を事業所得の欄に記入します。
(3)源泉徴収票から転記する
各項目を次の欄に記入します。
- 支払金額(収入金額)と給与所得控除後の金額(所得):給与所得の欄
- 社会保険料等の金額:社会保険料控除の欄
- 源泉徴収税額:所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額の欄
(4)源泉徴収票以外の所得控除を記入する
生命保険料控除証明書、社会保険料控除証明書などの添付する書類から各所得控除の金額に転記します。また、添付書類が不要な国民健康保険の金額も忘れずに記入しましょう。
(5)確定申告書の書式に沿って所得税を計算する
上記(2)の事業所得や上記(3)の給与所得を合算して合計所得を計算します。合計所得から所得控除を差し引いた課税所得に税率を掛けて年間所得税を計算し、源泉徴収税額を差し引いた残額が納付する所得税になります。
税務署に確定申告書を提出する
毎年3月15日の提出期限までに確定申告書を提出しなければなりません。提出方法は3通りあります。
- 税務署の窓口に提出する
- 郵送する
- 電子申告によりオンラインで送信する
納付期限までに税金を納める
前述の通り、所得税は納付期限までに税金を納める必要があります。税金の納め方は3通りあります。
- 現金払い
- 振替納税(所得税を口座から自動引き落としされます)
- クレジットカード納税
また、納めるべき所得税の2分の1までの範囲で、納める時期を5月31日まで先延ばしにできる延納という制度を利用することができます。ただし、金利に相当する利子税を負担しなければなりません。
開業1年目にできる節税対策の基本
税金を納める段階になって節税対策の必要性を痛感する個人事業主は多い傾向にあります。そこで、開業1年目にできる節税対策について紹介します。
経費をたくさん計上する
そもそも所得は「売上-仕入-経費」で計算し、所得の圧縮が節税につながります。そのため、支出した諸経費のうち、できるだけ多く税法上の経費に計上することが節税対策の基本になります。
青色申告承認申請書を提出する
経費をたくさん計上するためには、青色申告の特典を利用することが必須になります。そのためには、事前に青色申告承認申請書を提出しなければなりません。おもな青色申告の特典は次の通りです。
- 青色申告特別控除:最大65万円の所得控除ができる
- 青色事業専従者給与:特例として、家族に対する給料が経費に計上できる
- 損失の繰越控除:初年度の赤字分が翌年以降3年間の所得から控除できる
売上の計上をできるだけ先延ばしにする
できるだけ売上の計上を先延ばしにして、所得を圧縮する方法が検収基準を用いることです。
たとえば、商品の発送日と納品日がその年の12月中、得意先の検収が完了したのは翌年1月中とします。検収した日で売上計上をすれば、所得の計上も翌年まで先延ばしにすることができます。ただし、取引先単位で毎年検収基準を継続することが条件になります。
税金の知識をしっかりと身に付ける
節税対策を実施するためには、税金の知識をしっかり身につけることが必須です。前述の売上の計上基準である検収基準を例にしましょう。「取引先単位で毎年検収基準を継続する」という検収基準の条件を知らないと、後日税務調査で否認され、所得税など税金が増額されるリスクがあります。
確定申告で支払った消費税を取り戻す
「取引先などに支払った消費税(仕入税額)>売上に伴い預かった消費税(売上税額)」の場合、確定申告をすることにより、余分に支払った消費税の還付(返金)を受けることができます。
消費税の還付が受けられるケース
「仕入税額>売上税額」になるケースはおもに次の通りです。
- 輸出業:輸出売上は消費税が免除され、売上税額が0円のため
- 設備投資など多額の初期投資をした場合:多額の仕入税額を計上することができるため
消費税の還付を受けるための手続き
消費税の還付を受けるためには、消費税の納税義務者となり、初年度から免除を受けないことが条件です。そのため、自ら課税事業者を選択する必要があり、初年度の場合は「課税事業者選択届出書」を開業した年のうちの提出する必要があります。
還付を受けることで反って損することもアリ
消費税の還付を受けることで、トータルで納める税金が増える可能性があります。おもなケースは次の通りです。
(1)多額の初期投資をした場合
課税事業者を選択すると、「2年または3年縛り」により、翌年以降も消費税を納めなければなりません。そのため、「初年度の還付を受けた消費税<翌年以降に納める消費税」の場合には、トータルで納める税金が増えてしまいます。
(2)手続きミス
輸出業などが課税事業者選択届出書を提出期限までに提出しないと課税事業者となれず、消費税の還付を受けることができません。
まとめ
節税対策には、「税務調査で否認されるリスク」や「トータルで納める税金が増えるリスク」が伴います。しかも、税法のルールは細かいのが特徴です。そのため、税金の知識について不安を感じるなら専門家に相談することをおすすめします。