起業ブームにより、会社設立の注目度が高まっています。介護事業など業種によっては許認可の申請に法人格が条件の場合があります。しかし、必要書類の作成などの複雑な手続きをクリアしなければなりません。そこで、開業後の事業活動をスムーズにする株式会社設立、合同会社設立の流れについて徹底解説します。
- 商号(社名)を決める
- 会社の印鑑 を作る
代表者印(法人実印)、銀行印、社印(角印) - 発起人の印鑑証明書 を入手する
- 必要な書類を用意する
登記申請書、登録免許税納付用台紙、定款、資本金・出資金の払込証明書 など - 公証役場で定款認証 を受ける
- 出資者の銀行口座に資本金•出資金を振り込む
- 法務局 に申請する
開始手続き
(登記簿謄本を用意する)
(金融機関を選ぶ)
(自宅開業の場合を除く)
申し込み
「会社設立の流れ」と「開業後に必要なこと(一部)」
会社設立することで得られるメリット
会社の設立にはそれなりの時間と手続きが必要な上、一連の必要な手続きを専門家に依頼する場合には別途費用がかかります。
しかし、手間がかかっても、以下に挙げるように、事業を法人化することで得られるメリットは少なくありません。
(1)社会的信用が得やすい
株式会社でも合同会社であっても、法人と名が付く事業団体は必ず登記されています(詳細は次章)。
登記簿には会社(法人)の名称や所在地、代表者や事業内容などが記載されており、法務局で請求すれば誰でも見ることが可能です。
これらの情報が公になっていることで、社会的信用は一定程度担保できるといえるでしょう。
(2)節税対策ができる
個人事業では所得税を納めるのに対し、法人では法人税を納めます。
実はこの所得税と法人税の税率には違いがあります。個人における事業所得税最高税率は45%ですが、法人事業税税率は年間所得が800万円以下なら15%、800万円を超えた部分でも最高で23.4%なのです。
単純計算ですが、年間の事業所得が330万円以上あれば法人税のほうが納付額が安くなります。
(3)有限責任となる
「法人」とは、人や財産から成立する組織に法律によって『人格=権利能力』が与えられたものの総称です。会社という組織は、実際は人々が動かしていますが、それらは個々人を離れ「会社」の行為となります。同様に会社が築いた財産と、会社を動かす個々人の財産も法律上別個の財産となるのです。
したがって、もし会社が債務を抱えて倒産しても、経営者は出資金は失うものの、自身の財産で会社の債務を弁済する義務はありません。これが有限責任であり、事業を法人化するもっとも大きなメリットといえるものです。
ただし、現実的には融資を受ける際に経営者自身が保証人になったり、悪質な支払い義務逃れには法人格が否認されたりなどして、個々人が弁済義務を負うことになるケースがあることに注意が必要です。
会社設立と開業手続きの方法
会社設立の流れ
法務局で法人格して認められることをゴールに会社設立の流れを見ていきましょう。
(1)発起人を決める
まず、発起人を決めなければなりません。発起人とは、主に会社設立の手続きをする人を指します。この発起人が主体となって会社設立を進めていくため、最初に決定する必要があります。発起人は会社設立後、出資した資本金の金額に応じて株式が発行され株主になります。最低でも、1株以上引き受ける必要があります。
なお、発起人は1名以上いれば人数に定めはありません。必要な資格もなく、仮に未成年であっても発起人になることが可能です。
(2)商号を決める
商号は会社の明暗を左右することもあり、慎重に決める必要があります。また、株式会社や合同会社など法人の組織形態もこのタイミングで決めましょう。
(3)事業目的を定める
事業目的を定めます。事業目的は法務局で認めてもらう必要があるため、慎重に決めましょう。誰が見ても理解できる内容にするのがポイントです。抽象的な目的を避け、具体的な内容にしましょう。もちろん法律に触れる事業内容も認められません。事業目的の決め方については、後述の「会社設立をスムーズにするポイント」の「事業目的の決め方」で詳しく説明します。
(4)本店所在地を定める
事業所の住所である本店所在地を定める必要があります。法律上の住所とイメージしてください。本店所在地は、実際の活動場所と異なっても問題ありません。例えば家で事業活動しなくても、自宅を所在地にすることが可能です。ただし移転する場合、登記の変更手続きを行う必要があります。長期的に活動する場所にしておくことをおすすめします。
(5)資本金を決める
2006年に施行された新会社法により、現在は資本金1円でも会社設立が可能です。しかし資本金は会社の力の証明になるため、まとまった金額が望ましいでしょう。資金調達する場合も、資本金が確認されます。会社設立直後の資金調達では、決算書がまだないわけですから提出することができません。資本金が重要な判断材料になります。
一般的に、利益がなくても3カ月間会社を運転できる金額が理想と言われています。
(6)会社の印鑑を作る
会社の印鑑はおもに次の通りです。
- 法務局に申請する「代表者印=法人実印」
- 銀行印
- 社印=角印
法律上、銀行印や社印の作成は義務付けられていませんが、経理業務の効率化などのために代表者印と別にすることをおすすめします。
(3)発起人の印鑑証明書を入手する
会社設立の書類作成には、創業メンバーである発起人の実印と印鑑証明書が必要になります。
(4)必要書類を用意する
会社設立の必要書類はおもに次の通りです。
- 登記申請書
- 登録免許税納付用台紙
- 定款
- 資本金・出資金 の払込証明書
- 発起人の決定書(「東京都渋谷区」など定款で本店所在地を最小行政区画までしか記載していない場合に限る)
- 取締役の就任承諾書(複数の取締役がいる場合は、別途「代表取締役の就任承諾書」が必要)
- 取締役の印鑑証明書 (ただし、取締役3名以上で構成される取締役会設置会社は代表取締役の印鑑証明書のみ必要)
- 印鑑届書(代表者印の登録台紙)
- 登記事項(商号、資本金、本店所在地など)を記載した「OCR用申請用紙」または「CD-RかFDの磁気ディスク」
(5) 公証役場で定款認証を受ける
株式会社、一般社団法人、一般財団法人は定款について公証人の認証(承認) を受ける必要があります。収入印紙代4万円が免除される電子定款をおすすめします。なお、合同会社は定款認証が不要です。
(6) 定款認証後に出資者の銀行口座に資本金・出資金を振り込む
振込履歴の記載された通帳コピーが資本金・出資金の払込証明書となるためです。たとえば、山田太郎がお金を振り込む場合、「ヤマダタロウ」で印字され、出資者が確認できることがポイントになります。
(7)法務局に申請する
本店所在地を管轄する法務局 (電話やインターネットで確認可能)で申請をし、承認されれば会社設立が完了します。
開業手続きですべきこと
会社設立後、次の開業手続きが必要になります。
(1)税務上の手続き
税務署と自治体に対して開業届 を提出する必要があり、法人が事業活動をしていることの証明書になります。
税務署には、会社設立2カ月以内に「法人設立届出書」を提出しなければなりません。また、給与の支払いが発生するため、「給与支払事務所等の開設届出」も必要です。
自治体への法人設立届も忘れずに行いましょう。地方税に関する手続きは自治体の法人事業課で行うからです。
(2)社会保険の開始手続き
法人の場合、役員1人でも社会保険は強制加入です。こちらの届出は、管轄の年金事務所にて会社設立後5日以内に行わねばなりません。しかし揃えるべき書類の量は税務上手続きのそれよりかなり多いため、設立前からしっかり準備しておく必要があります。
(3)許認可の申請
法務局から入手した登記簿謄本などを用意して許認可の申請をしましょう。業務遂行に際し自治体・官公署からの許認可が必要な業種は多岐に渡ります。主な業種として、介護事業所・運送業・建設業・不動産業・旅館業(都道府県知事)、酒類販売(税務署長)、飲食業(保健所長)などがあります。一部許可には、許可を得るためにさらに複数の官公庁への届出が必要だったり、多くの条件が課されたりするものがあるため、こちらも設立前からの準備が欠かせません。
公的手続き以外にすべきこと
事業遂行で必要なことについて説明します。
(1)法人口座開設
法人口座の入出金に必要であり、金融機関を慎重に選ぶ必要があります。
(2)物件探し
特に会社員が起業する場合、法人の場所を「新たに物件を探す」または「自宅にする」の選択は重要です。
(3)創業融資の申し込み
飲食店など初期投資が多額になる業種は創業融資による資金調達の成否が事業の明暗を分けます。専門家に事前相談するなどして早めに対策を立てましょう。
会社設立においては誰に相談する?
以上のように、会社を設立し、かつスムーズに業務を開始するためにはかなりの手間と時間がかかります。そのすべてを設立者が行うことは難しいかもしれません。会社設立に必要な行為の全て、或いは一部を専門家に任せることも考えておきましょう。
(1)司法書士
司法書士は登記の専門家なので、設立登記に関する相談及び実務を行っています。ただし登記といっても不動産登記と法人設立登記とは手続きが異なるので、商業登記を専門とする司法書士に相談するようにしましょう。登記に必要な書類を全て整えてくれます。
会社は、役員や事務所所在地などに変更があればその旨速やかに登記しなければならないため、信頼のおける司法書士がいれば設立後も安心して相談にのってもらえます。
(2)税理士
開業時の税務上の手続きに加え、年度ごとの事業所得税の申告を滞りなく済ませるために、会社経営を続ける限り、税理士とも長い付き合いになります。こちらも法人税に詳しい税理士に依頼するようにしましょう。
他にも、保険関係は社会保険労務士、許可申請が必要な業種なら行政書士など、それぞれの手続きに専門家がいるので、必要に応じて相談や手続き依頼ができます。
いずれも費用はかかりますが、経営に専心するためにも、ある程度は専門家に任せてみてもよいでしょう。
コスト・機会損失を最小限にする会社設立
会社設立のやり方でコストや機会損失の度合いが違ってきます。機会損失とは、「〇〇をしなかったことにより得られなかった利益」のことを指し、事業開始の遅れによりチャンスを逃すことは避けたいところです。
資本金を適正額に設定する
資本金とは、出資を受けた金額のことを指し、会社の体力、規模、信用を示す指標であり、優遇税制の基準にもなります。たとえば、設立時に資本金1,000万円以上なら消費税の課税事業者となり、初年度から納税しなければなりません。そのため、免税事業者として節税するためには、資本金1,000万円未満で設立するのが鉄則です。
適切な物件を選ぶ
物件の場所はコストまたは機会損失の度合いに影響し、物件探しの基本は次の2通りになります。
- コスト重視:裏路地など家賃の安い場所(Web制作など立地場所に左右されづらい業種向き)
- 機会損失の回避重視:立地場所がよく、高めの家賃には目をつぶる(飲食店などリアル店舗向き)
青色申告を申請する
青色申告とは、複式簿記で記帳した帳簿から正しい所得金額や法人税を計算して申告することを指します。もう一つの方法の白色申告よりも申告内容の信ぴょう性が高いため、税制上の特典が設けられています。その一つが「繰越欠損金」であり、初年度の赤字分を翌年度以降10年間の所得金額から控除することができます。たとえば、1期目の赤字が300万円とします。青色申告の場合、2期目の黒字が400万円なら所得金額は「黒字400万円-1期目の赤字300万円=100万円」に相殺可能です。しかし、白色申告の場合、赤字300万円を翌年度以降に利用できません。
役員報酬を適正額に設定する
役員報酬の設定額 は事業活動に影響します。その一つが支給額に課税される税金や社会保険などのコストです。
会社設立をスムーズにするポイント
会社設立から事業活動の開始までの間を最短にするポイントを解説します。
法人口座開設を確実にする方法
法人口座開設を確実にするためには銀行に信用を得ることが必要であり、具体的なポイントは次の通りです。
(1)資本金・出資金は一定額以上
あまりに少額の場合には事業に必要な自己資金が不足していると判断されるためです。
(2)シェアオフィスまたはバーチャルオフィスを本店所在地にしない
簡単に移転できる環境であり、振り込め詐欺などの犯罪の温床になると考えられるためです。
(3) 会社の電話は固定電話が鉄則
銀行は携帯電話よりも固定電話のほうが信用できると考えているためです。
まとめ
会社設立の目的は事業活動を円滑にするためであり、手続き自体に労力をかけすぎてしまうのにも問題があります。確かにすべての手続きを自力ですれば、手数料の削減につながりますが、経営者なら外部にお金を支払ってでも、時間とノウハウを買い取る考え方が求められます。まずは専門家の無料相談サービスを活用してはいかがでしょうか。