順調に売り上げを伸ばしてきた個人事業主にとって、税金の支払い額に大きな差が出てくるのが、売上1,000万円を超えた時です。それは、消費税が関係してくるからです。
では、いったいどれぐらいの消費税を支払う必要があるのでしょうか。ここでは、個人事業主と消費税の関係や、サラリーマンとの違いなどについて詳しく解説します。
個人事業主で売上が1,000万円を超えたら、消費税に注意
消費税を納めなければならない個人事業主とは
個人事業主には、消費税を支払う必要のある人と必要のない人がいます。消費税を支払う必要のある人を消費税の「課税事業者」、消費税を支払う必要のない人を消費税の「免税事業者」と呼びます。では、どのような個人事業主が、消費税の課税事業者になるのか、その要件を見ていきましょう。消費税が課税される要件は、次のどちらかを満たす場合です。
- 前々事業年度(年度)の売上が1,000万円を超える場合
- 前事業年度(年度)の上半期日の売上が1,000万円を超えるまたは給料総額が1,000万円を超える場合
要件を見てわかる通り、売上が1,000万円を超えたからといって、その年から消費税を納めるわけではありません。2年後、もしくは1年後から消費税を支払う義務が発生します。これは、消費税を支払うための準備期間を設けたものです。
また、開業1年目については、前々事業年度(年度)や前事業年度(年度)がありません。
そのため、上記2つの条件を満たすことがないので、課税事業者にはなりません。なお、まだ消費税の課税事業者でない人が上記の判定をする場合、売上1,000万円は税込金額で考えます。
消費税の課税事業者になったら
消費税の課税事業者になったら、するべきことが2つあります。それが「届出書の提出」と「帳簿書類の保存」です。それぞれ見ていきましょう。
①届出書の提出
個人事業主が消費税の課税事業者になったら、「消費税課税事業者届出書」を所轄の税務署に提出する必要があります。この届出書は、税務署に課税事業者になったことを知らせるためのものです。提出期限は「速やかに」となっています。通常は、売上が1,000万円を超えた年に提出しますが、提出を忘れた場合はそれ以降でも問題ありません。
②帳簿書類の保存
消費税の課税事業者は、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿及び請求書等の両方を7年間保存する必要があります。詳しい消費税の仕組みは後述しますが、税務署に納める消費税の金額は、簡単に言うと、売上で預かった消費税から、仕入や経費にかかった消費税を差し引いた差額を支払います。
帳簿や請求書などの保存がされていないと、仕入や経費にかかった消費税を認められず、その分納める消費税の金額が大きくなってしまいます。消費税の課税事業者になったら、請求書などを紛失しないように注意する必要があります。
売上が1,000万円を超えたら知っておきたい消費税の制度
消費税の基本的な考え方
納める消費税の金額は、売上で預かった消費税そのままの金額ではありません。仕入や経費にかかった消費税を差し引くことができます。消費税の納付額の基本的な考え方は、以下のとおりです。
- 売上など収入の取引の中から、預かった消費税の金額を計算する。
- 仕入や経費などの支出の取引の中から、支払った消費税の金額を計算する。
- 預かった消費税の金額から、支払った消費税の金額を差し引き、消費税の納付額を計算する。
具体例)売上3,240,000円、仕入1,080,000円、経費648,000円 消費税8%の場合
- ①売上の消費税 3,240,000円×8/108=240,000円
- ②仕入や経費の消費税 (1,080,000円+648,000円)×8/108=128,000円
- ③消費税の納付額 ①240,000円-②128,000円=112,000円
※実際の消費税の計算は、もう少し複雑になります。
消費税の簡易課税制度とは
消費税の原則の計算方法(本則課税といいます)では、一つひとつの売上や仕入・経費の消費税の金額を計算する必要があり、時間や労力がかかります。そこで、規模の小さい事業者には、簡便な計算方法である「簡易課税」を用いて消費税の納付額を計算することが認められています。
ただし、簡易課税は、すべての個人事業主が選択できるわけではなく、選択できる事業者は、次のすべての要件を満たす必要があります。
- 前々事業年度(年度)における課税売上高が5,000万円以下であること
- 簡易課税を適用する課税期間開始の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署に提出していること
簡易課税は、簡単にいうと、売上にかかる消費税だけを使って消費税を計算する方法です。簡易課税の計算の基本の考え方は次のようになっています。
- 売上など収入の取引の中から、預かった消費税の金額を計算する。
- 1.で計算した預かった消費税の金額に、みなし仕入率を乗じて、支払った消費税の金額を計算する。
- 計算した預かった消費税から、簡易的に計算した支払った消費税を差し引き、消費税の納付額を計算する。
具体例)売上3,240,000円、仕入1,080,000円、経費648,000円 消費税8%の場合 みなし仕入率80%
- ①売上の消費税 3,240,000円×8/108=240,000円
- ②仕入や経費の消費税
①で計算した売上の消費税に、みなし仕入率80%を乗じて、仕入や経費の消費税を計算します。240,000円×80%=192,000円 - ③消費税の納付額 ①240,000円-②192,000円=48,000円
みなし仕入れ率については、以下の国税庁のホームページをご参照ください。
このように、本則課税と簡易課税では、納める消費税の金額が異なります。ただし、いったん簡易課税を選択すると、2年間継続する必要があります。どちらが得になるのかを事前にしっかりとシミュレーションしておくことが重要です。
収入が1,000万円のサラリーマンと個人事業主の違い
収入が1,000万円を超えてもサラリーマンは消費税がかからない
では、収入が1,000万円を超えた場合、サラリーマンと個人事業主では、どのような違いがあるのでしょうか。大きな違いの1つに給与の収入が1,000万円を超えても、サラリーマンは消費税を納める義務がないということです。実は、消費税の対象となる売上は、次のように決まっています。
「国内において、事業者が事業として対価を得て、資産の譲渡等を行った場合に消費税の対象となる」
例えば、個人事業主がお店で商品を販売した場合は、国内で事業として代金を受け取る代わりに、商品を販売しているので、この売上は消費税の対象となります。一方、サラリーマンの場合はそもそも事業を行っていないため、給料の収入には消費税はかからず、国に納める消費税の金額もありません。
年収1,000万円なら個人事業主、サラリーマンどちらがお得?
では、消費税を納める必要がないから、サラリーマンの方が得なのでしょうか。実は、一概にはそうとも言えません。それは、個人事業主とサラリーマンで経費の考え方が違うからです。
個人事業主は、事業にかかった経費はすべて経費として認められます。しかし、サラリーマンは原則、経費は認められません。代わりに一定の控除(給与所得控除)が認められています。例えば、年収が1,000万円を超えると、年収がいくら高くなっても220万円の給与所得控除しか認められません。
では、具体例で比較してみましょう。
・サラリーマン 年収1,080万円、給与所得控除220万円の場合
この場合の所得税率は、23%-控除額636,000円です。
・個人事業主 年収1,080万円 経費540万円の場合
この場合の所得税率は、20%-控除額427,500円、消費税の納付額は40万円です。
納める税額 所得税652,500円+消費税40万円=1,052,500円
国に治める税金だけを考えると、消費税がかかったとしても、個人事業主の方が低くなります。実際には、この他にも住民税や社会保険料なども考慮する必要があります。
個人事業主とサラリーマンの大きな違いは、経費の考え方です。今回は年収1,080万円で計算しましたが、サラリーマンの場合、年収2,000万円だとしても、給与所得控除は220万円しか認められません。
税金を差し引いた手取りで考えるとサラリーマンの方が大きくなりますが、例えば、個人事業主の場合は、生活費から支払った雑誌代が事業との関連性が認められれば、経費にできます。経費になるかどうか、税金がどうなるか、社会保険料の金額はどうなるのかなど、あらゆることを考えないと、一概にどちらが有利とは言えないでしょう。
まとめ
個人事業主で売上が1,000万円を超えると、消費税がかかります。そのため、届出書の提出や帳簿書類の保存はもちろんのこと、普段から納税資金の確保のことも考えておく必要があります。サラリーマンの人で年収が1,000万円を超える場合などで、独立するかどうか迷っている場合、税金だけでなく、経費のことも考えて判断する必要があります。その場合は、一度税理士などの専門家に相談してみると良いでしょう。