個人で事業をしていると、商売をするためにさまざまなものを使います。中には、家族名義の不動産や自動車などを事業で使うこともあるでしょう。では、これら家族名義の経費や収入はどう取り扱われるのでしょうか。ここでは、個人事業主の家族名義の経費や収入の取り扱い、税金との関係について、詳しく解説します。
個人事業主の収入になるものとは 個人事業主の収入の考え方
まず、個人事業主の収入について見ていきましょう。所得税では、収入の発生原因に応じた課税方法を採用できるように、1年間の収入をその収入の種類に応じて、10種類の所得に区分して所得税を計算します。例えば、サラリーマンなどの給与から生じる「給与所得」や個人事業主の事業から生じる「事業所得」、土地や建物を売却した場合の「譲渡所得」などです。
事業所得に該当する収入とは、対価を得て継続的に行う事業から得る収入のことで、建設業や製造業、卸売業や小売業などで、おおよそ多くの人が事業と考えている業種が含まれます。1年間の収入を10種類の所得に区分することと、事業所得の収入の考え方が、後述する家族名義の収入の取り扱いに大きく影響します。
個人事業主の経費になるものとは 個人事業主の経費の考え方
個人事業主の経費になるもの
次に、個人事業主の経費になるものを見ていきましょう。個人事業主の経費になるものとは、事業所得の経費になるもののことです。事業所得の経費になるものとして、大きく次の4つの種類があります。
- 売上に対する仕入(売上原価)
- 売り上げを得るため直接に要した費用の額
- その年における販売費、一般管理費
- 業務について生じた費用
売上に対する仕入(売上原価)や売り上げを得るため直接に要した費用の額は、例えば、販売商品の購入費や発送費などです。その年における販売費、一般管理費とは、水道代や電気代、事務用品や備品の購入代金などです。業務について生じた費用とは、例えば、売掛金の未回収に対する貸倒損失や業務上の損害などです。
つまり、事業に関係があると認められる支出のみを、事業所得の経費にすることができます。
プライベートと共用のものは按分計算が必要
上述した通り、事業所得の経費になるものは、大きく分けて4種類あります。所得税法では、それ以外に注意すべきものとして、家事費と家事関連費を規定しています。
家事費とは、個人が生活をするために支出する費用のことです。例えば、家族の食事やアパートなどに居住するための家賃など、事業と関係ない支出は経費にすることができません。
家事関連費とは、家事費と事業の経費になる支出が混在した費用のことです。例えば、店や事務所兼住宅の水道代や電気代、支払家賃などが該当します。
これらの経費も原則は、事業所得の経費にすることができません。ただし、家事費になる部分と事業の経費になる部分を明確に区分し、明らかにした場合は、事業の経費になる部分のみ経費にすることができます。
この事業の経費になる部分を区分し、明らかにするために用いるのが、按分計算です。使用時間や建物の床面積の比率などを用いて、計算します。
例えば、家の家賃が10万円、家の総床面積300㎡、事務所として使っている部屋の面積150㎡の場合、家の総床面積の50%を仕事に使っているため、家賃10万円の50%である5万円を経費にすることができます。
家族名義の収入や費用はどうなる?
では、いよいよ本題の家族名義の収入や費用がどうなるのかを見ていきましょう。
家族名義の収入の考え方
まずは、家族名義の収入の考え方です。家族名義の収入とは、具体的には、家族名義の口座に振り込まれた収入のことです。
通常、継続している取引先であれば、個人事業主名義の口座を作って、やり取りを行います。しかし、一時的な取引先に振込先銀行を指定されていたり、手数料がかからない口座を選択する必要があったりして、家族名義の口座に売上代金が振り込まれるということがあります。この場合、家族の名前であっても、個人事業主の収入になるのでしょうか。
結論から言うと、個人事業主の収入に含める必要があります。これは、あくまで家族の銀行口座を借りているだけで、実態は個人事業主の事業の収入だからです。もちろん、家族名義の口座に振り込まれたものがすべて、個人事業主の収入になるわけではありません。例えば、家族がパートで働き、そのパート先からの給料収入はパートで働いた家族の収入です。実態は誰の収入なのか、それが事業の収入なのかなどによって、家族名義の口座に振り込まれた収入が、個人事業の収入に含まれるかどうかが決まります。
家族名義の費用の考え方
次に、家族名義の費用について見ていきましょう。家族名義の費用を見ていく前に、生計を一にしている親族に支払った支出が経費になるのかどうかを確認しておきます。例えば、家族が持っている土地や建物を個人事業主が家族から借りて、家族に対して家賃を支払った場合などです。
生計を一にしている親族の場合、これらの支払いは経費にすることができません。生計を一にしている親族への支払いは、自分で金額を決めることが可能です。これを認めてしまうと、利益が出たので家賃を高くしようといった、利益調整を行う可能性が出てきます。そうしたことを防ぐために、生計を一にしている親族への支払いは、経費として認められません。逆に、家賃を受け取った家族も収入として認められないので、受取分に関して税金を支払う必要はありません。
では、家族名義の費用とはどのようなものでしょうか。これは、家族が所有している資産を事業に利用している場合で、第三者に支払うべき金額がある場合の、その支払いのことです。結論からいうと、家族名義の収入と同じように、家族名義の費用も個人事業の経費として認められます。
これは、あくまで名義が家族になっているだけで、実態は、個人事業主名義の資産と同じように、個人事業主が事業のために使用しているからです。
例えば、家族名義の車を個人事業主が100%事業でのみ使っていたとします。この場合の自動車にかかる経費は、すべて経費になります。燃料費や車のメンテナンスの費用はもちろんのこと、自動車税も経費になります。自動車税だけでなく、土地や建物の固定資産税や、家族名義の携帯電話を仕事で使っていた場合の電話代なども経費として認められます。
ただし、名義が個人事業主本人のものではないため、事業で使っていることを証明できる証拠書類などを保管しておく必要があります。自宅兼事務所であれば、仕事場が存在するので、事業で使っている証明は簡単にできるでしょう。自動車や携帯電話を使用する場合は、使用履歴やカード明細など、仕事で使っていることが分かる書類を残しておきます。
家族名義の自宅や自動車などにかかった事業に関係する支出は経費になりますが、仕事とプライベートで兼用している場合は、按分計算をし、事業で使った部分だけが経費になるので注意が必要です。
まとめ
個人事業主の家族名義の経費や収入は、個人事業の経費や収入になります。そのため、確定申告時には忘れずに計上することが必要です。収入の計上漏れがあれば、税務調査などで指摘の対象になり、延滞税などのペナルティが課される可能性があります。また、経費の計上漏れがあれば、その分、利益が大きくなり、税金を高く支払うことになってしまいます。ぜひ、この記事を参考に、確定申告時には、正しい収入と経費の計上を行いましょう。